先日、東京・下北沢の本屋B&Bにて行われた四井真治氏による『地球再生型生活記』刊行記念トークイベントの様子をお届けする。ニュージーランドで自給自足生活を送る四角大輔氏をゲストに迎え、我々人間が地球とともに生きる方法を語った。
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知識をもって体験することで地球を変える|ELEMINIST Followersのビーチクリーンレポート
パーマカルチャーデザイナーとして数々のプロジェクトを手がける四井真治氏が、自然と調和した持続可能な暮らしを実践し、その経験をまとめた著書『地球再生型生活記』。第一章は、「人は地球のがん細胞なのか?」という問いから綴られている。地球環境問題に関心の高い読者の方々のなかには、このような想いを抱いている人も多いだろう。
今回は、先日行われた『地球再生型生活記』刊行記念トークイベントの様子をお届けする。ともに登壇したのは、『地球再生型生活記』に推薦コメントを寄せた四角大輔氏だ。ニュージーランドでサステナブルな自給自足ライフを送っている四角氏と、日本の風土に合わせたパーマカルチャーを長年実践してきた四井氏は、人の存在意義やこれからの生き方・働き方、持続可能な暮らし方についてどう考えているのだろうか。
四井真治/パーマカルチャーデザイナー。2007年から⼭梨県北杜市へ移住。パーマカルチャーセンタージャパン講師、東北芸術工科大学コミュニティーデザイン学科非常勤講師、環境省「つなげよう、支えよう森里川海アンバサダー」プロジェクトメンバーなどを務める。
四角大輔氏(以下、四角):四井さんと僕は1歳違いなんですよね。高度成長期にどんどん自然が壊れていき、人の健康もおかしくなっていくのをど真ん中で経験したというのが共通点で、僕はそういうチクチクした思いが人間嫌いのきっかけなんです(笑)。四井さんのこの本を読む前は、同じような時代に同じような思いを抱いていたから怒っているんじゃないかな、と思ったんです。だけど一切ネガティブなことが書かれてなくて、むしろ希望しかなかったので感動したんですよ。それで推薦コメントを書かせていただきました。
四井真治氏(以下、四井):ありがとうございます。
四角: 僕は環境負荷を最小限にするにはどうしたらいいかを考えて暮らしてきたんですが、やっぱりある程度の負荷はかけてしまうんです。そんな中、四井さんのこの本に出合い、ゼロにできるどころかプラスにできることを知りました。そこを聞きたいなと思って、今日はやってきました。
四井:僕が地球再生できるっていうことに気がついたのは、現在の北杜市(山梨県)の家に住み始めてからです。うちの排水はバイオフィルターで、土の中の微生物と、そこに植えている水辺の植物の連携によって排水中の栄養分を吸収し、その結果栄養分が抜けた水がきれいになるという仕組みになっています。きれいになった水はその先のビオトープで貯まるのですが、水辺ができるといろんな生き物がそこに飛んでくるんですよね。そしたらやがて、蛇が出るようになったんです。
生態系のピラミッドの上にいる捕食者がいるということは、その下にいるたくさんの生き物によって世界が成り立っているわけです。「やった!」と思いました。これは僕らが住むことによって生き物が増えた象徴です。つまり人が暮らす=環境を壊すことではなくて、仕組みを変えたり価値観が変わったりすることで、より豊かにできることを実感したんです。地球を壊している人類の存在を見いだせるんじゃないかなと思いましたね。
曽田夕紀子/編集者・ライター。東京・奥多摩町の山間集落を拠点に、編集プロダクション「miguel.」を運営。アウトドア、旅、農のある暮らしなどを主なテーマに活動。2021年に里山ライフの雑誌「Soil mag.」を創刊。『地球再生型生活記』の企画・編集を担当。
モデレーター 曽田夕紀子氏(以下、曽田):四角さんはどれくらい自給されているのでしょうか?
