毎日通いたくなるほど居心地のいいカフェ「Nem Coffee & Espresso(ネム コーヒー & エスプレッソ)」。ここは、たくさんの気遣いとやさしさに包まれてる。エシカルにも気を配る経営者・渡邉夫妻が、もっとも大事にしていることとは?
Sonomi Takeo
フリーランスエディター&ライター
東京生まれ・東京育ちだけど自然が好き。現在は鎌倉在住。某出版社でファッション誌、ハワイ専門誌、料理雑誌などの編集を経たのちフリーランスエディター&ライターに。独立後は動画メディアサイトの…
東京・広尾の隠れ家カフェ「Nem Coffee & Espresso(ネム コーヒー & エスプレッソ)」。
細い小道を入った先にあるこのカフェは、駅から徒歩2〜3分という立地でありながら閑静な住宅街にひっそりと佇んでいる。このカフェを営むのは、渡邉拓実(わたなべたくみ)さんと、章代(あきよ)さん夫婦だ。
左から、章代さんと拓実さん
拓実さんは、10代の頃からいつか自分の店を持ちたいという夢を実現するため、サーフショップで販売やサーフボードのリペアマンとしての技術を磨いた後、インテリアショップ「ヒッカドゥワ西麻布」でインテリアや空間のデザインを修得。
「代々木上原ファイヤーキングカフェ」では飲食の基本となるサービスを学び、最後にもっとも重要な、バリスタとしてのコーヒーの技術を「サタデーズNYC代官山」で学んだ。
章代さんは、アパレルブランドで販売や営業、ニューリサイクルショップ「PASS THE BATON表参道」の店長を経験した後、コーヒーロースターでバリスタ、営業を勤めた。
そんな二人が、2016年、結婚すると同時に開いたのがこの店だ。
店舗は、古い一軒家の一階を改装した。
店の前には、店名の由来にもなったネムノキが大きく枝を広げ、来店者を歓迎する。店内には心地よいジャズが流れ、木のぬくもりに満ちている。
フレンチプレスで1杯1杯丁寧に淹れるコーヒーは、すっきりとした味で、ほっとするおいしさだ。
鹿児島県から取り寄せたネムノキは、夏になると花を咲かせる。歓喜、安らぎ、創造性、夫婦円満といった花言葉が、カフェにピッタリだ。
店内に植物を飾るのは拓実さん。初夏の取材日には、涼やかなミントがカウンター前に飾られていた。
店内インテリア。「いろんな国の人が来てくれるので、無国籍にしたかったんです」
二人には、共通して抱く想いがある。それは、「“本物”を届けたい」という信念だ。
大半のカフェや喫茶店にはない「写真撮影NG」というルールもある。
お客さんには、「おいしいコーヒーをまた飲みたい」「ゆっくりとコーヒーを飲みながら、友人と話したい」という気持ちで利用してほしい、と二人は願う。
「近隣に愛されるお店であるために、広告をできるだけ出さずとも、美味しいという評判が広がって、来てくださる方が増えて行くことが理想です。毎日のように来てくださる近隣の方がいつ来ても座ってホッとできるよう、あまり混むお店にしたくないという思いもあります。
また、表面的な部分を切り取られることで自分たちの知らないところで情報がひとり歩きしてしまうことを避けたいとも思っています」(拓実さん)
「実力を磨きながら、ゆっくりと着実に、いい店にしていきたいです」(章代さん)
「本物志向」で本質を大切にしている二人だからこそ、自然とサステナブルで、地球にやさしく、人にもやさしいものを取り入れるようになった。
そんなNem Coffee & Espressoのエシカルゴトとは?
