参加者が各家庭でコンポスト化した生ごみを「COMMUNE 表参道」内の共同コンポストに持ち寄る「1.2 mile community compost」。仕かけ人は、生分解性ストローの販売・回収・堆肥化を中心に地域循環・資源循環をビジネスの面から推進する、株式会社4Natureだ。
二橋彩乃(Ayano Nihashi)
編集者/シニアハーバルセラピスト
2つの出版社で、デザイン、アート、暮らしなど多ジャンルの編集経験を経て独立。植物の魅力を広めるシニアハーバルセラピスト、メディカルハーブコーディネーター(JAMHA認定)としても活動中。…
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地域共同でコンポストをつくるプロジェクト「1.2 mile community compost(1.2マイル コミュニティ コンポスト)」は、2020年の8月に始動した。
拠点は「COMMUNE 表参道」。ここから半径1.2マイル(2km)以内を生活圏とするメンバー50名それぞれが、コンポスト化した生ごみを持ち寄る。
持ち寄った生ごみはそこでさらに熟成され、その土で屋上で野菜や植物も栽培する。ここでは生ごみがやがて口に入る食材になる、豊かな循環が生まれているのだ。
1期に応募した50名のうち、取材当日の作業に来ていたメンバー。(1列目左から)水野さん、4Natureの代表・平間さん、坂本さん、(2列目左から)坂尾さん、成川さん、土屋さん、若井さん、4Natureのプロジェクト担当・宇都宮さん
日本ではまだユニークなこの試みを起案したのが、株式会社4Nature(フォーネイチャー)代表の平間亮太さんだ。
4Natureは2018年、平間さんが台湾の友人から紹介された「サトウキビストロー」を扱う会社として設立した。サトウキビストローとは、サトウキビの残渣(バガス)とジャガイモやトウモロコシのデンプンからつくられるPLA(ポリ乳酸)を混ぜてつくる、100%植物由来かつ生分解性のプラスチックストローだ。
主に飲食店向けに販売し、その後使用済みストローを回収。栃木県の家畜農家で堆肥化する。この循環型のビジネスに賛同した飲食店の間でストローは口コミで広がり、導入している店舗は、累計500店以上にものぼるという。
屋上のスペース。プランターは、知り合いなどから使わないものを提供してもらっている
平間さんはもともと、新卒で信託銀行に就職した。銀行のイメージキャラクターだったピーターラビットの作者、ビアトリクス・ポターがイギリス湖水地方の景観保全のため、死後も絵本の出版で得たお金を使う「信託」の仕組みを活用していることに興味を持った。
そのうち「自分も、世の中のためになるお金やモノの循環と、その仕組みをつくりたい」と思い始めた平間さんは、その後、台湾の友人からサトウキビストローの話を聞いて可能性を感じ、起業。
「サーキュラーエコノミー」という言葉が日本でも本格的に注目され始めたころだった。起業に前後して、たくさんの出会いにも恵まれた。
平間亮太さん
「一番カルチャーショックを受けたのは、青山の『ファーマーズマーケット』です。そこで、それまでに会ったことのないほど、おもしろいメンバーたちに出会えたんです」(平間さん)
2018年、人気カフェ「ONIBUS COFFEE」のオーナーである坂尾篤史さんの紹介で、青山の国連大学前で開催されるファーマーズマーケットを初めて訪れた。テントの前で行われるにぎやかな商いの空気や、人の往来の様子に、究極の居心地の良さを感じた。
農家、料理人、都市に暮らす人々などで集まるコミュニティのあり方にも、強く惹かれた。とくに、出店する農家からもらった野菜を運営メンバーが必ずみんなでシェアすることや、「マーケットはみんなのもの」という姿勢で運営していることに感銘を受けたという。
毎週末に通い始め、ボランティアとして会場の設営や撤収を手伝った。起業後の現在も財務面のアドバイスをするなど、深く関わり続けている。
地元の千葉県佐倉市の染井野でも、地元のメンバーと協働してソメイノファーマーズマーケットを立ち上げた。コロナ禍でも出店者は累計約70店と着実に拡大し、まちづくりの観点から、行政の注目も集めている。
「農と都市のつながりは面白いですよね。でも一番やりたいことは、やっぱり『仕組みづくり』です。サトウキビストローもファーマーズマーケットもまちづくりも、そこで立ち上がるコミュニティを含めた『循環』という仕組みに興味があるんです」(平間さん)
循環の仕組みの一つとして、主に「スペシャルティコーヒー」を取り扱うカフェと始めたのが、「TOKYO 100 cafe Project」だ。サトウキビストローを通じて、トレーサビリティやサスティナビリティに感度が高いカフェとともに新たな消費や循環のあり方を提案している。
