バイオスティミュラントとは?気候変動時代の持続可能な農業を支える技術

バイオスティミュラント

バイオスティミュラントとは、植物の生育を促進し化学農薬・肥料への依存を減らす自然由来の資材だ。気候変動対策としての役割と種類・効果・世界の動向をわかりやすく解説する。

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2026.05.22
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バイオスティミュラントとは

気候変動が農業に深刻な影響を与えるなか、持続可能な食料生産を実現する手段として「バイオスティミュラント」が世界的な注目を集めている。バイオスティミュラントとは、植物や土壌に作用して生育を促進し、干ばつや高温などのストレスへの耐性を高める生物由来・自然由来の資材や微生物のことだ。化学肥料や農薬に頼らない農業を可能にすることで、温室効果ガスの削減や土壌健全化にも貢献できる技術として、農業の脱炭素化を目指す動きと深く連動している。

定義と特徴

バイオスティミュラント(Biostimulant)とは、植物の自然な生理プロセスを刺激・強化することで、栄養吸収効率の向上、非生物的ストレス(干ばつ・高温・塩害など)への耐性強化、品質や収量の改善をもたらす物質・微生物・その混合物の総称だ。EU規則2019/1009ではEU肥料製品の一カテゴリとして正式に定義され、国際的な規制・市場整備が進んでいる。日本国内では「微生物農薬」「土壌改良資材」「特殊肥料」など既存の法体系に分散して位置づけられているが、農林水産省もその重要性を認識し議論が本格化している。バイオスティミュラントの最大の特徴は、農薬のように病害虫を直接防除するのではなく、植物・土壌の「本来の力」を引き出す点にある。

化学肥料・農薬との違い

化学肥料は窒素・リン・カリウムなどの栄養素を直接植物に供給するものだ。一方、バイオスティミュラントは栄養素そのものを供給するのではなく、植物が土壌中の栄養素をより効率よく吸収・利用できるように働きかける。農薬は病害虫・雑草を化学的に防除するが、バイオスティミュラントはそうした外部の脅威への直接作用ではなく、植物自身の抵抗力・回復力を高めるアプローチをとる。このため、化学農薬・肥料の使用量を減らしながらも一定の生産性を維持するという「減農薬・減化学肥料農業」との親和性が高く、有機農業・持続可能な農業の実践において有力な選択肢となっている。

バイオスティミュラントの主な種類

微生物系バイオスティミュラント

微生物系バイオスティミュラントは、植物の生育を助ける有益な微生物を活用した資材だ。代表的なものとして、菌根菌(Mycorrhizal fungi)と根圏促進微生物(PGPR: Plant Growth-Promoting Rhizobacteria)がある。

菌根菌

菌根菌は植物の根と共生し、菌糸ネットワークを通じてリンや水分の吸収を大幅に改善する微生物だ。地球上の陸上植物の約80%が菌根菌と共生関係を結んでいるとされ、特に過剰な化学肥料施用によって失われた土壌微生物叢の回復を助ける効果がある。干ばつ条件下でも水分吸収を助けることから、気候変動によって増加する旱魃(かんばつ)リスクへの対応として注目されている。

根圏促進微生物(PGPR)

PGPRは根の周囲(根圏)に生息し、植物ホルモンの産生、窒素固定、難溶性リンの可溶化などを通じて植物の生育を促進する細菌群だ。化学窒素肥料の代替・補完として機能するものもあり、肥料由来の亜酸化窒素(N₂O)排出量—農業分野の主要な温室効果ガス—を削減する手段として期待されている。代表例としてAzospirillum属、Bacillus属、Pseudomonas属などが知られる。

非微生物系バイオスティミュラント

非微生物系バイオスティミュラントは、海藻・植物・動物由来の天然物質や腐植物質など多岐にわたる。代表的な種類として、フミン酸・フルボ酸、海藻エキス、タンパク質加水分解物、キトサン、珪酸などがある。

フミン酸・フルボ酸

フミン酸・フルボ酸は有機物が長期間分解・変質してできた腐植物質だ。土壌構造を改善し、保水性・通気性を高めるとともに、栄養素の吸収を助けるキレート作用を持つ。土壌有機物量の増加を通じて土壌炭素の固定にも貢献し、農地の炭素吸収源としての機能を高める効果が期待されている。

