新事業でサステナブルな未来を拓く—大企業とスタートアップによる新事業の戦略と課題とは?

Spirete Meetup

7月23日、都内で開催された「Spirete Meetup #14」。サステナブルをテーマに、スタートアップスタジオ「Spirete(スピリート)」と電源開発株式会社「J-POWER」が特別共催した。J-POWERの活動内容の発表や、パネルディスカッション、スタートアップピッチの様子をお届けする。

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2024.08.14
Spirete Meetup

スタートアップにとって、アイデアを事業化することは大きな課題の一つだ。「Spirete(スピリート)」は、このような課題を抱えるスタートアップを支援している。大企業や大学研究機関の事業アイデアや技術シーズをもとに、異分野の技術と異業種/業界の専門知識や経験を組み合わせることで、スタートアップの成長をサポートしている。

主な取り組みとして、大企業内の新規事業をスタートアップとして立ち上げる「Startup Creation Program」と、大企業と起業家がともにスタートアップを立ち上げる「Startup Lab Program」という2つのプログラムを行っている。これにより、グローバル規模での資金調達や事業展開に挑戦できるスタートアップの創出を目指している。

Spirete Meetup

また、本イベントを共催する「TMIP(Tokyo Marunouchi Innovation Platform)」は、プロのメンタリングや実証実験を通じて事業創出を目指すコミュニティだ。大企業、スタートアップ、ベンチャーキャピタル、アカデミア、行政など280の団体が参加し、一社では解決できない課題や事業創出に取り組んでいる。

さらに、2023年度からは大企業の新規事業創出を表彰する「TMIP Innovation Award」を開催し、表彰だけでなく、その後の成長支援も行っている。

Sustainability Transformation Startup Lab (SX lab)とは

「Sustainability Transformation Startup Lab (SX lab)」とは、国内外で電力事業を展開する「J-POWER」と、スタートアップスタジオ「Spirete」が共同で運営する、サステナブル社会の実現を目指す起業家や研究者への資金提供と事業化支援を行うプログラムのこと。

一次審査を通過したチームには、Spireteが事業アイデアや事業計画のレビュー、経営人材の紹介などを通じて、最終審査に向けた準備をサポート。最終審査を通過したチームには、J-POWERが最大5000万円を出資し、資金提供を行う。

J-POWERと協業する各社の目的とその取り組み

イベント前半では、「サステナブル社会の実現」に向けたパネルディスカッションが行われた。J-POWER、Spirete、circuRE act、新日本繊維、Hydro-VENUSの5社が参加した。

J-POWER

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J-POWER イノベーション推進部長 中嶋 嘉昭氏

創業72年の「J-POWER」は、発電事業を中心に国内外で幅広く事業を展開してきた。2018年より、新規事業創出を目指し、社内事業や投資だけでなく、スタートアップとの協業や外部シーズの事業化を推進している。

中嶋:20年前、私たちは国策会社から民営化するという大きな転換期を迎えました。その際、新しい事業を起こそうと海外や風力事業に乗り出し、成長を遂げました。しかし、その成長エンジンも20年が経ち、停滞し始め、厳しい状況に直面しています。現在、日本や海外に発電所を持っていますが、電力需要が減少し、省エネの流れで電気が売れにくくなっています。また、海外や風力事業も厳しい状況にあります。さらに、火力発電所の新規開発も難航しており、当社は成長のために新たなアプローチを模索しています。

そこで、6年前に新組織を立ち上げ、スタートアップとの協業を始めました。過去6年間で13社と連携し、新日本繊維株式会社(NFC)やHydro-VENUS(ハイドロヴィーナス)など、さまざまな企業と取り組んできました。スタートアップとの協業では、成熟した技術を活用した実証実験を行ったり、自社で研究開発した海洋藻類培養技術から生まれるオイルの新しい応用分野を模索するために「Spirete(スピリート)」のお力をお借りし、「circuRE act(サキュレアクト)」という会社を立ち上げました。

circuRE act

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circuRE act株式会社 代表取締役 塩原 祥子氏

塩原:25年間化粧品業界に携わってきたなかで、多くのごみを出してしまったことを反省し、業界をサステナブルなものに変えたいと思っています。現在、年間約25億個の化粧品が出荷され、その半分が新品のまま廃棄されている現状があります。

そんななか、J-POWERさんが研究している微細藻類「ソラリス」と「ルナリス」に出合いました。これらは2050年に航空燃料として利用することを目的に研究されています。もし、この微細藻類が石油の代わりになるなら、化粧品の原料もほぼ石油由来なので、化粧品業界を変える可能性があると感じ、一緒に取り組むことになりました。

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塩原:現在、ソラルナオイルは化粧品の原料として抽出が完了しています。化粧品の原料は水と油が90%を占めており、ほぼすべてが輸入に頼っています。これによりCO2が発生していますが、微細藻類を原料として使用することでこれを減らせる可能性があります。今後は、微細藻類をオイルだけでなくプラスチックの代替素材や界面活性剤などにも進化させることを目指しています。

