サステナブルな未来をつくるココナッツの可能性

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ココナッツが地球環境にも人にもやさしい影響のある果実だということを知っているだろうか。生育課程から果実の活用まで、いま注目されている素材だ。今年フィリピン大使館で開催されたココナッツの専門店「ココウェル」のイベントで紹介されたココナッツの持続可能性や健康効果についてレポートする。

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2025.09.07

環境にやさしいココナッツの可能性

ココナッツ

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ココナッツは、環境にやさしい持続可能な作物として注目されている。海岸沿いの塩分を含む土壌でも育ち、少ない水と肥料で70〜100年もの間収穫が可能だ。また、その実は果肉、殻、繊維、水分に至るまで無駄なく活用でき、廃棄物を出さない循環型の利用ができる。そのため、ココナッツにおける生産量・輸出量・消費量すべてで世界第1位を誇る(アメリカ農務省2019より)フィリピンでは、ココナッツが重要な産業となっている。

このフィリピン産のココナッツを活用し、輸入・販売を手がけるのが「ココウェル」だ。ココウェルは、ココナッツオイルの生産・販売を通じて人々の健康をサポートすると同時に、フィリピンの雇用創出や貧困問題の解決にも取り組んでいる。代表の水井氏は、大学卒業後、環境問題への関心からフィリピンへ留学。その際、スモーキーマウンテンと呼ばれるごみの山で暮らす人々の存在に衝撃を受けた。彼らの多くは、農村部から安定した仕事を求めて都市へ移住してきた人々だったのだ。

ココウェル

ココウェル代表の水井氏。

一方、フィリピンの農村にはココナッツが豊富に育っていたが、当時は植民地時代の名残でかなり安く買い叩かれていること、そして農家がココナッツを付加価値の高い製品に加工する方法を知らず、適切な支援も受けられていなかった。この現状を目の当たりにした水井氏は、「農村の人々にココナッツの価値をきちんと再認識してもらい、産業として軌道に乗せることができれば農村に活気が戻るのではないか」と考えた。そして2004年に「ココウェル」を設立した。

ココウェルは、ココナッツの持続可能性に着目し、環境に配慮した生産方法の促進や農家の自立支援に取り組んでいる。また、日本市場においても、適切な情報発信と製品開発を通じて、サステナブルなビジネスモデルの構築を目指してきた。現在は、無臭タイプの精製ココナッツオイルやMCTオイルなど、日常的に使いやすい製品の開発に注力し、ココナッツの新たな可能性を追求し続けている。

ココウェル商品ラインアップ

ココナッツは、木も葉も実も全てが捨てるところなく活用される利用価値の高い植物だ。

なぜ今、ココナッツが選ばれるのか? ~ブームからの進化と持続可能な未来~

イベントの第1部では、ココナッツオイルがなぜ現在再び注目されているのか、2014年のブームとその後の変遷、持続可能な特徴について語られた。

ココナッツオイルは2014年頃に大きなブームを迎えたものの、一過性の流行にとどまり、その後は市場の関心が薄れていった。その背景には、いくつかの課題があったという。まず、健康効果に関する情報が十分に浸透していなかったことが挙げられる。ココナッツオイルが健康にどのようなメリットをもたらすのか、具体的な効果が明確に伝わらず、消費者の間で十分な理解が得られなかった。また、使い方の情報も不足しており、どのように調理に取り入れればよいのかわからず、結果として継続的に利用する人が限られていた。

さらに、ココナッツオイル特有の香りや風味が、家庭料理に取り入れる際のハードルとなっていた。当時主流だったエキストラバージンココナッツオイルは、ココナッツ本来の甘い香りが特徴的で、料理の風味を大きく左右するため、日常的な使用に違和感を覚える消費者も少なくなかったという。

フィリピンにおける各オイルの輸出量

フィリピンにおける各オイルの輸出量(フィリピン・ココナッツ庁)

しかし現在は、香りがほとんどない精製ココナッツオイルの輸出量が増加しており、より幅広い層に受け入れられるようになってきた。実際、フィリピンにおける2024年1月〜10月のデータによると、エキストラバージンココナッツオイルに対し、精製ココナッツオイルの輸出量は11倍以上にのぼる。

ココナッツオイルの市場が拡大する背景には、その持続可能な特性が大きく関係している。環境負荷の少ない作物であり、ほぼすべての部分を活用できることから、エシカルな食品としての価値も高まっている。

ココナッツのサステナブルな特徴

ほぼ捨てるところのない持続可能な植物

ココナッツ

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もっとも硬い外果皮から実のなかにある水分まで、余すところなく活用できる。

ココナッツの魅力のひとつは、その高い持続可能性にある。驚くべきことに、ココナッツはほとんど廃棄する部分がなく、実のすべての部分を活用することが可能だ。

たとえば、硬い殻は粉砕して農業用資材として再利用され、外側の繊維状の部分は束ねてたわしとして活用されることもある。白い果肉部分は、オイルやミルクの原料となるだけでなく、乾燥させればココナッツフラワー(ココナッツ粉)として利用可能。また、実のなかにある透明な液体はそのまま飲料として楽しめるほか、発酵させるとナタデココになり、さらに加工することでお酒や酢へと生まれ変わる。

また、ココナッツは環境適応力が高いことも、その持続可能性を支える要因のひとつだ。ココナッツは農薬や肥料をほとんど必要としないため、環境への負荷が少ない。また、一度植えれば70〜100年という長期間にわたって実をつけるため、安定した収穫が可能だ。さらに、地中のミネラルや塩分を養分として活用できる植物のため、温暖化により海水面が上昇した場合でも塩害の影響を受けにくい。そのため、沿岸部では貴重な食糧源となっている。

