「デカップリング」は「分離」「切り離し」を表す英単語である。なかでも近年、デカップリングは環境・金融・農業の各分野において、重要視されている。とくに環境におけるデカップリングは持続可能な経済成長と深く関わっており、社会が力を入れるべき問題に直結する。
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デカップリング(decoupling)とは、「分離」「切り離し」を表す英単語である。「連結する」を意味する「couple(ing)」に打ち消しの接頭語「de」をつけることにより、「カップリングを解消する、切り離す」となる。
言葉としてのデカップリングは、密接な関係にあるAとBを切り離し、非連動的に扱う言葉だ。現代社会では、とくに環境・金融・農業の分野で「分離」や「切り離し」を表す専門用語として扱われている。
切り離されるものは専門分野によって異なる。経済においては先進国経済と新興国経済、環境においては経済成長と天然資源の利用・環境への影響、農業においては生産と所得がデカップリングの対象だ。
共通するのはいずれの分野においても経済活動に関わっている項目がデカップリングされている点だろう。次項からそれぞれのデカップリングについて詳しく説明していく。
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環境分野でデカップリングが推進されているものは、経済成長とエネルギー消費である。エネルギー消費は天然資源の利用につながっている。
従来、経済成長とエネルギー消費は正比例の関係にあったが、デカップリングは経済成長を推し進めながらも、天然資源や環境の保護を目指す考え方だ。いわば経済成長と環境負荷を切り離したものである。
環境分野におけるデカップリングの成果の定義は、「経済成長の伸び率を下回る環境負荷の増加率」となる。資源の再利用や循環利用、いわゆる省エネに取り組むことが効果的な手法だ(※1)。
2001年には経済協力開発機構(OECD)環境大臣会合で「21世紀初頭10年間のOECD環境戦略」が採択され、うち1つの目標としてデカップリングが取り入れられている。(※1)
環境問題に対する意識が強い欧州では、再生可能エネルギーの導入や住宅の断熱化などにより、エネルギー効率を高め、天然資源を使う一次エネルギーの消費削減や温室効果ガスの減少に成功している。同時に関連企業の設立を推進し、雇用を生み出す経済面での成功も達成した(※1)。
日本では高度な排煙脱硫装置を開発・普及させることにより、経済活動で発生する硫黄酸化物量を大幅に減少させた。OECD加盟国内におけるデカップリング達成の好例である(※1)。
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金融分野におけるデカップリングは先進国と新興国の経済関係において用いられる。米国で発生したサブプライムローン問題を論じる際に多用され、広く知られるようになった(※2)。
金融のデカップリングは、基本的に先進国経済と新興国経済の非連動、つまり切り離された状態を指す。先進国の景気が停滞する一方、新興国が内需によって先進国と無関係に高成長しているような局面のことだ。また、この逆で先進国の好景気が新興国の停滞経済を支える現象を「逆デカップリング」と呼ぶこともある(※2)。
近年ではデカップリング論が見直される向きもある。本来非連動であるはずの先進国・新興国の経済間において世界的な大不況が連動したことが大きな原因だ(※3)。
また、トランプ政権によって提唱されていた米中関係のデカップリングも先行きは不透明なままである(※4)。経済のグローバル化が進んだ現代、単純な切り離し論だけでは測れない一面が生じつつあるのだろう。
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農業分野におけるデカップリングとは、生産が増えれば所得も増加するといった、生産と所得の関係を切り離すことを意味する。
具体的には、本来、農作物の生産に応じて農家が得るはずの所得を、生産とは関係なく政府が直接、農家に支払う制度のことだ。この制度は、1980年代にヨーロッパで深刻化した農作物の過剰生産が原因で、アメリカとの間で貿易摩擦が起きたことに端を発している(※5)。
日本では「直接的所得補償政策」とも呼ばれており、政府主導の政策の1つである(※6)。わかりやすい例が、米農家の減反に対する奨励金政策だ。稲作を行わない代わりに、その農家に所得を補償するものだ(※7)。
また、生産と切り離して、農業の持つ役割(国土・自然環境・景観の保全など)に対して、政府が農家に直接、支払いを行う交付金制度も農業におけるデカップリング政策である(※8)。
市場を通さない直接支払い制は、増収を見込むがゆえの増産に迫られなくてもいいという一面を持っている。世界的に農作物の過剰生産と価格の国際化が進むなか、国内の農作物の価格と農家の収入を保護する性質が特徴的だ。
しかし問題点もある。EU諸国では直接支払い制度の資格基準の認定方法や平等性に問題が生じ、見直しを迫られている(※5)。日本での減反政策の様な場合は、その仕組み上食糧自給率問題の懸念となる可能性もある。
環境、金融、農業に関するデカップリングをそれぞれ見てきたが、いずれも経済活動と切り離されることによって新たな方向性を見いだし、発展させる点が共通している。
とくに環境におけるデカップリングは発展の余地があると考えられる。ドイツの省エネルギーを実現させた方針が環境問題を解決に導きながらも、関係企業の設立で雇用を生み出し、経済面での成功をおさめたことは無視できない。
環境問題に配慮したビジネス、いわば環境ビジネスは拡大の一途をたどっている。そのなかに金融、農業も含まれることは想像に難くない。デカップリングは各分野で使われる専門用語であるが、それぞれが関連性を無視できない意味を持っているといえるだろう。
※1 第 2 章 低炭素社会の構築に向けて歩む世界の潮流|環境省
https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h20/pdf/1-1-2.pdf
※2 証券用語集|東海東京証券
http://www.tokaitokyo.co.jp/kantan/term/detail_0331.html
※3 金融・証券用語解説|大和証券
https://www.daiwa.jp/glossary/YST2911.html
※4 デカップリング?:日本人が知らない米中関係の真実|IFIS 株/投信コラム
https://column.ifis.co.jp/toshicolumn/skam-02/127137
※5 EUの直接支払制度の現状と課題|農林中金研究総合所
https://www.nochuri.co.jp/report/pdf/n0706re3.pdf
※6 経営所得安定対策|農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/seisaku_tokatu/antei/keiei_antei.html
※7 デカップリング|一般社団法人 中央酪農会議
https://www.dairy.co.jp/kidsfarm/kotoba/089Ite.html
※8 令和元年度の経営所得安定対策等の支払実績(令和2年4月末時点)|農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/kobetu_ninaite/keiei/r1_jisseki.html
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