さらに、「team530」では、環境知識を広めるためのInstagramでの情報発信や、茅ヶ崎での毎月のビーチクリーン活動を行っています。消費者の意識レベルが向上しなければメーカーも変わらないため、一緒に取り組みながら、研究だけでなく市場に落とし込むことを心がけています。

新日本繊維株式会社

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新日本繊維株式会社 代表取締役 深澤 裕氏

深澤:私は物理学者として、火力発電所から出る石炭灰を繊維にする発明をしました。この繊維は、生地にしたり、短く切ってさまざまな用途に使われています。この石炭灰の有効活用が評価され、経済産業省にも認められることになりました。そして国の支援やJ-POWERさんからの多大なリソース提供を受け、成長してきました。

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深澤:この繊維は一般的な工業用途に使用されており、錆びない軽量材料として将来的にはお風呂の浴槽や建物の鉄筋、ひいては風力発電のブレードにも使用することを目指しています。

さらに、ウランから発する放射線を遮蔽する機能があることもわかっています。宇宙で、強い放射線により人工衛星等で利用される電子部品のデータにエラーが発生するといった問題を解決するための開発にも取り組んでいます。

Hydro-VENUS

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株式会社Hydro-VENUS 代表取締役 上田 剛慈氏

上田:日本は海に囲まれ、多くの川にも恵まれています。このように私たちの身の回りを流れている「水」は、多くのエネルギーの源になると考えています。大きなエネルギーも小さなエネルギーもありますが、それを活かして社会を再構築したいと考えているんです。災害対策を含め、さまざまな新技術がスタートアップや大企業で考えられていますが、現場で電源がないという共通の悩みに直面することが多くあります。そこで、私たちは生活空間にある水を利用して、その場でエネルギーをつくり出し、社会課題を解決しようとしています。

私たちの開発する水力発電装置は、まるで泳ぐ魚のようです。流体電気振動という現象を利用しており、水の流れが急であれば早く、緩やかであればゆっくりと魚のように動きます。工事不要で、川に投げ入れるだけで動き始めます。この技術はスケールアップが簡単で、連結したり大型化することにより、さらに大きな電力をつくり出すこともできます。瀬戸内海の潮の流れを利用すれば、原発20基分のエネルギーをつくり出すことができるという試算もあるので、将来的には大規模な潮流発電を目指しています。

大企業とスタートアップの強みを活かし協業することが、事業の効率化につながる

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Spirete株式会社 渡邉(以下、渡邉):J-POWERさんと協業することになった経緯を教えてください。

深澤:私たちは石炭灰を繊維にするプロジェクトを進めており、その供給元の確保が重要なポイントになります。最初にJ-POWERさんにコンタクトをとった際、非常に良いフィーリングがあり、それが協業を進めるきっかけとなりました。

塩原:エネルギー分野での新技術開発は途中で止まることが多く、民間だけでは難しいことも多いですが、J-POWERさんなら大量生産が可能で、安定した原料供給も期待できたことが大きかったですね。

Spirete Meetup

上田:私たちは「Plug and Play Japan」というイベントでJ-POWERさんとお会いしました。最初は大規模なエネルギーの話をしていましたが、私たちの技術が小型電源として使える点に興味を持っていただき、プロジェクトが動き始めました。

中嶋:ご縁が非常に大事だと感じています。新日本株式会社さんは、当社が出資するスタートアップのなかでもとくに重要な存在で、火力発電所から出る石炭灰の課題を解決していただける唯一無二のパートナーです。塩原社長は、当社のグリーンオイルに価値を見出し、世に出すきっかけをつくってくださった存在です。ごみゼロの理念にも共感しているので、今後も一緒に取り組んでいきたいですね。また、Hydro-VENUSさんは水力発電所に新しい価値をもたらす技術を持っており、秋には奈良県の水力発電所で実証実験を行います。みなさん、これからも長く付き合っていくパートナーであると思っています。

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Spirete株式会社 Co-founder & 代表取締役 渡邊 康治氏

渡邉:事業化における課題として懸念している点や、大企業に期待することがあれば教えてください。

深澤:スタートアップは成長するものです。研究と事業化は異なる役割があり、人的リソースを考えると大企業と協力することで得られるリソースが大きいです。そのため、スタートアップは受け入れ体制を整え、少数の大企業と強い関係を築くことが重要です。ただし、フィーリングが合わないと結果的に失敗する可能性が高いので、合わない場合はすぐに撤退する勇気も必要だと思います。

塩原:大企業とスタートアップでは、スピード感に違いがあると感じています。その違いを理解し、情報を密に共有しながら進めていくことが重要です。現在進めている事業ではJ-POWERさんに大量に藻類培養できる環境を整えてもらうことを期待しています。そうすれば、私たちの研究と開発のスピードも上がると思います。

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上田:大企業は企画を通すのに時間がかかりますが、スタートアップは少人数で多くのことをこなさなければならず、それぞれ強みと弱みがあります。POCでは喜ばれても、予算を組む段階になるとスムーズに前に進めないこともあります。さらに、創業期のスタートアップでは、全国的なサポートや販売体制には限界があり、信用の問題もあります。ビジネスとして組み立てる上で、既存のプレーヤーとどう協力していくかが重要です。

