「ナラティブ」とは語り手自身が紡ぐ物語 ストーリーとは意味の異なる新たな概念

ナラティブと印字された赤い本

ナラティブとは直訳すると「物語」という意味。物語の筋書きや内容を指す「ストーリー」とは意味合いが異なり、ナラティブは私たちが一人ひとりが主体となって語る物語だ。現在、臨床心理や医療に限らず、ビジネスの場でナラティブが注目されている。

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2020.11.30

ナラティブとは? 言葉の意味・使い方

「ナラティブ(narrative)」とは、日本語に直訳すると「物語」という意味。しかし、同様に物語を意味する英語「ストーリー」とは少しニュアンスが異なる。

ストーリーは、物語の筋書きや内容を指す。主人公や登場人物を中心に起承転結が展開されるため、聞き手はもちろん語り手も介在しない。一方ナラティブは、語り手自身が紡いでいく物語とされている。主人公は語り手となる私たち自身であり、物語は変化し続け、終わりが存在しない。

つまり2つの言葉の違いは、「主人公が誰か」「完結しているか」という点にある。ナラティブは一人ひとりが主体となって、より自由に語られるイメージを持つ。感情や会話なども含む、広義的な意味での物語と捉えられる。

ナラティブはいつ使われるようになったのか

物語

Photo by Nadine Shaabana on Unsplash

ナラティブは、1960年代頃から使われるようになったと言われている。主にフランスの文芸理論上で、ストーリーとは異なる物語を示す概念として登場した。物ごとに対する私たち個々人の解釈は、主観的体験にそれまでのバックグラウンドなどが反映される。

このように「現実は社会的に構成され、語ることで世界がつくられる」という考えからナラティブは生まれている。

ナラティブアプローチとは

ナラティブを用いたアプローチ手法を「ナラティブアプローチ」と呼ぶ。これは、1990年代に臨床心理学の領域から生まれた支援方法。カウンセリング時に、相談者自身が話す物語、つまりナラティブを通して解決法を見いだす対話を重視したアプローチだ。

現実の捉え方は、育った環境や職業、立場によって変わってくる。相談者の言葉に耳を傾けることで、問題をどのように解釈しているのか理解し、本人にとっての最善へ導くことを目的としている。

従来のカウンセリングは、悩みを持つ相談者と専門知識を持ったカウンセラーの間に、大きな力の差があると言われていた。それを考慮せず無理なアドバイスをすると、相談者追いつめてしまうことも起こり得る。

ナラティブアプローチは、こうしたカウンセリングのあり方を見直そうという動きから生まれたのだ。

なぜ、いまナラティブが重要視されるのか

一人ひとりに寄り添うナラティブのありかた

相手の解釈に着目し最適な治療の方針を提案するナラティブアプローチは、従来の方法では解決困難だった問題を解決に導く可能性を秘めている。

これが注目を集め、現在は医療やソーシャルワーク、キャリアコンサルティング、司法の場など、さまざまな分野でナラティブの考え方が取り入れられるようになった。

さまざまな場面で活用されるナラティブ

とくに医療におけるナラティヴは、近年「物語りと対話に基づく医療」という意味の「ナラティヴ ベースド メディシン」が重視されている。患者のナラティブを聞くことで、より個別性の高い医療を提供することを大切する考え方だ。

マーケティングなどのビジネス分野でも、消費者が主人公となれる、あるいは企業が紡ぐ物語に参加できる「ナラティブマーケティング」が広まっている。自分ごとになることで商品に対して思い入れを抱き、愛着が生まれやすいというメリットがある。

ナラティブアプローチの流れ

ナラティブアプローチの基本的な手法は、荒井浩道著『ナラティヴ・ソーシャルワーク―“〈支援〉しない支援”の方法』に次のように示されている。

ナラティブアプローチ

Photo by Kenan Buhic on Unsplash

1.ドミナントストーリーを聞く

ドミナントストーリーとは、悩んでいる人が思い込んでいる物語のこと。悩んでいる人はネガティブな思い込みに支配されている。まずは話を聞くことで現状をどう捉えているのかを整理し、ドミナントストーリーを別の角度から見た物語(=オルタナティブストーリー)に置き換えていくことがゴール。

語り手:任された大きなプロジェクトで失敗してしまい、それ以来上司や同僚から嫌われてしまいました。

2.問題を外在化する

次に、語られたナラティブから問題の外在化させる。問題が内在化している時は、自分を否定する方向に向かいがちなので、問題を客観視できるようにする。例えば、問題に対して「名前をつける」ことも有効。

聞き手:その話に名前をつけるとどうなりますか?

語り手:「仕事ができず会社でうとまれるダメな人」でしょうか。

3.反省的な質問をする

そして、相談者が抱える問題は具体的に「誰が、どんなことが、どんな経験が」関わっているんか、質問しながら一緒に考えていく。

聞き手:失敗した時、上司や同僚からは具体的になんて言っていましたか?

聞き手:これまで仕事でうまくいったことはありますか?

4.例外的な結果を見出す

質問して会話を進めると、ドミナントストーリーから例外的な内容が見つかることがある。例外的な結果が見つかったらさらに質問を重ね、その結果を補強していく。

語り手:プロジェクトがうまくいっていなかった時、相談にのってくれた同僚がいます。

語り手:提出した企画が却下されましたが、上司が時間をつくってアドバイスしてくれました。

聞き手:親身に相談にのったり、アドバイスしてくれる人も周りにいるんですね。

5.オルタナティブストーリーを構築していく

発見された例外的なストーリーをもとに、新しい意味づけを相談者に気づかせることで、オルタナティブストーリーを構築していく。

語り手:そういえば、プロジェクトが失敗した時食事に誘ってくれた同僚もいたな。嫌われていたわけではなく、落ち込んでいる自分を心配して、そっとしておいてくれているのかもしれない。

語り手:仕事がうまくいった時、上司は自分を評価してくれたことがあった。プロジェクトが失敗した時、自分を嫌って叱っていたのではなく、次にいかせるように注意してくれたのかもしれない。

対話を求めるこれからの社会

対話

Photo by Dylan Gillis on Unsplash

これまで私たちは、さまざまな場面で一方通行のコミュニケーションを受け取ることがほとんどであった。しかし、多様化が加速し情報にあふれている現代、画一的なサービスでは成り立たない。人と同じではなく、自分が何を選択するかが重要視されるためだ。そうした時代背景から、ナラティブは求められるようになったのではないだろうか。

※掲載している情報は、2020年11月30日時点のものです。

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