スペキュラティブデザインが新しい発想の形として注目を集めている。これまでのデザインとはどのように違うのだろうか。アート思考、デザイン思考の違いから、スペキュラティブデザインの意味と代表的な手法を解説する。
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エレミニスト編集部
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スペキュラティブデザインとは、課題について考えるきっかけを提示するデザインのことだ。
近年ビジネスでも、アートやデザインが注目されるようになっている。この2つは似ているようでいて、非なるものだ。
デザインは使う人の課題を解決するもの。一方、アートはつくり手を中心に課題を発見し、いままでになかったものをつくるという特徴がある。両者の手法の違いは十分に意識する必要があるだろう。
ユーザー視点の商品やサービスの開発力と、これまでにないものを生み出す力とでは、アプローチの方法が異なるからだ。同じイノベーションという文脈でも、どのようなものを求めるのかはあらかじめ明確にしておかなければならない。
スペキュラティブデザインは、英国の王立芸術大学(Royal College of Art)の教授であるアンソニー・ダンとフィオナ・レイビーが提唱した概念だ。
人口問題や、地球温暖化などの世界の諸問題は、直接的な問題解決の方法を提示したり、表現性の高いデザインを扱ったりするだけでは不十分な状況になっている。
スペキュラティブデザインは、これからの社会がどうなっていくかを考え、既存の世の中の価値や信念、態度を疑う。そうすることで、未来のシナリオをデザインし、さまざまな代替策を提示することが目的である。
未来について考えるきっかけを提供し、デザインの境界を広げるのがスペキュラティブデザインと言っても過言ではないだろう。
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デザインを使って世の中の問題を解決するために、人々の価値観や信念、考え方を変える。それが、スペキュラティブデザインの基本的な考え方だ。
ここからは、スペキュラティブデザインの例を見ていこう。
デザインスタジオSuperfluxのアナブ・ジェインは自宅のWi-Fiが壊れるというトラブルに見舞われていた。
パスワードをかけることができず、隣人に回線を使われてしまうため、通信速度の低下に悩まされていた。そこでジェインがとったのは、「自宅のWi-Fiを無料で開放する」というアプローチ。
自宅の前に「Wi-Fi無料開放中」と書いた椅子を置いてみると、住民たちが集まり、住民同士がコミュニケーションを取るようになったという。
いまでこそ目新しいアイディアではないかもしれないが、当時はまだカフェなどで無料Wi-Fiのサービスがない時代。
Wi-Fiがまだ街で解放されていなかった時代に、人々が求めるものを考えそのツールを提供することでコミュニティをつくったというスペキュラティブデザインの事例である(※1)。
人工臓器を人体に取り入れることで、最低限のキャンディーの摂取のみで生命維持が可能になるという人工臓器システム。
100年以上先の近未来に、人類は究極の食糧難と水不足が訪れると言われている。安全に飲める水の量が限られた荒廃した地球で、人間が生き残るためのアイデアとして考えられた(※2)。
長谷川愛は東京とボストンを中心に世界中でアートとデザインの活動を行っているアーティストだ。70億人の人口を抱える地球は潜在的な食糧不足を抱えている。これ以上人間を増やすのは、果たして現実的なのか。
この作品は、サメやマグロ、イルカなどの絶滅の危機にある種を代理出産できれば女性の出産したい願望と人口問題を解決できるのではないか、という提案である(※3)。
同じく長谷川愛の作品。実在する同性カップルの一部の遺伝情報からできる子どもの姿や性格などを予測して「家族写真」をつくった。
同性カップル間で子どもを生むことは不可能だが、遺伝子データ上での推測なら同性間でも子どもはできるという(※4)。
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スペキュラティブデザインは、私たちの目を未来に向けさせてくれるデザイン手法だ。その目的は、現在の課題を解決するのではなく、社会課題を表現することである。
人それぞれが問いを持ち、それを話題にすることで未来について考えよう、というものだ。
世界では、さまざまな分野で枠にとらわれない考え方やアイデアが生み出されている。スペキュラティブデザインを取り入れることで、これまでとは違ったアプローチで未来をつくっていけるとの期待が持たれている。
※1
https://wired.jp/2015/03/16/superflux/
※2
https://ja.takram.com/projects/shenu-hydrolemic-system/
※3
https://aihasegawa.info/i-wanna-deliver-a-dolphin
※4
https://aihasegawa.info/impossible-baby-case-01-asako-moriga
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