注目のアグロフォレストリーに適した特性

ココナッツ

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そして、ココナッツはアグロフォレストリー(森林農法)にも適している。ココヤシの木は20〜30mもの高さに成長し、根っこが幹の近くに集中していて広がらないため、他の植物を邪魔しない特性がある。そのため、その下でバナナやマンゴーといった果物や、コーヒーやカカオなどのマメ科の樹木、かぼちゃなどの野菜やハーブなどの栽培が可能。また、鶏などの家禽の飼育や、牛や山羊などの家畜も同時に行うことができ、土地を有効に活用した生産システムをつくることも可能だ。

「ココナッツのすべての部分を活用できる点は、非常にサステナブルな特徴です。長期間にわたり収穫できるので、環境への負荷も少ないのです」と水井氏は言う。

近年では、こうしたココナッツの持続可能な特性が評価されると同時に、世界的な市場も拡大を続けている。市場データによると、世界のココナッツオイルの市場規模は、2024年の65億7,000万米ドルから2033年には124億8,000万米ドルに成長し、2026年から2033年の予測期間中に7.38%の堅調な年間平均成長率(CAGR)を示すと予測されている。これは、世界的な健康意識の高まりが大きな要因となっており、今後さらに市場の成長が期待される。

一時のブームにとどまったココナッツオイルだが、現在は香りのない製品の登場や世界的な健康志向の高まりにより、新たな広がりを見せている。持続可能な食品としての価値も再評価されつつあり、今後ますます注目される存在となるだろう。

ココナッツオイルのメリット〜体にやさしい脂質の新常識〜

第2部では、ココナッツオイルの健康面でのメリットについて、科学的な視点も交えて詳しく解説された。ココナッツオイルは、健康面においてもさまざまなメリットがあるという。近年では、従来の植物油に代わる健康的な選択肢として、その価値が再評価されている。

①酸化に強く、調理油としても優秀

ココナッツオイルの約92%は飽和脂肪酸で構成されており、二重結合を持たないため酸化しにくい特徴を持つ。これは他の一般的な油と比較して安定性が非常に高いことを意味し、調理油として加熱しても酸化しにくい。

「飽和脂肪酸はかつて敬遠されがちでしたが、近年はその安定性と健康効果が再評価されています(水井氏)」

②抗菌・抗ウイルス作用が期待できる

ココナッツオイルにはラウリン酸などの中鎖脂肪酸が豊富に含まれており、これらには強い抗菌・抗ウイルス作用があることで知られている。たとえば、黄色ブドウ球菌や緑膿菌、カンジダ菌などの細菌に対する抗菌効果があり、さらにインフルエンザやコロナウイルスなどのウイルスに対しても一定の効果があるとされている。

「フィリピンでは、ココナッツオイルの抗ウイルス作用が評価され、政府が支給するほどの信頼があります(水井氏)」

③エネルギーになりやすい中鎖脂肪酸(MCT)を豊富に含む

ココナッツオイルの大きな特徴のひとつが、中鎖脂肪酸(MCT)の豊富さだ。一般的な油脂の多くが長鎖脂肪酸であるのに対し、ココナッツオイルにはC12のラウリン酸を中心とした中鎖脂肪酸が約50%含まれている。

中鎖脂肪酸のメリットとして、以下の点が挙げられる。
・消化・吸収が速く、長鎖脂肪酸と比べて4倍の速さで吸収され、10倍の速さで代謝される
・胆汁酸を必要とせず、直接肝臓に運ばれ、エネルギー源としてすみやかに利用される
・ケトン体になりやすく、糖質制限をしている人や持久力を必要とするアスリートのエネルギー補給にも適している

また、MCTオイルの製造方法にも違いがある。一般的なMCTオイルは高温で加熱処理して分離するのに対し、ココウェルのMCTオイルは低温で分離する製法を採用しており、より自然な形で中鎖脂肪酸を抽出している。これにより、栄養価を損なうことなく、より純粋なMCTオイルを提供できるという。つまり、ココナッツオイルは体内でエネルギーに変換されやすく、脂肪として蓄積されにくい油であると言える。

「ココナッツオイルは、単なる流行ではなく、健康と持続可能性を兼ね備えた価値のある食品です。適切に活用することで、より多くの人の生活を豊かにできると考えています(水井氏)」

毎日の選択が未来をつくる。ココナッツが拓くサステナブルな未来

ココナッツオイルは現在、従来のブームを経て、持続可能な食品として新たな評価を得ている。とくに香りがほとんどしないタイプのココナッツオイルは料理の味を変えずに日常使いができるため、従来の植物油の代替として普及しつつある。

水井氏は「ココナッツオイルは熱に強く、酸化しにくい特性を持っているので、家庭でも繰り返し使用できる点が魅力です」と語る。実際、一般的な植物油と比較して長持ちすることが確認されており、環境負荷を抑えながら経済的にもすぐれた選択肢となる。また、ココナッツ産業の発展はフィリピンの農村部の経済支援にもつながり、都市部への人口流入によって生じる社会問題の緩和にも寄与する可能性がある。

私たちにできることは、食品の生産背景を知り、その選択が環境や社会に与える影響を意識しながら消費すること。その積み重ねが、より持続可能な社会の実現につながっていく。

ココナッツオイルを選ぶことは、単に健康的な選択であるだけでなく、環境への負荷を抑え、生産地の人々の暮らしを支えることにつながる。私たち一人ひとりがその背景にあるストーリーを知り、日々の選択に反映させることが、未来を変える大きな力となるだろう。

ココウェル公式サイトはこちら

取材・執筆/藤井由香里 編集/後藤未央(ELEMINIST編集部)

※掲載している情報は、2025年9月7日時点のものです。

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