ナイトタイムエコノミーとは、夜間におけるさまざまな経済活動を意味する言葉。近年、世界中で取り組まれている、ナイトタイムエコノミーを活性化させるための取り組み事例と、オリンピックを間近に控える日本の動向について紹介する。
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ナイトタイムエコノミーとは、日没時間の18時頃から翌朝6時頃までの夜間に行われるさまざまな経済活動を示す言葉。昼間に行われる一般的な経済活動と、区別するために用いられるものだ。
2017年に『「夜遊び」の経済学 世界が注目する「ナイトタイムエコノミー」』を発刊した、国際カジノ研究所所長の木曽崇氏により、「居酒屋やナイトクラブなど、一般的に夜遊びをイメージするものだけでなく、夜間医療や24時間体制で私たちの生活を支えるインフラなど、日没から翌朝までに行われる経済活動の総称」と定義されている(※1)。
夜間の消費、ビジネスチャンスを活性化させる施策として、近年、ナイトタイムエコノミーは世界中で注目されている。また日本においても、海外からのインバウンド観光客に向けた経済施策の1つとして、数年前から力を入れて取り組まれているのだ。
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ナイトタイムエコノミーは、日中と比べて消費活動や経済活動の落ち着く夜間に、娯楽や文化などの商業活動を充実させることで、消費の拡大を促し、経済を活性化することを目的とするもの。
深夜営業の飲食店、文化施設や娯楽施設、イベントなど、夜間に楽しめるコンテンツを充実させることは、消費の拡大だけでなく、雇用の確保にもつながり、地域経済にもたらされるインパクトも大きい。
新経済連盟の資料によると、イギリスのナイトタイムインダストリーをもとに算出した日本のナイトタイムエコノミーの経済効果は、約80兆円の追加収入を生み出す可能性があるとされている(※2)。
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ナイトタイムエコノミーの先進都市とされるのが、イギリスのロンドンと、アメリカのニューヨークだ。観光庁・観光資源課の資料によると、2017年4月に発表された、ロンドンのナイトタイムエコノミーの経済効果は約3.7兆円、72万3000人の雇用を生み出している。またニューヨークでは約2.1兆円の経済効果と、19万6000人の雇用を創出している(※3)。
ではナイトタイムエコノミーを活性化させるために、海外ではどのような施策が打たれているのだろうか。
イギリス最大の都市、ロンドンでは、24時間都市構想を掲げ、ロンドン全域でナイトタイムエコノミーによる経済活動・文化的イベント等の活性化に力を入れている。これには単に経済的な目的だけでなく、国際都市としての競争力を上げる狙いもあるのだ。
ロンドンでは、パブやバー、演劇、クラブ、イベントなどの多彩なコンテンツを用意するだけでなく、ホテルやレストラン、公共交通機関、セキュリティなど、ナイトタイムエコノミーに関連する事業の整備も進め、24時間都市構想をサポートしている。
夜間の外出時の利便性を高めるため、ロンドンオリンピックの行われた2016年8月からは地下鉄の24時間運行が開始された。また夜間出かける際に気になるセキュリティに関しても、国が安全性を担保できているエリアを認定する「パープルフラッグ」という制度をイギリス全土で設けている。これにより、地域住民だけでなく、初めて訪れる観光客でも安心して楽しめる仕組みがつくられているのだ。
ナイト・ツァー(Night Czar(夜の皇帝))と呼ばれる、ナイトタイムエコノミーの発展をサポートする役職を設置しているのも、ロンドンの特徴だ。イギリスではロンドンだけでなく、リヴァプール、グラスゴーなどの都市でも、ナイトタイムエコノミーに力を入れている。
一方、「眠らない街」と呼ばれるアメリカ・ニューヨークでも、地下鉄が24時間運行し、ナイトライフへ出かける人や夜間の仕事に従事する人々を支えている。
ニューヨークの夜のアクティビティとして人気を集めるのが、ブロードウェイでの観劇だ。ブロードウェイでのショーの開演は、20時前後と、日本と比べると遅い時間に設定されている。これは、地下鉄が24時間運行されており、観客が終電の時間を気にせずに済むために、夕食を楽しんでから出かけられる遅めの時間設定となっているのだ。