アイスオーツミルクラテ 640円
「アイスコーヒーのストローは、店内ではステンレス製を使い、テイクアウト用にはサトウキビをはじめとした植物由来の原料でできたストローを用意しています。
プラスチックカップはすべてリサイクルペットを使用し、ストローレスのカップも導入しています。
もともとネムのお客さんは数分でも座って店内で飲んでいく方や、タンブラー持参の方も多いのですが、今後はテイクアウト用の紙カップやリッドの素材が、地球に還るエシカルなものがないか探しているところです。」(拓実さん)
Photo by Nem Coffee & Espresso
シングルオリジン アイスコーヒー ¥610〜
コーヒーマシーンを使うと、かなりの電力量が消費される
「2016年に電力の自由化が決まったとき、お客さんに『自然エネルギーを扱っている会社があるよ』と自然電力株式会社をおすすめしてもらったんです。
いまは、太陽光や風力による再生エネルギーでコーヒーを抽出し、自宅であるお店の2階も含めて、自然電力100%。
晴れの多い季節は太陽光エネルギーが豊富なため、翌月の電気代がお得になったり、これまでよりも一層天候や季節にも意識がいくようになりました。お客さんとの会話をきっかけに始めたことや、得た知識がたくさんあります」(拓実さん)
左から、オーツミルク、アーモンドミルク、ソイミルク
「私はもともと乳製品アレルギーのため、牛乳を使ったカフェラテが飲めないんです。さらにナッツもダメ。
いろんな体質の方でもラテをおいしく飲んでいただけるよう、コーヒーに合う、アーモンドミルクやオーツミルク、ソイミルクを用意しています」(章代さん)
ボンソイでつくったソイラテ 620円
玄米は、浸水しなくても炊ける
店内にはコーヒー豆や焼き菓子をはじめ、厳選された品がカウンターに並んでいる。取材班の目に止まった「ラク炊き玄米」は、拓実さんの地元新潟で家族がつくっているコシヒカリ玄米だ。
カフェに関連した食品だけではなく、夫婦の目利きで「本当にいい」と思ったものを選んだセレクションには、生産者の顔も垣間見え、じんわりと安心する。
章代さんには、さらなる夢がある。
「小さい頃から肌が弱かった」という章代さんには添加物や合成洗剤のアレルギーがあり、お店や自宅の食器洗剤や洗濯洗剤などはできるだけ植物由来のものを使っている。
石油由来の界面活性剤や森林破壊につながるパーム油を使用した製品などは一切使わないなど、環境にも配慮する。
「それでも肌が荒れてしまうこともあります。私と同じように悩む方や、飲食業界の方、水洗いで手を酷使する方に向けて、肌に直接触れる洗剤や洗い物で手がガサガサになってしまう冬の保湿クリームなどの日用品を開発、販売することを目標にしているんです」(章代さん)
現在は、オーストラリア政府が認定する「Clinical Aromatherapy資格」取得に向けて勉強中だ。目指すのは100%オーガニックであり、生産者から原料、製造に至るまでのすべてに安心してもらえる、「人」にも「環境」にも優しい製品づくり。
そのためには、たくさんの知識が必要だ。さまざまなルールが混在し、規定が曖昧なオーガニック認証が多いなか、最も信頼できる世界統一基準「COSMONS ORGANIC(コスモス オーガニック)認証」を受けた製品をつくるために、この資格を取得することに決めたという。
「まずはできることから。少しずつ、無理なくつづけていけるものから取り入れています。今後もお客さんの意見を聞きながら、心から二人が『いい』と思ったものを実現していきたいですね」と章代さん。
カフェの一角に飾られていた、常連客のパリのお土産
Nem Coffee & Espressoの最大の魅力は、「お客さんと一緒につくりあげていく」こと。常連客からのお土産や、壁に書かれたさまざまな国の人たちのメッセージ、デザイナーやアーティストとして活動するお客さんに関わるアイテムなど、カフェに存在する余白の魅力が十分に活かされている。
ネムノキの成長とともに、これからどう形を変えてアップデートしていくのか。とても楽しみでしかたない。
『Nem Coffee & Espresso』
2016年5月にオープン。『毎日飲みたくなるコーヒー』がコンセプト。コーヒーは中深煎りで、クセがなく、すっきりとしたやさしい味わい。店内ではコーヒーのほかサンドイッチなどの軽食や焼き菓子なども販売する。大人がゆったりとくつろげる、おしゃれで洗練された空間が魅力。
Nem Coffee & Espresso
電話番号
03-6886-4777
住所
〒106-0047 東京都港区南麻布4-5-6
営業時間:平日8:00〜16:00 土日祝 9:00〜16:00 定休日:火曜日・第1・3月曜日
撮影/米玉利朋子(G.P.FLAG)
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