四角:夏は9割、冬は6、7割ってところですね。僕は釣りが得意で、ニュージーランドに移住してから15年間、魚をスーパーで買ったことがないんです。人類史の250万年のうち、99.99%は狩猟採集生活を送っていて、僕らのDNAは当時と変わっていません。狩猟採集・農耕のうち、狩猟が一番ハイリスクで、実際に全く釣れないこともあるんですが、やっぱり一番楽しいんですよね。アドレナリンが出るというか。うまくできているなと思いますよ。
曽田:四井さんは元々竹林だったところをものすごい労力を使って切り開き、そこを畑にして作物を育てているわけじゃないですか。大変じゃないですか?って聞いたら、「もう自分はそれを苦とは思わない」っておっしゃっていたんですけど、どうしてですか。
四井:作物を育てる楽しみを知ったからですかね。一番の喜びの瞬間は、脱穀するときなんです。小麦が弾けたときとか、香りを嗅いだときとか…。それを積むと辛い労働も辛いと思わないですね。あと、土づくりってだんだん良くなってくるじゃないですか。薄い色が濃くなったり、硬い土が柔らかくなってきたり。目を凝らすと、最初は粉っぽい土にだんだん団粒構造が生まれてくる。そうするとそこにたくさんの生き物がいるって実感できて、かつ年々作物が良くなっていく。未来が見えるんですよ。
本には雑木林を切ってそこを畑にしたときの苦労話を書いてあるんですが、同じように竹林も苦労したくなくて。だからその竹をなるべく土地から持ち出さない形で土づくりができないかと思って、チッパーにかけて敷地に敷き、枯れ竹は菌根菌を増やすために竹炭にして混ぜてみたんです。そういう実験も兼ねてやっていたから、期待も高まってる。だから1ヶ月ちょっとの労働もそんなに苦ではなかったんですよね。
四角:資本主義的な観点でいくと、なんでそんな無駄なことやっているんだって思われたりするかもしれないんですが、ここ結構大事ですよね。狩猟採集・農耕の中で、農耕が一番労働の意味合いが強くなりますが、四井さんがおっしゃったように、採集には圧倒的な喜びがあるんですよ。それは種から育てて収穫する瞬間とか、それを調理して食べる瞬間とか、リアルな体感として感動がある。そういう、育てて収穫するときの喜びって、できる限りみんなに味わってほしいと思いますね。
四井:いま、グローバリゼーションの中で職業も経済も成り立っていて、それに対して依存度がすごく高まっていますよね。でも何か有事があって、海外から物が入ってこなくなったら、お金があっても物が食べられないとか、物を買えないみたいなことが起こってもおかしくないんですよ。息子たちの時代はまさにそういうリスクを背負っている。でも少なくとも土地があれば生産できるわけじゃないですか。土と水と日光があれば、何とかなるんですよ。むしろいまから場所づくりしていかないと、実は生きていけないんじゃないかな、という視点もありますね。
四角大輔/作家。レコード会社プロデューサーを経て、現在はニュージーランド湖畔の森でサステナブルな自給自足ライフを営む。Greenpeace JapanとFairtrade Japanの日本人初アンバサダー、環境省アンバサダー。『超ミニマル主義』『超ミニマル・ライフ』など著書多数。
四角:何かに依存していると思うと、その瞬間に自由を奪われるじゃないですか。僕はもうそれを自然だけにしたくて、ずっとそう思いながら15年この暮らしをしています。バックアップのために仕事はしていますが、あくまでも暮らしが主なんです。でも、日本だとやっぱり暮らしより働くことが大事ですよね。仕事っていうと大体許される、みたいな、その発想が嫌だったっていうのもあるんですけど、仕事やお金に依存しないで暮らすにはどうしたらいいかっていう発想から、僕は自給的な暮らしに行ったんです。四井さんはどういう形で入っていったんですか?