「取引いただいているカフェの方から、『ストローを他店に紹介していいか』と頻繁に連絡を受けていたので、それなら100店集めてインパクトを持たせたプロジェクトにしようと。とくにスペシャルティコーヒーを扱う方々のように、表面的ではなく、本当に循環や持続可能性へのこだわりを持った同じ志の人たちとやりたいと考えました」(平間さん)
Photo by ONIBUS COFFEE
「ONIBUS COFFEE 八雲店」の店内。エスプレッソマシンの横にさり気なくストローが置いてある
賛同したカフェオーナーのうちの一人が、平間さんに青山のファーマーズマーケットを紹介した坂尾さんだ。坂尾さんは海外でのプラスチック廃止の流れを受けて、日本でも積極的にストローを探していたところ、サトウキビストローに出会ったという。
もともとバックパッカーで、ネパールやインドでごみの問題に出会い、ヒマラヤでは氷河が減っていることを目の当たりにしてきた人だ。都内で経営する5店舗すべてで、サトウキビストローを使っている。
「サトウキビストローは、通常のプラスチックよりも少し厚みがあって使いやすいです。紙ストローと比べてもへたれずに形状を保てるので最後まで飲みやすいし、舌触りもやさしいんですよ」(坂尾さん)
そんな坂尾さんは、今回の1.2 mile community compostにも、すぐに参加を決めた。以前から、ミミズを使って生ごみを堆肥化する「ミミズコンポスト」を店舗でも利用していたため、コンポストには馴染みが深かったという。
しかし、坂尾さんのように感度が高く、アンテナを張っている人ばかりではない。
「ストローひとつ取っても、従来の石油由来のプラスチックストローから切り替える動きは認知され始めたけれど、それを土に戻そうという考え方は、まだこれからだと思います。飲食店だけでなく消費者のマインドも変えていかなきゃいけないなと思っていたとき、『ローカルフードサイクリング(LFC)』を知ったんです」(平間さん)
コンポストの拠点。右には拠点に持参された土を保管・追熟する特大のLFCコンポスト。熟した土は、左の木枠に保管する。
それは同時に、ストローを土に還す方法として、コミュニティコンポストの形を模索していたときのことだった。
ローカルフードサイクリング(LFC)とは、福岡を拠点とするNPO法人循環生活研究所の「生ごみを野菜に変えるコミュニティづくり」の活動だ。家庭用のコンポスト専用のバッグも提供し、福岡では高齢者の見守りも兼ねてコンポストを自転車で回収する“段ボールコンポスト”のコミュニティも運営している。
しかし、これを東京という大都市で実施するとなると、事情が変わってくる。都市部は集合住宅や細い道が多く、住民の多数は日々忙しく働いている。回収自体が滞ってしまう可能性が高いのだ。
平間さんは、東京という大都市でコミュニティコンポストを実現させるためには、誰かが土を回収するのではなく各自が持ち寄ることが重要と考えた。
一見手間のようだが、この構想には、メンバー同士が実際に集う機会をつくるという意図も含まれる。「半径2kmの生活圏」という距離を定めることで参加者の負担を減らし、コミュニティコンポストを実現させたのだ。
表参道での実施を選んだのは、すでに付き合いの深い青山ファーマーズマーケットの農家に土を持って帰ってもらったり、堆肥を使用して生産した食材がマーケットに並んだりするという導線も引けるから。
飲食店から回収した使用済みストローも、これまでのように栃木まで輸送せずとも、近場で分解できるかもしれない、とも考えた。
定期的に集まって、コンポストの様子見と作業
こうして2020年8月にプロジェクト第1期の募集を行うと、50名が集まった。
メンバーのコミュニケーションにはSlackを用いる。初期には互いに自己紹介をしたり、出勤前に朝活として数人で集まる相談をしたりしていた。
やがて、拠点では持ち寄った堆肥を管理する必要が出てきた。加えて、屋上菜園の水やりも必要となり、興味のあるメンバーが自然と管理を始めた。いまではSlackで堆肥や水やり当番の調整、実際に種を植えるイベントが企画・開催されている。
楽しいと思えることを自分ができる範囲でやる。それぞれが負担にならない範囲で活動を続けている。
水をやり耕すように土を混ぜていくことで、全体に空気と水を供給する
「僕はコンポストのバッグがいっぱいになる2か月くらいのタイミングで持参します。関わり方は人それぞれで、みんなラフに楽しく付き合っていますね」(坂尾さん)
この日行っていた、土づくりから種まきの作業
参加者の属性も、さまざまだ。メンバーのうちの一人である若井康弘(わかい・やすひろ)さんは、夫婦で世界中のサステナブルグッズを販売するECサイト「Borderless Creations」を運営している。
