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イタリアの高級ファッション業界で、サプライチェーンにおける労働搾取の根絶に向けた動きが出てきた。世界の高級ファッション製品のおよそ半数を生産する同国のムーブが、業界の倫理を変える一歩となるか。
鴨井里枝|Rie Kamoi
ファッションライター/エディター/ジャーナリスト
イギリスの美術大学でグラフィックデザインを学び帰国後、ファッション週刊紙「WWDJAPAN」の編集部に約10年在籍。ファッションビジネスやトレンドの分析を主に、海外ではNY、ミラノ、ロン…
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イタリアの司法・政治当局、ファッション業界団体、労働組合はこのほど、衣料品や服飾品の製造を担う企業や工場における労働者搾取を防ぐための行動計画に署名した。
きっかけとなったのは、ミラノの検察当局による告発。高級ファッションブランドの製品の製造・縫製を手かける下請け工場において、移民労働者が違法に働かされ、劣悪な環境下での低賃金労働という実態が明らかとなった。検察はこうした状況を「利益を追求するあまり、人命を危険にさらす製造手法」だと、書面で厳しく批判。
今回合意された行動計画では、サプライヤーが税務や労働法、社会保障などの法令を遵守しているかを確認するためのデータベースを新たに構築することが決定した。参加企業は少なくとも6カ月ごとに情報を更新することで、継続的なモニタリングを実施する仕組みだ。
ただし、この制度には法的な拘束力はないため、情報を提供しない企業や工場とも引き続き取引が可能になる。あくまで自主的な取り組みである点は、今後の運用における課題となりそうだ。
一方、ミラノ近郊のロンバルディア州政府は、この制度に参加し、要件を満たした企業に対して、透明性を示す証明書を発行する計画。証明書は半年ごとに更新され、企業の倫理的な姿勢を示すひとつの指標になると期待されている。
世界の高級ファッション製品の約半分を生産しているイタリア。長年にわたり“イタリアンクラシコ”と称される職人技と美意識が高く評価され、日本でも人気のファッションブランドも多くある。
その背景にあった、労働や人権に関する構造的な問題が浮き彫りとなった今回。そしてこの取り組みは、そうした現実に業界全体で向き合うきっかけとなり、今後はより透明で倫理的なサプライチェーンの構築が求められそうだ。
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