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農業や土地開発によって湿地が失われ、昨今では気候変動による干ばつも深刻化するカリフォルニア州の農業地帯セントラル・バレー。渡り鳥の飛行ルートにもなっているこの地域で、農地を一時的に湿地にし、鳥たちが羽根を休める湿地をつくりだす取り組みが環境保全の一つの成功例として注目されている。
Kojiro Nishida
編集者・ライター
イギリス、イースト・ミッドランズ地方在住。東京の出版社で雑誌編集に携わったのちフリーランスに。ガーデニングとバードウォッチングが趣味。
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アメリカ、カリフォルニア州の中心部、南北に伸びる広大な谷、セントラル・バレー。穀物類、野菜、果物など、250種類以上の作物が栽培されている一大農業地帯だ。アメリカ国内で生産される食料の25%を占め、フルーツやナッツに関してはその40%がここから供給されており、アメリカの農業において非常に重要な場所である。だが、その裏では野生生物たちが棲む場所を奪われてきた。
毎年7月頃になると、ヒメハマシギ(Western Sandpiper)という鳥がアラスカの海岸を飛び立ち、南米へ向けて長距離の渡りを行う。彼らはペルーの海岸に数か月間滞在した後、再び北へと帰っていく。
世界中の渡り鳥の飛行ルートは「フライウェイ」と呼ばれる9つのルートに分けられており、ヒメハマシギらが通るのは、北極からアメリカ大陸の西海岸に沿うようにして南米パタゴニアまで伸びる「パシフィック・フライウェイ」だ。セントラル・バレーはこの範囲内に位置しているため、ヒメハマシギのほか数百種類の渡り鳥が食料を補給したり、羽根を休めたりする休息地点として利用している。南への渡りのピーク時には、数千万羽もの鳥が集まるという。
しかし農業や土地開発によってセントラル・バレーの湿地の95%がすでに失われており、渡り鳥の数も激減。1970年以降だけでも、33%以上が減少しているのだという。そんななかで、セントラル・バレーに渡り鳥を呼び戻すために始まった取り組みが「バード・リターンズ」だ。
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バード・リターンズが始まったのは、カリフォルニアが厳しい干ばつに見舞われた2014年。セントラル・バレーで稲作を行う農家に報酬を支払い、稲作栽培が終わった期間に彼らの水田に水を張って、渡り鳥の休息地を確保することを目的とするプログラムだ。
農家への報酬となる資金は自然保護協会から提供され、毎年数万エーカーにもおよぶ湿地を一時的につくり出すことに成功している。この湿地では、一部の鳥については、他の水田に比べ2〜3.5倍多く集まることも明らかになっている。
セントラル・バレーの米農家のスケジュールは、収穫シーズンが終わる11月頃から翌年2月まで水田を冠水させて残った植物を分解し、春になり乾燥したら再び作付けを行うのが一般的。
バード・リターンズでは渡り鳥の渡航時期に合わせ、秋は少し早めに水を張り、春は通常よりも長めに冠水させるよう農家に依頼し報酬を支払っている。これによって、初秋に南に向かう渡り鳥や、春に北へと帰っていく鳥たちが必要な時期に湿地を確保しておくことが可能となる。
ちなみに、バード・リターンズに協力する米農家は、リバースオークション形式で決定される。商品やサービスを提供する側が金額を提示し、最低額を提示したものが落札される仕組みだ。
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土地を所有者から買い取るなどし永続的に保護するのが一般的な環境保全手段であるが、それとは大きく異なるバード・リターンズのアプローチ。専門家からは評価されているようだ。
カリフォルニア大学デービス校の研究者であるダニエル・カープ氏は、完全な解決策には程遠いとしつつも、「大規模な産業規模の集約的な農業システムが、同時に野生生物の保護にも役立っている珍しいケースです」と述べており、このプログラムを環境保全における希少な成功例だと考えている。
しかし、気候変動による干ばつで水不足が深刻化していくなかで、課題も抱えている。例えば、どのようにこのアプローチを持続可能な形で継続させていくか。また、鳥の渡りの時期と農業のサイクルのズレで湿地の整備が間に合わないこと等だ。現在は、米づくりとは一年間の作業サイクルが若干異なるトマト栽培農家とも連携し、より柔軟に対応できるよう取り組んでいる。
※参考
Migrating birds find refuge in pop-up habitats|High Country News
California's Central Valley|United States Geological Survey
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