「私はもともとファッション業界で働いてきて、大量生産・大量廃棄の世界に疑問を感じていました。家庭内でも環境のためにごみを減らしたいなと思っていたとき、LFCコンポストのバッグを知ってベランダで使い始めたんです。子どもの教育にもいいなと思って。ただ堆肥の行き場に困って、このプロジェクトを知ってすぐ参加を決めました」(若井さん)
そんな若井さんも、最初からすんなりこの活動を始められたわけではなかった。
「最初は、自分でつくった堆肥でも素手で触るのに抵抗がありました。でも、メンバーと楽しく活動していくうちに、土を触ることも楽しくなってきました。一人だったら難しかったかもしれません。男性メンバーは少ないですが、もっと気軽に入ってきてほしいですね」(若井さん)
にぎやかなメンバーの活動の様子を見ていると、楽しそうな空気感がうかがえる。いつ参加してもウェルカムで、気軽にコミュニケーションができるフラットなコミュニティが形成されているのだ。
木箱の底に軽石の代わりにサトウキビストローを敷き詰める。通気性もよく、軽量化も期待できるという
左上から時計回りに、大麦、グリーンピース、赤そらまめ
土屋奈央さんも、そんな空気感をつくり出しているメンバーの一人だ。
「私はヨガインストラクターの資格を持っていますが、その知人のつてで、LFCコンポストを使うようになりました。ヨガとコンポストの共通点は『循環』。だからこのプロジェクトにもすぐに共感しました。一人で自宅でコンポストをしていると不安になったり行き詰まったりすることもあるけど、ここには気軽に話しかけられる仲間がいます」(土屋さん)
そんなメンバー同士のつながりを象徴するのが、コンポストの木枠の手前に置かれた看板だ。
メンバーみんなの思いが詰まった看板
「お互いに面識のあるメンバーがまだ少ない序盤、若井さんが『活動が見えるような看板をつくろう』と提案してくれ、メンバーがベースとなる古材を持ち寄ったんです。メンバーにはご自身で絵画教室も開いているアーティストさんがいて、彼女がベースの絵を描き、さらにメンバーやメンバーの子どもたちが、思い思いに絵を描いて色を塗りました。よく見ると全部タッチが違うけど、看板として一つの雰囲気にまとまりました」(土屋さん)
看板を皮切りに、以降、日々のコンポストの状況を共有したり、堆肥の活用方法を議論するなどさまざまな企画が立ち上がり、Slack上でもリアルな場でも、交流が行われている。
その1つの形である屋上菜園では、畑経験者のメンバーが栽培に必要な情報を共有するなど、互いに学び合いながら、コンポストを使った土でハーブや野菜を育て始めている。
セージとローズマリーを収穫
とれたハーブを使い、コーディアルづくりをするメンバーも
「屋上菜園の名前はメンバーの提案で『ウエル』にしました。呼びやすくて、“上”にあるし、“植える”はもちろん、英単語で良好な状態を表す副詞の“well”にも音が似ています。さらに名詞だと“泉”や“井戸”という意味もある。
メンバー同士も最初はコンポスト中心の話をしていましたが、活動を通してだんだんと日々の暮らしの相談をしたり、エシカル消費のことを話したり。
お家にある柿などを持ってきてどうぞ! と渡す人もいます。そういう風に、みんなで集まって井戸端会議ができる場所にもなりえると思うんです」(土屋さん)
コンポストという共通点だけでなく、集まっておもしろがろうというメンバーの心意気により、豊かなコミュニティが生まれている。土の活用方法や他地域での展開など、今後ますます広がりを見せていくだろう。
水やり。どんな野菜や植物に育つのか楽しみだ
1.2 mile community compostは、2020年12月15日から2期のメンバー募集を開始している。2期はまた違う雰囲気のコミュニティになるはずだ。そちらも楽しみにしていたい。
LFCコンポスト
LFCガーデニングセット
6,501円
※2022.12.26現在の価格です。
このコンポストとであうまでは、ハードルが高いイメージがあったコンポスト。シンプルで始めやすそう、、、とガーデニングタイプを試してみました 四人家族 普段野菜の皮はベジブロス ヘタは水耕栽培で再利用?していましたが、 コンポストを導入したら、びっくりするくらい生ごみがすっきりして、逆にベジブロス用の皮は取り分けておかないと間に合わないくらいでした。 出きた堆肥はお友達の畑に持っていって、野菜を分けてもらうようになりました。 生「ゴミ」を出していたのは、私自身だったんだなと気づかせてくれました。おすすめです!
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