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スウェーデンで、EVを活用した双方向充電の実証プロジェクトが始まる。この取り組みでは、従来通りにEVへ充電するほか、EVに貯めた電力を家庭や電力網に供給が可能だ。
Ouchi_Seiko
ライター
フランス在住。美容職を経て2019年よりライターに。居住地フランスのサステナブルな暮らしを手本に、地球と人にやさしい読みものを発信。
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2024年、バッテリー電気自動車(EV)の市場シェアが35%に達したスウェーデン。EVの普及がさらに進むなか、新たな取り組みがスタートする。EVのバッテリーを活用して、家庭や電力網に電気を戻す「双方向充電」の実証プロジェクトだ。
EVの双方向充電とは、電力網からEVに充電するだけでなく、EVのバッテリーから電力網に電力を供給できる仕組み。従来のEVは、電力網からEVに充電する一方通行の充電システムだ。これを、EVから電力網への充電もできて、双方向でのエネルギー交換を可能にするのが、双方向充電だ。
双方向充電のメリットは、電力網の安定化が期待できることだ。停電などの緊急時には、EVからの電力供給ができる。
スウェーデンでの双方向充電の取り組みを主導するのは、国営電力会社、バッテンファール(Vattenfall)。EVには、ドイツのAmbibox社が提供する200台の双方向チャージャーが導入される。
双方向チャージャーは、EVへの「充電」と「放電」の両方に対応し、バッテリーを一時的な蓄電池として活用できるのが特徴だ。設置場所は、一般家庭やフォルクスワーゲンのディーラーが予定されている。
さらに、スウェーデンのソフトウェア会社、エナジーバンクが全体の運用を支える。システムの管理を行いながら、送電先や電力の供給タイミングを調整・最適化するという。
バッテンファールは、今回のプロジェクトを通して、システムの正確性やユーザーの満足度、節約効果や収益性をすべて検証する予定だ。有益性が認められれば、本格的な商用サービスの展開も視野に入れている。
この仕組みの興味深いところは、双方向チャージャーを設置した一般家庭から、使わなかった電力を電力市場へ売れるという点だろう。バッテンファールは今回のプロジェクトで、電力需給の調整を行う取引市場において、「バランス責任者(BRP)」および「バランスサービス提供者(BSP)」としての役割を担っている。
家庭で使いきれなかった電力は、ソフトウェア会社Energy Bankによってまとめられ、スウェーデン国内の電力調整市場や、北欧の電力取引所Nord Pool、さらに地域の電力調整市場へと販売される。
バッテンファールの顧客製品・ソリューション部門のマネージャーであるマグヌス・ベルグ氏は、「私たちはすでにいくつかのスマート制御サービスを提供しており、これに双方向充電を加えることで、EV所有者と電力網の双方に大きなメリットが生まれる」とコメントしている。
こうした取り組みを行うのは、スウェーデンだけではない。世界ではすでに、EVを「発電所」として活用する流れが広がっている。
たとえば、オーストラリアでは、再生可能エネルギー庁(ARENA)が双方向充電の可能性についてまとめた論文を発表。英国の調査会社によれば、この技術によりEVを所有者の電気代を約70%削減できる可能性があるという。
アメリカやイギリスでも、同様の動きがすでにスタートしている。電力供給源としてのEVが、エネルギーの需給バランスを支える手段になると期待されているのだ。
環境にやさしい車というイメージが強かったEV。双方向充電システムの導入には、適切なバッテリーの導入といった課題はあるが、それらが解決すれば、家庭の電気をまかない、地域のエネルギー供給にも貢献し、さらにはエネルギー資産としての新たな価値を持つようになる。EV所有者が電力の“供給者”として活躍する未来も近いのかもしれない。
※参考
Vattenfall leads Swedish bidirectional charging trial|CURRENT±
Sweden: 35% BEV market share in 2024|European Commission
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