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ごみ埋立地として知られていたニューヨークのスタテン島で、約5万株のスミレを植える再生プロジェクトが進められている。かつて世界最大級といわれた埋立地が、生態系回復を象徴する場所に生まれ変わる。

Ouchi_Seiko
ライター
フランス在住。美容職を経て2019年よりライターに。居住地フランスのサステナブルな暮らしを手本に、地球と人にやさしい読みものを発信。
アメリカ・ニューヨーク市に属するスタテン島。この島の中西部には、かつて世界最大級といわれたごみの埋立地が存在していた。
ごみの埋立は1948年から2001年まで行われており、最盛期の1986~87年には1日あたり最大2万9千トンのごみが運び込まれていたという。2万9千トンのごみというと、全長30m近くにもなるシロナガスクジラ145頭分もの量に匹敵する。
しかし、その跡地でいま「フレッシュキルズ・パーク」として、約5万株のスミレを植栽する大規模なプロジェクトが進められている。旧埋立地を生態系回復の場として再生する取り組みで、長らく断ち切られてきた野生生物のつながりを取り戻す目的がある。
事業を主導するのは、スタテン島の民間団体「The Freshkills Park Alliance(フレッシュキルズ・パーク・アライアンス)」。同団体は、全米環境教育基金の助成を受けながら、スミレの植栽を通して蝶やミツバチといったポリネーター(花粉媒介昆虫)の生息地づくりも目指している。在来種のスミレは土地に適応して力強く育つため、これらの生物に安定した環境をもたらしやすい。
フレッシュキルズ・パーク全体の面積は約2,200エーカーで、完成すればマンハッタンのセントラルパークのほぼ3倍の広さになる。一部完成したノースパーク(21エーカー)は2023年10月に先行オープンしており、全面的な完成は2036年を予定している。
スミレ植栽の取り組みは、まず外来種の徹底的な除去からスタートした。土地を覆っていたヨモギやハギを人力で取り除き、土を耕したうえで、侵入防止のシートを敷き詰める。地味で時間のかかる作業だが、この緻密さが長期的な植栽成功の鍵になるという。
フレッシュキルズ・パーク・アライアンスのマーク・マーフィー会長は、2,200エーカーの在来草地がさまざまな環境に役立っていると話す。再生された草地は大気中の炭素を効率よく吸収し、自然の回復力や環境の持続可能性を示す場にもなっている。
さらに、フレッシュキルズ・パーク・アライアンスの科学者たちは今後2年間にわたり、スミレの定着率、ポリネーターの活動、気候変動、そして大気環境が生態系に与える影響などを細かく観察していく予定だ。これには、単なる植栽ではなく、都市における生態系回復のモデルケースづくりという大きな目標がある。
Photo by Nancy Hann
フレッシュキルズ・パークでは、ノースパークを中心に、今後2年以内にスミレが咲き誇る豊かな草原が広がる見込み。訪れる人々は、長らくごみ埋立地として扱われてきた土地が、生き生きとした自然の生息地へと変わる姿を目にするだろう。
この再生はまた、スタテン島の人々の暮らしにも価値ある変化をもたらす。市民にとっては公園が憩いの場になり、学生や研究者にとっては自然環境を学ぶ生きた教室になる。住民たちがボランティアとして復元作業に参加することで、自然を守るという連帯意識が生まれる点も大きい。
ごみの埋立地は世界中に点在する。フレッシュキルズで始まった取り組みが、そうした場所の次の姿を描く手がかりになるかもしれない。
※参考
Staten Island Landfill Transformation: Massive Violet Planting Project Begins |Happy Eco News
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