新しいビジネスモデルとして注目されるBOPビジネス。企業とBOP層が、ウィンウィンの関係性を築けるという特徴がある。BOPの言葉の意味から、新たなビジネスモデルの成功事例、SDGsとの関連性についてもわかりやすく解説する。
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エレミニスト編集部
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BOPビジネスとは、低所得者層をターゲットに製品・サービスを供給するビジネススタイルを指す。BOPとは「Base of the Economic Pyramid」の略で、「購買力平価(PPP)ベースで年間所得が3,000ドル未満」の低所得層をしめす言葉だ。
ピラミッドという表現が使われている理由は、世界の所得別人口構成をグラフ化すればすぐにわかるだろう。下から低所得者層、中間層、富裕層の3つの層で構成されていて、最下層がもっとも大きくなっている。BOP層に当たる人口は約40億人。世界人口の約72%にもおよぶ。
BOPビジネスが対象とする市場規模は、非常に大きい。手がける企業にとっては、新たなビジネスチャンスが生まれるだろう。一方で、BOP層に属する人々にとってもメリットは大きい。手に届きやすい形で商品やサービスが提供されることによって、生活の質の向上につながるのだ。
どちらか一方のみが利益を得るのではなく、お互いにウィンウィンの関係が成り立つことがBOPビジネスの特徴だ。
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BOPビジネスの需要は、近年急激に高まっている。具体的には、どんなメリットが期待できるのだろうか。
BOPビジネスのメリットを知る前に、頭に入れておきたいのがBOPとSDGsとの関係性だ。SDGsとは「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」の略。2015年9月に国連総会にて採択され、2030年までに世界が取り組むべき17の目標と169のターゲットが設定されている。
SDGsが目標としているのは、貧困や暴力・飢餓の撲滅、そして環境を破壊しない形での持続可能な経済発展などだ。先進国・途上国の区別なく、目標達成のため、ともに努力を継続していくことが求められている。
低所得者層をターゲットにするBOPビジネスは、SDGs達成のための有効な手段のひとつである。BOP層に対して、手の届く範囲で質の高い商品やサービスが提供されるようになれば、健康や福祉、教育に関する問題を解決できる可能性もある。より安全で快適な環境整備にもつながるはずだ。
BOPビジネスは、単純な「低所得者層への支援」ではない。低所得者層をターゲットに商品を開発し提供するものの、その行動はあくまでもビジネスだ。
採算性の確保までには長い時間を必要とするが、最終的には「儲けを出す」ということを目的にしている。企業にとっては、儲けが出るからこそ持続的な支援が可能となり、結果としてSDGsにつながるという側面もある。簡単に成功できるビジネスモデルではないが、BOPビジネスには以下のようなメリットも存在する。
・ブランド価値の向上
BOPビジネスを通じて、社会的価値の創造に取り組む企業であることを世界に向けて発信できる。グローバル社会においても、企業ブランドの確立につながる。
・革新的なビジネスモデルの確立
BOP層に向けたビジネスを立ち上げ、成功させるために必要なのは、これまでにはないアイデアや技術だ。BOPビジネスを通じて、革新的な製品・サービス、ビジネスモデルを確立できれば、海外企業にも負けない競争力を得られる。
・新たな市場の開拓と先駆者利益
約40億人とも言われるBOP層だが、途上国の急速な経済成長に伴い、急激な所得向上も期待されている。BOPビジネスを通じて、今後の成長市場への早期参入が可能。競争率が低い市場で知名度を上げ、ライバルよりも素早く、販売拠点やネットワークを構築できる。
新市場への参入には、もちろんデメリットもリスクもあるだろう。しかしBOPビジネスがもたらすメリットは、決して小さくはない。BOPビジネスへの参入企業が増えているのは、メリットを重視した結果である。
Photo by Austin Distel on Unsplash
多くの企業がBOPビジネスに参入するいまだからこそ、気になるのが成功事例についてである。3つの企業を紹介しよう。
世界各国に事業所を置く味の素株式会社。ガーナの乳幼児の栄養不足や死亡率の高さに注目し、BOPビジネスをスタート。事業内容は「離乳食用サプリメントの開発と販売」および「栄養教育の強化」である。
現地の離乳食では不十分な栄養素を効率よく摂取できるサプリメントを開発。低所得者層にも購入可能な価格帯と購買単位を設定した。ガーナ大学や現地のNGOとも協力しながら、食事の調理方法を指導するといった啓蒙活動にも取り組んでいる。
ユニリーバのBOPビジネスは、インドの農村部にて展開された。低所得者層でも無理なく購入できる「使い切り石鹸」を販売。衛生教育セミナーを開催するとともに、現地の女性を販売スタッフとして雇用した。
住民の意識の向上により、衛生環境は改善。単純に石鹸を売るだけではなく、女性の雇用の機会を創出し、所得の向上にもつなげた。世界的にも有名な、BOPビジネス成功例である。
BOPビジネスという言葉が一般的になる前から、積極的に取り組んでいたのがヤマハ発動機である。セネガル・モーリタニアで、木製の漁船に自社ブランドの船外機を取り付け、現地の漁業環境の改善に貢献した。
ヤマハ発動機では、魚の取り方や保存方法、調理法をまとめて紹介。営業ツールとして活用した。安定した儲けを得られるようになれば、現地の人々の所得があがり、小型バイクや小型船外機、大型バイクなど、自社製品の購入ターゲットとなる。
2011年には、セネガルにクリーンウォーターシステムを導入。自社ブランドの認知度アップやブランド価値の向上を目指している。
メリットも多いBOPビジネスではあるが、残念ながら失敗に終わってしまう企業もある。
・事前調査の段階で収益が見込めず、事業展開が不可能と判断される
・事業推進に欠かせない人物が欠如することで、計画が立ち消えになる
・BOPビジネスはスタートしたものの、思うように製品が売れない
これらの失敗事例から見えてくるのは、事前調査の重要性と現地における協力体制の構築という課題だ。これまでのビジネスモデルに囚われず、現地のニーズに合ったサービス・商品を、フレキシブルに提供することが求められるだろう。
またBOPビジネスに、中長期的な視点は不可欠である。事業を継続していくための支援体制や評価制度は、十分に整えておく必要がある。
これらの課題を踏まえた上で、近年では具体的かつ適切に、実施体制を整える企業が増えてきている。自社単独でビジネスを展開するのか、現地パートナーと協力していくのか、慎重に決定する企業も多い。現地の状況やニーズを踏まえ、現実的なビジネス戦略を選択することが、BOPビジネス成功の秘訣と言えそうだ。
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