「社会的ジレンマ」はなぜ起こるのか 環境問題における個人と社会の合理性

夕景の工場

社会や環境問題を考えるうえで「社会的ジレンマ」は避けて通ることができない。なぜ避けるのが難しいのだろうか。私たちの身の回りにどのようなジレンマがあるのかを具体例を混じえて、社会的ジレンマが起こる原因とその解決法を紹介する。

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2021.01.31
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社会的ジレンマとは

会議中のディスカッション

Photo by Headway on Unsplash

「社会的ジレンマ」とは、社会のなかで個人が協力的か利己的かを選択できる状況下で、個人にとって合理的な選択をすると、社会にとって非合理な結果となってしまう状況を指す。

社会的ジレンマの例は税金だろう。わたしたちが社会人になると払っている税金は、個人の選択としては払わないのが合理的だ。しかし、社会全体からすると国の財政は成り立たなくなり、回り回って結局は自分にとって不都合な状態に陥ることになるだろう。

環境問題における社会的ジレンマの原因と対策

社会的ジレンマは環境問題にも起こっている。なぜ社会的ジレンマは起こってしまうのだろう。具体的な事例で見てみよう。

ホテルで電気を消さずに部屋を出る

ホテルからチェックアウトするときや長時間の外出をするときに、部屋のエアコンをつけっぱなしにしてしまう人は7割。これは1997年に京都で開催されたCOP3(気候変動枠組条約第3回締約国会議)の参加者が宿泊するホテルで行った調査結果だ(※1)。

翌年、一般客と同様の調査が行われたが結果は同じだった。環境問題について話し合う国際会議の参加者でさえ、一般客と変わりなかった。自宅なら電気料金として自分に跳ね返ってくるのが、宿泊料金に電気使用量も含まれているホテルでは意識が希薄になる。

雨の日に車を使う

雨が降っているし、急いでいるのでマイカーで出勤したがみんながそうしているので道は大渋滞。結局、遅刻した。さらに大気汚染もひどくなった。

ごみを分別せずに捨てる

分別は面倒くさいので、燃えないごみや資源ごみを燃えるごみと一緒に出す。ごみを出す人はラクだが、全体のごみの量は増える。分別されていないため、資源のリサイクルもできない。

ごみの処分には税金が使われているが、分別せずにごみの量が増えると税金を無駄に使っていることになる。

社会的ジレンマが起こる原因

社会的ジレンマは、個人の合理性と社会的な合理性が乖離していることから起こる。人は自分の行動が社会に与える影響を小さく考えてしまう傾向がある。自分だけが行動しても大した影響はないし、反対に自分だけがきちんと行動しても問題の解決にはつながらないと考えてしまう。

自分以外の他の人がきちんとしているなら、それにタダ乗りした方が手間や時間がかからないので合理的だと思うからだ。

そのため、悲劇的な結果を予想することはできても、結果を回避するのは難しい。地球温暖化をはじめとする環境問題は、このような一人ひとりの行動が累積して生じている。

社会的ジレンマの解決策

ルービックキューブを触る人

Photo by Olav Ahrens Røtne on Unsplash

社会的ジレンマを解決するアプローチには2つの方法がある。1つはシステムや制度を新しく構築し社会の構造を変えること、もう1つは教育によって個人の考え方や意識の変容を促すことだ。

ごみの問題に関しては、日本には循環型社会形成推進基本法や容器包装リサイクル法、家電リサイクル法、自動車リサイクル法、食品リサイクル法、建設リサイクル法、小型家電リサイクル法などの法律が定められている。

それぞれの自治体でごみ処理に対する考え方は異なる。住民の手間をできるだけ少なくし多くの住民に協力してもらうことを考える自治体もあれば、あえて手間を感じてもらうことで住民にごみ問題を自分ごととして考えてもらおうとするところもある。

温室効果ガスの削減量は個人には見えにくいが、ごみの問題は行動と結果の関係が見えやすい。自治体も住民側も実感を伴いやすいだろう。

社会的ジレンマの解決には、そこに参加する私たちの規範意識が求められるがそれだけでは不十分である。システムの構築も欠かせない。

車の利用者を減らすなら一部の国で実施されているカープールレーンは解決策となるだろう。カープールレーンとは一定の条件を満たした車両だけが走行できるレーンのことで、違反車両には高額の罰金が課せられる。

川沿いの道路を走る車

Photo by Andrew Petrischev on Unsplash

大気汚染を減らすという観点なら、ガソリン車の販売をやめるとこれはすでに世界の大きな流れとなっており、日本でも2030年半ばにはガソリン車の新車販売が取りやめられることが報じられている。

雪道や凍結した道でも安定した走行が可能なスパイクタイヤは、かつて大きな問題を引き起こした。この問題は最終的に使用を制限する法律が施行されたことで解決した。

ごみ出しの問題なら、分別されていない違法ごみは回収しないというのも1つの方法かもしれない。解決法は他の問題につながることもあるが、社会的ジレンマの原因が個人と社会の合理性が乖離していることにあるなら、仕組みそのものを変えてしまうのはよい方法と言える。

あわせて、一人ひとりに自らがとる行動の結果を目に見えるようにし自分ごと化する仕組みづくりも必要だ。

広く長い視点が脱社会的ジレンマにつながる

社会的ジレンマの解決は簡単ではない。しかし、これから私達が目指すべき社会は、日本人だけ、自分だけ便利ならよい社会ではない。

地球上のすべての人が等しく生活を享受できるような社会だろう。現在だけでなく、将来世代の人も生きていける社会にすることが大切だ。

※参照サイト
環境問題と社会的ジレンマ
http://www.bureau.tohoku.ac.jp/manabi/manabi9/mm9-45.htm
Title 米国における道路混雑対策-HOVレーンの成果と課題-
https://m-repo.lib.meiji.ac.jp/dspace/bitstream/10291/15855/1/shogakuronso_92_1_11.pdf

※1 電気の節約、わかっていてもなかなかできない社会的ジレンマ
https://yumenavi.info/lecture.aspx?GNKCD=g002746

※掲載している情報は、2021年1月31日時点のものです。

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