四井:本当は僕も四角さんが言われるように、人間嫌いだったんです。でも人間嫌いということは、自分に対する否定でもあるんですよね(笑)。
四角:そうなんですよ、同じ感じですね(笑)。ちなみに今日一番僕がみなさんへ伝えたいメッセージの一つが、人間にも役割があるというか、僕らにもできることがあることです。四井さんは自然界の3000倍のスピードで土をつくっていると。
四井:僕だからというわけではなく、普通自然界では、作物ができるような土は2センチできるのに100年かかりますが、ちゃんと人が堆肥を入れて土づくりをしていれば30センチを数ヶ月でつくることができるんです。数ヶ月でその土ができるんだから1年以内には作物が育つ土ができるってことなんですよ。ということは30センチの深さまで生き物が住めるようになるわけですよね。僕らが生きるために食べ物が必要だから作物を育てる、そのために土づくりをする。それが同時に、生き物が増えるっていうことにつながるんです。
地球の生き物は、人間が住む場所を奪ってしまったために半分に減っています。命の仕組みはどうなのか、生きているってことはどういう意味があるのかってことを追求した上で僕らの社会があったら、多分これほど生き物の住む場所を奪ってないし、同時に僕らが暮らすことが豊かになるようなライフスタイルや社会の構造、あるいは正しい資本主義になっているはずなんです。いまはエラーを感じ取って、新たな正しい方向に進まなきゃいけないときにきていると思うんですよね。
メディアで言われているような厳しい事態も想像しますけど、希望もあると思うんですよ。というのは生き物は加速度的に増えるし、加速度的に環境を良くできるから。僕らが暮らすことで、土ができたり植物が増えたりすれば、それがまた自己組織化していって新たな生態系を形づくるんです。そしてそれらの生き物1匹1匹が物質やエネルギーを集め、僕らの命全体を豊かにしてくれる仕組みができるはずなんです。
曽田:私たち一人ひとりの暮らし方が変わることで、そういう未来が実現できるのではないか、ということですよね。お二人に共通しているのがやっぱり暮らしを軸にしているところだと思いますが、そういう生き方ができている人って少ないですよね。
四角:多分僕らは結果として、お金を稼がなくても生きていける暮らし方を選んでいると思うんですよ。極論仕事がなくても大丈夫という状態でいられるから、好きなことができるっていうのはありますね。
四井:全く稼がないわけじゃなくて、稼ぐお金に依存する率が極端に低いってことですね。
四角:そうですね。ただ、農業って大変なイメージありますけど、商売じゃなくて家族が食べる分だけだったら、全然大変じゃないんですよ。そんなに作れなくても意外に自給率は上げられるから。僕らの方法論をヒントにしてそういう場所を見つけていただければ、かなり近いことができると思います。
曽田:とはいえ、お二人がやっていることってかなりレベルが高いことだと思うんですけど、都市生活者のみなさんが、ファーストステップとして何かできることがあれば、ヒントをいただけますか?
四井:まずは堆肥づくり(コンポスト)かなっていつも話していますね。でも都会生活では堆肥は消費しきれない。かつ僕らが必要とする食べ物はすべてまかなえないとか、やりながら感じるんです。そうすると、数量的にも、経験的にも都会にいることの意味を感じるでしょう。そのときに都会に居続けるのか、あるいはそういうことができる場所に出ていくのかを感じながら判断したり、僕らも気づけないような都会での解決方法を編み出してもらいたいです。堆肥の材料は、僕らが暮らすことによって集まるもの、生ごみや排泄物がもとになるんです。それで土をつくり、そこから何を感じるのかをまず体験してもらうことなんじゃないかって思います。
四角:生ごみって命の源なんですよね。僕もこれが第一歩だと思っているので賛成です!
人が住むことによって自然が豊かになっていった例を通じて、人類の存在意義を説いてくれた今回の対話。少なからず罪悪感を抱きながら暮らしている我々を、希望に導いてくれる内容だった。いま自分ができる第一歩を、考えるきっかけになったのではないだろうか。ぜひ両氏の著書にも触れてみてほしい。
取材・執筆/河辺さや香 編集/後藤未央(ELEMINIST編集部)
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