海藻エキス

海藻エキス、特にコンブ目などの褐藻類から抽出したものは、植物ホルモン様物質(サイトカイニン・オーキシン)、ミネラル、多糖類などを豊富に含む。乾燥・塩害・低温などのストレスへの耐性を向上させる効果が複数の研究で確認されており、気候変動による異常気象への適応に有効な資材として普及が進んでいる。

タンパク質加水分解物・キトサン

タンパク質加水分解物はアミノ酸・ペプチドを含み、植物の窒素同化を促進するとともにストレス応答を強化する。食品加工残渣などから製造されるものも多く、廃棄物の有効活用という観点からも注目される。キトサンはカニ・エビなどの甲殻類から得られる多糖類で、植物の免疫応答を高め病害抵抗性を強化する作用を持つ。

気候変動対策としてのバイオスティミュラント

干ばつ・高温ストレスへの耐性強化

IPCCの報告書によれば、気候変動の影響で2050年までに農業生産性が最大25%低下するリスクがあるとされる。特に干ばつと熱波の頻度・強度の増加は、食料安全保障に直結する深刻な脅威だ。バイオスティミュラントはこうした非生物的ストレスに対して複合的に機能する。菌根菌による水分吸収効率の向上、海藻エキスやPGPRによる浸透圧調整物質(プロリンなど)の蓄積促進、抗酸化酵素活性の向上などにより、植物は高温・乾燥下でもより安定した生育を維持できる。化学的な手段に頼らず植物の自然な適応力を高めるアプローチは、気候変動適応農業の核心的な戦略として世界中の農業機関から高く評価されている。

温室効果ガス削減への貢献

農業部門は世界の温室効果ガス排出量の約10〜12%を占める。そのうち化学窒素肥料の施用に伴う亜酸化窒素(N₂O)の排出は大きな比重を持ち、N₂OのGWP(地球温暖化係数)はCO₂の約298倍とされる。バイオスティミュラントの活用によって窒素利用効率が向上すれば、同じ収量を達成するために必要な化学窒素肥料の投入量を減らすことができ、N₂O排出量の削減につながる。さらに、化学肥料の製造プロセスはエネルギー集約的で大量のCO₂を排出する。バイオスティミュラントへの代替・補完は製造段階の排出削減にも間接的に貢献する。

土壌炭素固定と農地の炭素吸収源化

土壌は地球上最大の陸域炭素プールであり、世界の土壌有機炭素量は大気中のCO₂の約3倍にあたる。農地の土壌有機炭素を増加させることは、気候変動緩和の有効な手段として「4per1000イニシアチブ」などの国際的な取り組みでも注目されている。バイオスティミュラント、特に菌根菌やフミン酸は、土壌の有機物分解・蓄積プロセスに作用し、土壌炭素量の維持・増加を助ける。また、植物の生育促進と根圏への有機物供給増大によって、農地が炭素吸収源として機能することへの貢献も期待される。

生物多様性の保全との連携

化学農薬・肥料の過剰使用は土壌微生物叢の多様性を破壊し、受粉昆虫の減少や水生生態系の富栄養化など生物多様性への深刻な影響をもたらしてきた。バイオスティミュラントへの転換は、こうした化学物質の使用量削減を通じて農地の生物多様性回復にも寄与する。昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)が掲げる「30by30」目標や農業由来の汚染削減目標との整合性も高く、気候・自然の二重危機への統合的な対応策として位置づけられる。

世界と日本のバイオスティミュラント市場

グローバル市場の急成長

グローバルバイオスティミュラント市場は急速に拡大しており、2022年時点で約30億ドル規模と推計され、2030年までに80億ドルを超えると予測するリポートも多い。欧州が最大の市場を形成しており、EU肥料規則(EU 2019/1009)によるバイオスティミュラントの法的位置づけ明確化が市場拡大の追い風となっている。北米・アジア太平洋でも成長が著しく、大手農業資材メーカー(BASF、UPL、Koppert、Syngentaなど)がこの分野に積極的に参入・投資している。

EU規則2019/1009とグローバルスタンダード化

EU規則2019/1009は、バイオスティミュラントをEU肥料製品の公式カテゴリとして初めて明確に定義した画期的な規制だ。微生物系・非微生物系の種別ごとに安全性・有効性の評価基準とCEマーキング要件を定めており、科学的根拠に基づく製品評価の枠組みを提供している。この規制は事実上のグローバルスタンダードとして機能しており、日本を含む多くの国の規制整備の参考にされている。

