ごちそうになった規格外なす──『すくすくOisix』食育イベントレポート

すくすくOisix

まだまだ暑さが残る9月某日。オイシックス・ラ・大地株式会社(以下オイシックス)は、横浜市の保育園にて食育イベントを開催した。同社は「すくすくOisix」給食プロジェクトとして、農家と子どもたちをつなぐ食育コンテンツを展開している。ふだん見ることのない規格外野菜を手に取った園児たちの反応や本プロジェクトの取り組みをレポートする。

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2025.10.02

食品ロスから考える、未来の食のあり方

日本では、まだ食べられるのに廃棄される食品が年間約460万トンにものぼると推計されている(※1)。その一因となっているのが「規格外野菜」だ。きゅうりが曲がっている、トマトに傷がある、色が揃わない、袋に入らない──味や栄養には問題がないのに、見た目が理由で流通に乗らず廃棄されてしまうケースが後を絶たない。

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近年は猛暑や台風などの異常気象が農業に与える影響も深刻だ。皮が薄くデリケートななすは、枝が揺れて擦れるだけで傷がつくことも多く、規格外として扱われる割合が増えている。そんな現状を背景に、オイシックス・ラ・大地株式会社(以下オイシックス)は、規格外のなすを題材にした食育イベントを企画した。同社が運営する「すくすくOisix」給食プロジェクトは、保育施設に食材や献立を届けるだけでなく、農家と子どもたちをつなぐ食育コンテンツを展開している。野菜の背景や多様性を子どもたち自身が体験を通じて学ぶことで、“食べものを大切にする心”を育むことを目的としている。横浜市港北区の「マイ・ハート綱島東保育園」で2025年9月に行われたプログラムのテーマは「なす」。子どもたちが規格外野菜を実際に見て、触れて、味わう機会が用意された。

子どもたちが出会った“ふぞろいのなす”

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最初に先生が花の写真を見せ、「これなーんだ?」と問いかけると、子どもたちの視線が集まった。「正解はなすだよ!」と答えると、教室の空気が一気に和んだ。続いてかごに並んだいろいろな種類のなすを見せながら、「これはぜんぶなすだよ。色も大きさも形も違うね」と説明すると、子どもたちは興味津々に見入っていた 。

机の上に配られたのは、白なす、青みがかったトロなす、紫色の正規品と訳あり品。子どもたちは見比べながら手に取り、じっと眺めたり鼻を近づけたりして観察していた。「種はどこにあるの?」と質問する子もいて、形や色の違いを不思議そうに確かめていた 。

先生は「皮に傷があるね」「こんなに大きいと、お店では売ることができないんだよ」と解説。実際に切って断面を見せ、「中身は同じ。味も変わらないんだよ」と伝えると、子どもたちは真剣な表情で耳を傾けていた 。

さらに、畑から届いた枝つきのなすも登場。子どもたちは順番に手に取っていた。オイシックスの担当者・加月香奈美さんは「なすの皮はとてもやわらかいので、枝にぶつかるだけで傷がついてしまいます」と補足。なぜ“規格外”が生まれるのかを、子どもたちは実物を通じて学んでいった。

生産者とつながるひとときが“意識”を育む

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ここで画面の向こうに登場したのは、農家の桒原さんだった。子どもたちからは「どうやって野菜が育つの?」「土の中の野菜は1日にどのくらい水を飲んでいるの?」といった質問が投げかけられる 。

桒原さんは「野菜は水と太陽で元気になるんだよ」と答え、さらに「朝はたっぷり水をあげるけれど、元気なときは少なくても大丈夫。人間と同じで、あげすぎてもよくないんだ」と説明。子どもたちは驚いたように顔を見合わせながら、真剣に耳を傾けていた 。

ふだんは“誰がつくったのか”を意識せずに口にする野菜。その背景を、生産者本人から直接聞く体験は子どもたちにとって新鮮で、食べものと人とのつながりを実感する貴重な時間となった。このように人とのつながりを知ると、いつもよりもすすんで食べるようになると主任の先生も話す。

給食に登場した「ふぞろいなすのミートソース」

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先生が「さっきみんなが見たなすが、これから給食に出てくるよ。どの料理に入っているか見つけて食べてみよう!」と声をかけると、子どもたちは期待に胸をふくらませた 。この日の給食は、園の誕生日会に合わせて管理栄養士が特別に編集した「なすのミートソース」だった 。運ばれてきた皿をじっと見つめる子どもたち。ふだんはなすを残す子も、一口食べてみようと挑戦する姿が目立ち、黙々と食べ進める様子もあった。

主任の先生によれば「こうしたイベントの日は子どもたちの食べ残しがぐっと減る」という。食材の背景を知り、自分の手で観察したうえで口に運ぶ体験が、子どもたちの食欲や意欲につながっているのだ。食べ終えた後には、満足そうな笑顔が多く見られた。

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小さな気づきが未来を変える

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「すくすくOisix」プロジェクトは現在、関東と関西を中心に約1000の保育施設で展開されている。生産者の顔が見える紙芝居や枝つき野菜の提供、ふだんは出合えない加工品を教材にする取り組みなど、内容は多彩だ 。
オイシックスの加月さんは「食育の効果はすぐに表れるものではありません。でも、大人になったときに食生活を豊かにする“種まき”だと考えています」と語る。子どもたちが体験を通じて得た小さな気づきは、やがて家庭や社会に広がっていく。

今回のなすプログラムでは、子どもたちは規格外のなすに触れ、農家さんの話を聞き、給食で実際に食べる体験を重ねた。その一つひとつが「見た目が違っても同じおいしさ」「食べものは無駄にできない」という学びにつながっている。

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食品ロスの削減は、社会全体で取り組むべき課題だが、その一歩は日常の小さな気づきから始まる。規格外なすを通じて得た子どもたちの体験は、未来の食卓を持続可能に変えていく大切な“種”になるだろう。

※ 農林水産省・環境省・消費者庁|我が国の食品ロスの発生量の推計値(令和5年度)

撮影/オイシックス・ラ・大地 取材・執筆/河辺さや香 編集/後藤未央(ELEMINIST編集部)

※掲載している情報は、2025年10月2日時点のものです。

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