また、メトロポリタン美術館など、一部の美術館も21時まで営業しており、夜間における観光の選択肢を増やしている。
レストランやバーも深夜まで営業しているため、夜まで観光を満喫したあとに食事やお酒を楽しむこともできる。食事のあとにナイトクラブへ出かけるのも、ニューヨーク観光の定番コースとなって、ナイトタイムエコノミーの活性化につながっているのだ。
このほか、オーストラリアのシドニーでは夜間にパブをはしごしながら国の歴史を学べるウォーキングツアーが開催されていたり、韓国・ソウルでは一部のファッションビルが明け方まで営業しているなど、ナイトタイムエコノミーを活性化させるさまざまな施策が、各国で行われている。
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前章の海外の事例を読むと、日本におけるナイトタイムエコノミーが、東京だけを見てもまだまだ追い付いていないと感じる部分が多かったのではないだろうか。実際、海外からの訪日観光客へのアンケートでは、日本には深夜まで営業している文化施設や娯楽施設、交通機関の選択肢が少なく、ナイトライフを楽しめないという不満の声も上がっている。
そこで、訪日外国人旅行者の満足度を高め、滞在時間を増やして旅行消費の拡大を実現するため、日本でもナイトタイムエコノミーに力を入れ始めている。ナイトタイムエコノミーは、観光立国を目指す日本において、重要な柱の1つと位置付けられているのだ。
政府はナイトタイムエコノミーの推進のため、2015年に夜のエンタテイメント業の営業を規制する風営法を改正した。これにより、深夜0時以降のダンスクラブなどの営業が可能になり、夜間のアクティビティを増やすことにつながっている。
また、東京オリンピックの開催地であり、観光客大幅な増加が見込まれる東京では、東京観光財団によるナイトライフ観光振興のための助成金も創出された。これは、通年計画で実施されるナイトイベントに対し、最大1億円が助成されるもので、ナイトタイムエコノミーへの参画を促す一役を担った。
日本のナイトタイムエコノミーの成功事例としては、東京・新宿のロボットレストランが有名だ。SNSから人気に火が付いたショーレストランで、最終公演が21時30分からと遅い時間にも鑑賞でき、訪日旅行者の間で、夜に楽しめるアクティビティとして人気を集めた。
このほか、初対面の旅行者がグループになってパブをめぐる、パブツアーが六本木で行われたり、キャラクターに扮したガイドと一緒に夜の銀座をめぐる「演劇・映画×ナイトツアー」が行われるなどの取り組みも行われている。また各地で行われた、観光名所を利用したプロジェクションマッピングも、地域のコンテンツを生かしたナイトタイムエコノミーの活性化事例として挙げられる。
コンテンツの充実化がすすめられる一方で、課題となっているのが深夜の交通アクセスや、治安の問題だ。東京では地下鉄やバスの24時間の運行が検討され、試運転も行われたが、実現に至っていない。
ナイトタイムエコノミーを活性化するには、夜間のイベントや文化施設の営業、深夜営業の飲食店などの夜のアクティビティの充実化だけでなく、交通機関の整備や治安の維持、地域住民の合意形成なども併せて行っていかねばならない。
日本全体でナイトタイムエコノミーのもつ可能性を最大限に生かし、経済的恩恵を享受するためには、官民一体となった努力がまだまだ必要な状況と言えるだろう。
※1:カジノ合法化に関する100の質問/木曽崇オピニオンブログ
http://www.takashikiso.com/archives/9982778.html
※2:観光立国実現に向けた追加提案/新経済連盟
http://jane.or.jp/app/wp-content/uploads/topic628/topic_1.pdf
※3:ナイトタイムエコノミー推進に向けたナレッジ集/国土交通省 観光庁 観光資源課
https://www.mlit.go.jp/common/001279567.pdf
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