日本国内の現状と課題

日本では「みどりの食料システム戦略」(2021年農林水産省)において2050年までに化学農薬使用量を50%削減、化学肥料使用量を30%削減するという目標を掲げており、バイオスティミュラントはその実現手段の一つとして期待されている。一方で、日本ではバイオスティミュラントの統一的な法的定義が存在せず、製品によって農薬取締法・肥料法・特定肥料の各規制に分散している。業界団体による自主的な規格化の動きも始まっているが、市場の透明性・信頼性確立のためには行政による明確な定義・評価基準の策定が求められている。

農業現場でのバイオスティミュラント活用

野菜・果樹栽培での効果

トマト・イチゴ・レタスなど多くの野菜で、バイオスティミュラント施用による品質(糖度・抗酸化成分)と収量の向上が報告されている。特に海藻エキスやアミノ酸系バイオスティミュラントは定植後のストレス緩和と初期生育促進に効果的で、施設栽培・露地栽培の両方で活用されている。果樹では菌根菌の接種によって定植時の活着率向上と干ばつ耐性強化が期待でき、有機果樹園での採用が増加している。

水田・稲作への応用

稲作分野ではPGPRや珪酸系バイオスティミュラントの研究が進んでいる。PGPRの活用によって窒素施肥量を削減しながら収量を維持する試みは、アジア各国の農業研究機関で成果を上げている。水田は強力な温室効果ガスであるメタン(CH₄)の主要な排出源でもある。バイオスティミュラントを活用した栽培管理の最適化がメタン排出量削減に貢献する可能性についても研究が続けられている。

スマート農業・デジタル技術との融合

ドローンやセンサー、AIを活用したスマート農業との組み合わせは、バイオスティミュラントの効果を最大化する新たなアプローチとして注目される。圃場の土壌微生物叢のDNA分析(メタゲノミクス)によってバイオスティミュラントの効果を定量的に評価し、最適な製品・散布時期・量を決定する精密農業との統合が進んでいる。気候変動によって農業リスクが高まるなか、デジタル・バイオの融合はリスク管理と持続可能性を両立する農業の姿として世界的に注目されている。

バイオスティミュラント普及に向けた課題

科学的エビデンスと製品品質の標準化

バイオスティミュラント市場が成長する一方、製品の品質・効果にはばらつきが大きく、科学的エビデンスの水準も製品によって大きく異なる。微生物系製品は製造・保存・施用条件によって生菌数が変動しやすく、均一な品質管理が難しい。非微生物系でも有効成分の含量や規格が統一されていないケースがある。国際バイオスティミュラント産業コンソーシアム(IBMA)などの業界団体は効果証明のためのガイドラインを整備しつつあり、科学的根拠に基づく市場形成が課題となっている。

農家への普及とコスト課題

バイオスティミュラントの効果は圃場条件・土壌・気候・作物品種によって異なり、「使えば必ず効く」という単純な製品ではない。農家にとって効果の予測可能性の低さは導入の心理的ハードルとなっている。また、製品コストが化学肥料に比べ割高な場合も多く、特に小規模農家への普及が課題だ。効果的な普及には農業普及員や農協を通じたデモンストレーション、補助制度の整備、成功事例の共有が重要とされる。

規制・制度整備の遅れ

欧州以外の多くの国でバイオスティミュラントの明確な法的定義は存在せず、製品登録・承認のプロセスが不透明・複雑なままだ。日本でも現行制度の複雑さが新製品の市場参入の障壁となっている。規制整備の遅れは消費者・農家の信頼醸成を妨げ、市場の健全な発展を阻害する。「みどりの食料システム戦略」の達成に向けて、バイオスティミュラントの法的位置づけ明確化と迅速な登録制度の確立が急務だ。

よくある質問

バイオスティミュラントは有機農業に使えますか?

多くのバイオスティミュラントは有機農業での使用が可能です。ただし製品によって有機JAS規格や各種有機認証との適合性が異なるため、使用前に製品の認証状況を確認することが必要です。微生物系や海藻エキス・腐植物質系は有機農業との親和性が高い傾向にあります。

バイオスティミュラントと肥料はどう違うのですか?

