「フォルケホイスコーレ」とは、自分のしたいことを探すための学校。デンマークをはじめ、ヨーロッパ各地にある教育施設で、語学やデザイン、スポーツなど、やってみたいことは何でも学べる校風だ。将来の進路やキャリアについてじっくり考えられるから、大人の留学先としても人気を呼んでいる。
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エレミニスト編集部
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フォルケホイスコーレとは、幸せの国デンマーク発祥の、生涯学習ができる全寮制学校のこと。同国のグルントヴィが提唱し、国内だけでも約70校あり、いまでは周辺諸国にも広がっている。
英語だとFolk high school、つまり「人々のための学校」という意味で、民主主義的な思想を大事にする環境のなか、興味の向くまま幅広い分野を学ぶ事ができる。学生は25歳以下の若者が多いが、自分を見つめ直すために入学する大人や、シニア層もたくさんいるそうだ。
1800年ごろのデンマークの教育は、ラテン語やドイツ語などの外国語や、諸外国の文化などを暗記する授業が中心で、国民のほとんどを占める農民には役に立つものではなかった。
グルントヴィは従来型の学校を「死の学校」と痛烈に批判。大事なのは、周りとコミュニケーションをとりながら、どうやって社会のなかで生きていくかを学ぶことだと説いた。
そして1844年、彼の遺志を継いだ政治家のクリスチャン・フローによって、1校目のフォルケホイスコーレが開校。生活に役立つ知識を身につけられる場所として、いまでも多くの人が学んでいる。
Photo by Clayton Cardinalli on Unsplash
北欧のフォルケホイスコーレの学費は、月に10万から15万くらいで、このなかに授業料、寮費、朝昼晩の食費までもが含まれている。
試験や学年はなく、卒業しても資格や学位はもらえないが、物価の高い北欧にありながら格安で学べるとあって、留学生からも大人気だ。学生たちはここで寝食をともにしながら、数週間から10ヶ月ほど、自分の好きなことを学んでいく。
学べる科目は幅広く、語学やアート、パーマカルチャーなど、学校や国によってカリキュラムは多種多様だ。無理のないペースで教養を身につけられるため、長期休暇を取って自分磨きに来る社会人もたくさんいる。
週に最低28コマ出席すればいいので、自由時間はけっこう多め。友達とパーティーしたり、観光したりと、楽しみ方は無限大だ。
現在のデンマークは、消費税こそ25%と日本に比べるとずいぶん高いが、その分医療費や学費が無料。誰もが安心して暮らせる高福祉社会だ。そんな社会が実現したのは、フォルケホイスコーレの精神がこの国に息づいているからと言っても過言ではない。
上流階級だけでなく、すべての人に対して平等な政治は、徹底した民主的な思想を学んだ農民たちによる影響が大きい。
ほかにも、フォルケホイスコーレの卒業生たちは、当時としては新しい発想だった農業協同組合をたちあげ、みんなでよりよい暮らしを作ろうと立ち上がった。いまの幸せなデンマークは、こうした歴史的背景があってできあがったものなのだ。
Photo by Edgar Castrejon on Unsplash
フォルケホイスコーレの伝統に則り、民主主義やキリスト教の教えなどが学べるほか、デザイン、アート、スポーツなどが自分の興味に応じて学べるようになっている。
学校の敷地内で先生も生徒も一緒に暮らし、掃除やご飯の支度もみんなで協力して行う。朝夕はミーティングの時間があり、みんなで話し合いながら、一緒によりよい学校をつくっていく雰囲気だ。シニア向けの短期コースも多数用意されており、生涯を通して学べる環境となっている。
ノルウェーの高校生の11パーセントは、卒業後フォルケホイスコーレに行く。本当にやりたいことを模索してから、自分の好きなタイミングで大学などに進学するのが普通だ。
北国ならではのカリキュラムが充実しており、スキーやスノーボードなどのウィンタースポーツが人気がある。ちょっと珍しい犬ぞりコースもあるのだとか。世界で3番目に英語が通じやすい国なので、ノルウェー語に自信がなくても生活に支障はなさそうだ。
ドイツではVHSと呼ばれ、日本のカルチャーセンターのような位置づけだ。学生寮はないため、住まいは自分で手配する必要がある。夜間にドイツ語を学べるコースもあるので、日中仕事がある人や、安く学びたい人に好評だ。
サスティナビリティや、ベジタリアン料理レッスンなどもあり、エコ大国ならではの知識を身につけることができる。
北海道旭川市から車で25分ほどの東川町では、地域おこし協力隊の女性らが「人生の学校」を開設するため、奮闘している。
最初は数日間のショートコースから試験的に始め、休みがとりずらい日本人のスタイルに合わせた学びの場を提供していく予定だ。東川は自然豊かな場所にありながら、利便性は抜群。旭川まで行けばショッピングモールや大きい病院もあるので、無理なくヒュッゲな暮らしを体験するには、丁度いい場所だ。
日本のフォルケホイスコーレの歴史は、大正4年に設立された山形県立自治講習所から始まった。初代所長の加藤完治は、後に茨城県に農家育成のための日本国民高等学校を開校。いまでは日本農業実践学園として、農業人を輩出し続けている。
Photo by Andrew Neel on Unsplash
授業は現地の言葉か英語で行われる。積極的にディスカッションに参加し、社会の輪に飛び込むことが求められるので、語学をブラッシュアップしたい人にも嬉しい環境だ。
ヨーロッパでは、高校卒業後すぐに大学に入らず、旅行やアルバイトをしたり、フォルケホイスコーレで自分が本当にやりたいことを見つけてから進学する人がたくさんいる。何が自分を幸せにするか、自分はこれからどうしたいか、そんな問いに向き合える場所がフォルケホイスコーレなのだ。
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