中嶋:大企業としては、スタートアップから選ばれる会社になる必要があります。スタートアップはリスクを取っているからこそ、当社も同様のリスクを取る必要があります。そうすることで、「J-POWERと協業すると面白いことができる」と感じてもらえるようになることが重要だと思っています。

独自技術で課題解決を目指す、スタートアップによるプレゼンテーション

イベント後半では、スタートアップ5社によるプレゼンテーションが行われた。ここでは、コロソニック、環境微生物研究所、北里大学の3社の内容を紹介する。

コロソニック|超音波と活性炭による水中溶存貴金属イオンの回収

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コロソニック 代表/信州大学工学部物質化学科 教授 酒井 俊郎氏

酒井:エレクトロニクス産業の発展に伴い、貴金属の需要が増加していますが、鉱山から採掘される天然資源は有限であり、環境問題も深刻化しています。そのため、貴金属やレアメタルの安定供給が難しい状況です。

この問題を解決するためには、廃棄物や廃液から貴金属を回収・再利用する技術が重要です。しかし、既存の技術は化学物質を多用し、高コストで回収工程が複雑であることに加え、回収物に不純物が混入するため、再利用が難しいという課題があります。

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酒井:そこで、私たちは「環境調和型廃液処理技術」という、単純操作で水を溶媒とし、付加的な化学物質を使用しない貴金属の回収・利活用技術を開発しました。この技術は、超音波で水をラジカル化して貴金属イオンを還元し、貴金属ナノ粒子を回収します。

さらに、超音波と活性炭を組み合わせることで、5分間の照射で約99%以上の回収を実現しました。この技術は低コストで高効率、二次廃液も発生しません。現在、金、銀、銅、白金、パラジウムの回収に成功しており、他の金属の回収も検討中です。最近では、白金とパラジウムの混合液から金を選択的に回収することにも成功しました。超音波と活性炭を組み合わせることで、低濃度から高濃度までほぼ99%の回収を実現しています。

環境微生物研究所|植物系残さを分解する小規模型メタン発酵システム

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環境微生物研究所 代表取締役/石川県立大学生物資源工学研究所 講師 馬場 保德氏

馬場:東日本大震災で被災し、避難所で生活していた際、「もし雑草を発酵させてメタンガスをつくる装置があれば、明かりやガスコンロ、電気が使えたかもしれない」と考えました。しかし、雑草の発酵は難しく、そこで牛の胃袋に注目しました。牛は草を食べ、そのなかの微生物が草を溶かします。この微生物を利用して、雑草からガスと電気をつくる装置を震災から12年かけて開発しました。

この「エコスタンドアロン」という装置は、現在石川県のショッピングセンターで稼働しています。野菜クズを使ってメタンを発酵させ、そのガスで発電やガスコンロを動かすことができます。災害時にも、この装置があれば食事の炊き出しやスマートフォンの充電が可能です。将来的には、「エコスタンドアロン」が地域住民の防災拠点となることを目指しています。

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現在は、途上国への普及も進めています。雑草からガスや電気、肥料を得ることができるため、現地の農家の支援にもなります。発酵後の残さは肥料として利用でき、お米やビールホップの栽培にも役立っています。震災時に困った温かいご飯や明かり、携帯の充電を雑草で解決できる未来をつくりたいと思っています。

北里大学|未利用資源を活用した魚介類の次世代型養殖システム

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北里大学 海洋生命科学部 教授 森山 俊介氏

森山:近年、食料の減少が問題となっており、とくに魚介類の消費量は20年前に比べて半分に減少しています。その7割が外国からの輸入に依存しています。魚粉の価格が高騰し、日本は中国や東南アジアに負けており、餌不足が深刻化しています。

そこで、サケやアワビなどの未利用資源として捨てられてしまうものを餌として上手く活用することで、その価値を見出すことができます。これにより、ごみの削減と食料生産の両方に貢献できるため、さまざまな取り組みを進めています。

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森山:現在、食品として流通していないものは全体の4割以上を占めています。養殖魚介類の市場規模は世界で3.5兆円に達しますが、日本では1300億円に冷え込んでいます。未利用資源を活用し、国内で魚介類を食べる文化を守りたいと考えています。そのために企業を立ち上げ、未利用資源を活用した魚介類を食べる文化を継続できるよう、今後も取り組みを進めてまいります。

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サステナブル社会の実現に向けて、大企業とスタートアップはそれぞれの視点から課題解決に取り組みを進めている。大企業による新規事業開発が重要であり、開発を推進するためにはスピード感を持って先進技術を有するスタートアップとの協業が欠かせないのだ。環境の変化が加速するいま、わたしたちの生活に直結するであろう取り組みに今後も目が離せない。

撮影/岡田ナツコ 執筆/藤井由香里 編集/後藤未央(ELEMINIST編集部)

※掲載している情報は、2024年8月14日時点のものです。

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