Photo by Sun-Ways
スイスでは、線路の2本のレールの間にソーラーパネルを設置するという画期的な取り組みがスタートしている。列車が実際に走行しているなかで行われる、世界初のプロジェクトだ。
Ouchi_Seiko
ライター
フランス在住。美容職を経て2019年よりライターに。居住地フランスのサステナブルな暮らしを手本に、地球と人にやさしい読みものを発信。
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スイスでは、再生可能エネルギーの導入に向けた新たな取り組みがスタートしている。列車が走行する線路で、2本のレールに挟まれたわずかなスペースに、取り外し可能なソーラーパネルを設置するという世界でも初めてのプロジェクトだ。
太陽光発電は幅広く普及しているが、ソーラーパネルを設置する場所が必要になる。そこで、線路の2本のレールにはさまれた土地に目を向けたのが、このプロジェクトの特徴だ。
世界の鉄道網は100万kmを超え、ヨーロッパだけでも26万kmにのぼると言われている。つまり、それだけ広大な使われていない土地があるということで、そこにソーラーパネルを設置できれば、太陽光発電のための新たな土地を確保する必要がなく、環境への負荷も最小限に抑えられる。
推進するのは、のスイスのスタートアップ企業「Sun-Ways(サンウェイズ)」と、スイス連邦工科大学ローザンヌ校。
2025年春、スイス西部・ヌーシャテル州のブテ駅付近にある100メートルの線路区間に合計48枚のソーラーパネルが設置された。今後3年間にわたり、実証実験が行われる。
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ソーラーパネルの設置作業には、スイス鉄道のメンテナンスを担う企業「Scheuchzer(ショイツァー)」が開発した専用列車が使用された。この列車は数時間でおよそ1,000m²のパネルを敷くことができるといい、作業のスピードも大幅に向上している。
さらに特徴的なのは、パネル部分の着脱のしやすさだ。必要に応じて簡単に取り外せるため、メンテナンスや点検作業にも柔軟に対応できるという。こうした利便性は、これまで普及の妨げになっていた、土地の確保や高い労働コストといった課題を克服すると言われている。
ただし、現在の鉄道運営が複雑であるため、ソーラーパネルで発電されたエネルギーは、鉄道システムではなく、地域の一般家庭へ供給住宅される。テストプロジェクトでは、年間16,000kWhが発電できると見込まれ、最終的な年間発電量は1TWhとなり、スイスのエネルギー需要の2%を賄う可能性があるという。
Sun-Ways社はさらに、ヌーシャテル州での試験運用に加え、ヴォー州の私鉄路線における大規模導入に向けた調査をすすめている。スイス国外では、スペイン、ルーマニア、韓国、オーストラリアへの展開も検討されており、このプロジェクトの国際的な広がりが期待されている。
しかし、いくつかの課題もある。国際鉄道連合は、ソーラーパネル上で起こる光の反射が、運転手の視界を妨げる可能性があることを指摘。パネルの耐久性や、火災の発生リスクといった問題にも懸念を示している。
Sun-Ways社はこのような課題に対して、反射防止加工や強化パネルの導入など、品質の改良をすすめているという。雪や氷がパネルの性能を妨げないよう、着氷を防ぐ専用システムの開発にも取り組んでいる。線路を利用したソーラーパネルの大規模設置の実現に向け、実証と改良を積み重ねながら、技術の効率性を高めている段階だ。
とはいえ、既存の鉄道線路にソーラーパネルを設置するというアイデアは、エネルギー生成時の環境負荷を大幅に削減する可能性がある。スイスでのプロジェクトが成功すれば、再生可能エネルギーの拡大を目指す国々のモデルにもなるだろう。持続可能なエネルギーソリューションが求められているいま、スイスの挑戦が業界に新たな突破口をもたらすかもしれない。
※参考
Switzerland to Launch World-First Solar Panels on Railway Tracks for Clean Energy|ESG news
Sun-Ways New Solar Tracks|Sun-Ways
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