イノベーションに欠かせないアプローチの方法として、センスメイキングが注目されている。なぜいま、センスメイキングなのか。これからの時代を生きるビジネスリーダーに求められる、未来を生み出す力の意味とその事例を解説する。
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センスメイキングとは、意味付けや納得を表す言葉。語源は、組織心理学者のカール・ワイクを中心に発展してきた理論にある。センスメイキングの本質を表す日本語は「腹落ち」と、早稲田大学ビジネススクールの入山章栄教授は言う。
ただし、センスメイキングにとって納得するだけでは不十分。起きている事象に対して能動的な行動を起こすこともセンスメイキングに含まれる。
近年、この言葉は台頭する人工知能に対して、人間ができる能力として注目を集めている。ビジネスシーンでは、統計的なデータだけでなく観察から得られたものや、歴史的な情報を使って問題を解きアイディアを生み出す方法、多様なデータを集めてそれらを統合する力という意味合いで用いられる
いまセンスメイキングが注目されるのは、イノベーションを起こす上で欠かせない条件であると考えられているからだ。先行き不透明な時代、変化の激しい時代では、何を選択するのが正しいかが見えにくい。身の回りで起こる変化や、目の前の選択肢が、将来自分たちにとってどのように影響を及ぼすのかの判断が難しいからである。
これまで、さまざまな商品やサービスは課題解決型のアプローチで生まれてきた。しかし、世の中が一定水準以上の豊かさになり、一通り課題が解決されるとこれまでのアプローチの方法では新たなものやサービスを生み出しにくくなる。
そこで求められるようになっているのが「役に立つこと」から「意味があるもの」への転換だ。センスメイキングとは、正解を求めても得られない状況で、ものごとに意味付けを行い、周囲を納得させて行動する次世代リーダーにとって必要なスキルの1つと言えるだろう。
自分たちは何者であり、いま何が起こっていてどこに向かおうとしているのか。その「意味づけ」ができるリーダーが求められている。
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センスメイキングとはどういうことなのか。具体的な事例を通じて考えてみよう。
センスメイキングの事例として有名なのは、ハンガリー軍の雪山演習の話だろう。
あるとき、ハンガリー軍が猛吹雪の中、アルプス山脈で遭難した。隊員たちはなす術もなく、ただ恐怖にふるえていた。そのとき、偶然一人の隊員がポケットに一枚の地図を見つけた。彼らは地図を見て落ち着きを取り戻し、無事下山に成功した。
ところが、戻ってきた隊員が持っている地図を見た上官は驚いた。彼らが見ていたのはアルプス山脈の地図ではなく、ピレネー山脈の地図だったからだ。ハンガリー軍の事例で重要だったのは地図の正確性ではない。
大切なのは、隊員が偶然地図を見つけたことで「これで助かる」というストーリーをみんなでセンスメイキングしていたことだ。冷静で客観的だったらできないことを思い込むことで危機を乗り越えた。
ホンダは1960年代に米国のオートバイ市場に進出し大成功した。当時についてホンダの幹部は「特別な戦略はなかった」と言う。
米国人は大型バイクを好むので、日本の小型バイクは売れないのではないかと見られていた。しかし、現地で活動をはじめた同社の社員は小型バイクに乗る米国人を発見。
「ホンダの場合、壊れやすい大型バイクよりも、機能性に優れた小型バイクの方が売れる」というストーリーをつくり、それを関係者でセンスメイキングした。その結果、成功できたのだ。
センスメイキングで重要なのは、まずは行動するということ。上記の事例は、行動して思考錯誤を重ね、周りの環境を認識しつつ、軌道修正するうちに納得できるストーリーが生まれた事例だ。
これからの時代を生きるリーダーや経営者に求められるのは周囲のセンスメイキングを高め、巻き込める力だろう。冷静に客観的に考えれば不可能に思えることでも、大まかな方向性を信じて進むことで未来をつくる力が人間にはあるということなのかもしれない。
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