農作物を荒らす害獣として廃棄処分される獣に「革」としての価値を持たせるジビエレザー。ジビエレザーは他の動物の革製品と比べ、アニマルウェルフェア、サステナビリティの観点により深く基づいてつくられている。日本で製品開発が広がる背景や、獣皮ならではの魅力に迫る。
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ジビエレザーとは、鹿や猪、熊などの野生の動物の皮をレザーとして活用しているもののことをいう。革製品として使うための狩猟によるものではなく、害獣として駆除されるものや、害獣対策で食肉用として利用される野生動物の皮が活用されていることが特徴だ。
本来ジビエとは、フランス語で”狩猟で野生の生物の食肉”を意味する。ヨーロッパでは、自分の領地で狩猟ができるような上流階級しか手に入らない貴重なものとして、古くから伝わってきた食文化だ。
日本では獣肉食が禁止されていた江戸時代から野生鳥獣の狩猟や肉食の文化があったと言われており、1990年代からはフランス料理の食材として輸入されるようになった。
現在は、飲食店で鳥獣害対策として捕獲された鹿や猪の食肉がジビエ料理として親しまれるようになったが、皮については処分の過程で課題があり、廃棄処分されることが多いのが現状だ。
ジビエレザーには、加工用に家畜化された牛や豚とは異なり、それぞれ独特の質感の違いなどがある。狩猟により大きさや傷が異なる個体の皮を利用するため、ジビエ料理と同じく希少で高級なレザーだといえる。
Photo by Austin Distel on Unsplash
現在は一般では流通されていないジビエレザーだが、食肉用として活用される前の皮や、捕獲された野生動物の獣皮を仕入れて加工販売を行う民間企業や団体が存在する。
自然豊かな岡山県建部町を拠点とする建部獣皮有効活用研究所は、廃棄される獣皮を資源として活用することで、地域に新たな経済の循環を創ることを目指す団体だ。
同団体では「いただいた命を大切に使わせていただく」というコンセプトで、バッグ・財布などの小物製品の製作・販売を行っている。また、地域産業とのコラボレーションによるオリジナル商品の企画、獣皮の魅力を伝えるワークショップの開催など、活動は多岐にわたる。
このように、現在日本でジビエレザーを扱う企業・団体のほとんどは、獣皮を加工させることで利益を産む資源に循環させ、サスティナビリティへの取り組みや、地域の活性のための活動を行っている。
農林水産省によると、平成30年度の鳥獣による農作物被害金額は約158億円におよぶ。(※) 被害のほとんどは鹿や猪が田畑に進入し、食料を食べ尽くしてしまうことが原因だ。それらの動物は有害鳥獣として扱われ、年間約100万頭が捕獲・駆除される。農作物被害の問題と同時に、多くの命が山で廃棄や焼却処分されていることが社会問題になっている。
駆除された命のなかで、ジビエとして流通できているのはわずか10%。それらの皮は捨てられることが一般的だ。人々の生活を守るための駆除だと考えれば鳥獣の皮はただの廃棄物になるが、捨ててしまうのはもったいないことである。命を無駄にせず、皮を加工することで社会に循環させようという活動が少しずつ広がりはじめている。
日本で流通する、牛や豚をはじめとする動物は皮を取るために飼育することが禁止されている。食肉加工の過程で皮革を利用するという観点で、家畜を快適な環境下で飼育管理する”アニマルウェルフェア”の考え方に基づき革製品はつくられる。
皮革の製造に環境や動物愛護の考え方が重視されるなかでも、とくに鹿や猪の皮革製品はアニマルウェルフェアに配慮され、環境への負担が小さい製品だ。
例えば、ジビエレザーを購入することは農作物被害を減らし、農作物や生物の多様性を守るなどの自然環境に貢献することにつながっている。また、家畜の育成と異なり、生産の過程で飼料の育成やフンの処分する必要がなく、環境への負担も少ないといえる。
農業問題の解決や環境負担削減に結びつくジビエレザーには、一般に多く流通されている牛や豚とは違う魅力が沢山ある。これまで持ったことのない素材の革小物を選ぶことで、新たな世界を広げてみてはいかがだろうか。
野を駆け回る野生動物を捕獲してつくられる獣皮は、畜産で管理された動物の革に比べて傷や色むらなどが多くみられることが特徴だ。個体によっても大きさに違いがあり、ひとつひとつの特徴を活かして傷を付けないように大切につくられる。工業製品のように均一的ではないからこそ、製品ごとの深みを楽しむことができる。
獣皮には獣の種類によって質感や風合いに違いがあり、牛革や豚革とも異なる魅力がある。獣害のなかでもっとも捕獲量の多い鹿の皮革は、しっとりとした肌触りが特徴で、高級手袋の素材として使われる。猪は、毛穴が開いているため通気性がよく、摩擦や耐久性に優れている。丈夫でひっかき傷にも強いと言われている。
日本で狩猟を行える期間は、11月から2月までと決まっている。ジビエレザーの製造業者は希少である現在は、技術と設備を備えた専門家により、平均2ヶ月もの時間をかけてつくられている。ひとつひとつの製品にコストと時間がかけられている分、他の皮革製品よりも高価なものが多い。
牛や豚の製品では本来、革用の保湿クリームなどを使った手入れが必要だといわれている。鹿や猪の皮革は、牛や豚よりも柔軟性があり、頻繁にメンテナンスを行なうことなくしなやかさや、色鮮やかさをを保ち続けることができる。ジビエレザーは特別なメンテナンスをすることなく、長く使い続けたいという人におすすめだ。
ジビエレザーができるまでの過程には、「大切な命を使い切る」という想いが込められている。田畑を荒らす厄介な存在として駆除した野生動物の皮も、レザーとして価値を持たせることで社会に循環させることができる。また、さまざまなアイディアとかけ合わせた製品開発や、地域資源として活用することで地方活性化への取り組みにも貢献することができる。
このような背景に想いを馳せることは、私たちがものづくりを”製作者とともに考える”きっかけになる。ものを長く大切に使おうという意識改革にもつながるのではないだろうか。命に常に感謝する気持ちを持ちながら、これからもジビエレザーの持つサステナブルな可能性に注目したい。
※ 全国の野生鳥獣による農作物被害状況について(平成30年度)|農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/press/nousin/tyozyu/191016.html
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