密漁の罪から一転 豪先住民の素潜り漁にスポットライト

ダイバー

Photo by Bobbi Wu on Unsplash

オーストラリアの先住民が代々受け継いできた素潜り漁が、罪に問われるという事態が起きている。そんななか、州政府の支援を受けてプロのダイバーを目指す先住民の若者たちがいる。彼らが担うのは、藻場を荒らすウニを獲る仕事。文化継承、雇用、環境再生、三方よしの漁業が生まれようとしている。

Naoko Tsutsumi

エディター/ライター

兵庫県出身。情報誌、カルチャー誌、機内誌など幅広いジャンルの媒体の編集に携わる。コロナ禍にシンガポールへ移住。「住む」と「旅」の視点の違いに興味を持ち、地域の文化の違いを楽しんでいる。

2026.08.10
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伝統の漁法が罪に、一転してプロダイバーへの道

オーストラリアの先住民には、素潜りで貝や海藻を獲る伝統的な漁の文化が、祖先から受け継がれてきた。しかし、ワルブンジャ族のジョン・キャリッジ氏は、この漁法によって法廷に立たされることになる。父祖伝来の方法で漁を行ったことが罪に問われ、最長10年の懲役刑を科される裁判にかけられていたのだ。

裁判は開始からわずか11日で州検察により取り下げられたものの、キャリッジ氏はこれまでに4度も出廷を経験しているという。先住民の伝統的な漁業権と、現行の漁業規制との間には、長年にわたる摩擦があった。

そのキャリッジ氏といとこのデンゼル氏がいま、州政府の支援を受けてプロのウニのダイバーとしての訓練を受けている。

ニューサウスウェールズ州政府は、先住民の非営利団体である「Joonga Land and Water Aboriginal Corporation」に対し、持続可能なウニ漁業の確立と先住民ブランド商品の開発を後押しするため、約148万豪ドル(約1億5,000万円)の助成金を交付。2人は、ダイバーで輸出業も手がけるジェイミー・ニューマン氏の指導のもと、船の操縦や酸素ボンベを使った潜水、良質なウニの見極め方などを学んでいる。

かつて罪に問われかけた素潜りの技術が、今度は正式な資格と収入を伴う職業として、次の世代に受け継がれようとしている。

ウニが藻場を食い尽くす、豪州の海が抱える問題

このプロジェクトが生まれた背景には、オーストラリアの海が直面する深刻な環境問題がある。

数十年にわたるハタやフエダイ、ザリガニなど、ウニの天敵となる魚介類の乱獲に加え、気候変動による海水温の上昇が重なったことで、ニューサウスウェールズ州の固有種である長い棘のウニが爆発的に増殖した。生息域はビクトリア州やタスマニア州にまで拡大し、世界有数のケルプ(大型海藻)の生育域として知られる「グレート・サザン・リーフ」では、2,000キロメートルにわたる海藻林に壊滅的な被害が出ている。

海洋生物学者のケイン・レイトン氏は、海の温暖化によってニューサウスウェールズ州南部沿岸は、ウニにとっての“ゴルディロックスゾーン”だと指摘。とりわけ同州南部は、荒地の面積そのものも、その拡大速度も最大級だという。

一方で、ウニの密度を減らせば海は驚くべき回復力を見せることもわかってきた。南海岸のメリムブラ埠頭にある試験地では、地元のレクリエーション漁業グループが3万匹のウニを除去したところ、わずか10か月で多様な昆布や海藻が再生し始めたという。

レイトン氏は「ウニ産業はオーストラリアでは比較的新しい産業であり、過去の他の漁業のように先住民が周縁に追いやられるのではなく、彼らがこの産業の中心に立つ真の機会がある」と述べている。海を守ってきた人々の叡智が、罪ではなく仕事として認められる。サウスウェールズ州の海辺で始まった小さな一歩が、次の世代にどんな海を残すのか、注目していきたい。

※掲載している情報は、2026年8月10日時点のものです。

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