肥料は植物に必要な栄養素(窒素・リン・カリウムなど)を直接供給するものです。一方バイオスティミュラントは栄養素を直接供給するのではなく、植物が土壌中の栄養素をより効率よく吸収・利用できるように助けたり、植物のストレス耐性を高めたりするものです。両者を組み合わせることで肥料の使用量を削減しながら効果を維持することができます。

どんな作物にも効果がありますか?

バイオスティミュラントの効果は製品の種類・作物・土壌条件・気候によって異なります。野菜・果樹・穀物・豆類など幅広い作物に適用可能な製品がありますが、特定の作物や条件で顕著な効果が確認されているものもあれば、効果が限定的なケースもあります。導入前に試験圃場での評価や専門家への相談を行うことが推奨されます。

気候変動対策として特に有効なバイオスティミュラントはどれですか?

干ばつ耐性の強化には菌根菌・海藻エキス・PGPRが特に有効とされています。高温ストレス軽減にはアミノ酸系バイオスティミュラント、土壌炭素固定にはフミン酸・フルボ酸、温室効果ガス削減目的では窒素固定菌を含むPGPRが注目されています。気候変動適応と緩和の両側面に対応できる微生物系バイオスティミュラントは、今後最も急成長が期待される分野です。

家庭菜園でも使えますか?

はい、家庭菜園でも使用できるバイオスティミュラント製品は多くあります。菌根菌や海藻エキスを含む土壌改良材・液肥として市販されているものも多く、プランター栽培から家庭菜園まで幅広く活用できます。化学農薬・肥料への依存を減らしたい方にとって取り組みやすい選択肢の一つです。

日本でバイオスティミュラント製品はどこで購入できますか?

農業資材店・農協・ホームセンターの農業コーナーなどで購入できます。微生物系の製品は農業専門の資材店やオンラインショップでの取り扱いが多く、菌根菌資材や海藻エキス製品はガーデニング用途でも広く販売されています。製品選びには用途(作物種類・課題)を明確にした上で、できれば農業試験場や農業改良普及センターに相談することをお勧めします。

バイオスティミュラントの効果が出るまでにどれくらいかかりますか?

製品の種類や目的によって異なります。海藻エキスやアミノ酸系など即効性のある資材は施用後数日で植物の変化が見られることもあります。一方、菌根菌など微生物系は土壌中に定着・増殖するのに数週間〜数カ月かかる場合があり、複数の作付けを経て効果が安定してくるケースもあります。長期的な土壌健全化を目的とする場合は、複数シーズンでの評価が推奨されます。

バイオスティミュラントに副作用はありますか?

適切に使用すれば人体・環境への安全性は高いとされています。自然由来・微生物由来の成分が多く、化学農薬に比べ毒性リスクは低い傾向にあります。ただし微生物系製品では、免疫機能が低下している人への一部の微生物の安全性など、特定の条件下でのリスクについて研究が続けられています。EU規則のように科学的評価に基づく安全性審査が整備されることが、信頼性ある製品普及の基盤となります。

バイオスティミュラントは食料安全保障にどう貢献しますか?

気候変動による農業生産性の低下・化学肥料の原料(リン・窒素)資源の枯渇・肥料価格の高騰は、世界の食料安全保障に対する構造的な脅威です。バイオスティミュラントはこれらの課題に対して、気候変動適応による収量安定化、肥料利用効率の向上による投入コスト削減、土壌の長期的な生産力維持という三つの側面から貢献できます。特に新興国・途上国での小規模農家の生産性向上と環境負荷低減を同時に達成する手段として、国際農業研究機関からの期待も大きい分野です。

日本の「みどりの食料システム戦略」とバイオスティミュラントはどう関係しますか?

農林水産省が2021年に策定した「みどりの食料システム戦略」は、2050年までに化学農薬使用量50%削減・化学肥料使用量30%削減・有機農業面積を農地全体の25%に拡大するという目標を掲げています。これらの目標を達成するための代替・補完技術として、バイオスティミュラントは重要な役割を担います。日本政府もその重要性を認識しており、法的整備・普及支援に向けた動きが加速しています。バイオスティミュラントの普及は日本農業の持続可能な転換を支える核心技術の一つです。

※掲載している情報は、2026年5月22日時点のものです。

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