Photo by Tap Social Movement
元受刑者による再犯率の高さが社会的な課題となっているイギリスで、元受刑者を受け入れ低い再犯率を達成しているクラフトビール醸造所がある。そこは、ただ彼らに仕事を提供するだけではない、あたたかいコミュニティのような場所だ。
Kojiro Nishida
編集者・ライター
イギリス、イースト・ミッドランズ地方在住。東京の出版社で雑誌編集に携わったのちフリーランスに。ガーデニングとバードウォッチングが趣味。
Photo by Tap Social Movement
イギリス・オックスフォードにあるクラフトビールの醸造所「TAP」。ここでビールをつくっている人たちは、刑務所から出所した元受刑者と仮釈放された人々だ。
この場所を創業したのは司法省の元顧問であったエイミー・テイラー氏と夫のポール・ハンプソン氏。イギリスにおける元受刑者の再犯率の高さと、彼らに対する社会のサポートが欠如していることに危機感を抱いたことがTAP設立のきっかけとなった。
TAPの創業者たち。
元受刑者の雇用を積極的に行なっている企業はいくつかあるが、そのなかでもTAPが注目されている大きな理由の一つは、元受刑者であるスタッフの再犯率が圧倒的に低い点にある。
イギリスでは元受刑者の出所後の再犯率は全国平均で約50%。それに対し、TAPが2016年の開所以来受け入れてきた50人以上の元受刑者の再犯率はわずか6%と平均を大きく下回っている。このことから、イギリスが抱える課題の一つである再犯率を減少するビジネスモデルとして期待されているのだ。
TAPで働いたスタッフの再犯率が低いのは、スキルを身につけ社会に復帰できる点にある。現在はメインの事業であるクラフトビール醸造所に加え、バーやベーカリーもオープンしているTAP。すべての事業において元受刑者を雇用し、別の場所にいっても就労が可能になるよう彼らのサポートを行なっている。
TAPを卒業したスタッフは、建設業や接客業、自動車販売業など、さまざまな職種への転職を成功させており、なかには起業した人もいる。
その一人であるオルシ・ヴルネテリ氏は、詐欺罪で7年の刑期を終えた後、TAPでアシスタント・ブルワーとして3年間働いた。そんな彼が2022年に退職したのは、TAPで学んだスキルを活かして小売業のビジネスを始めるためだった。
「出所した当時は、もう他の人から尊敬の念を持って接してもらえることはないだろうと思っていましたが、TAPが私の信頼を取り戻してくれました。あの場所に集まる人たちは、私たちの背景を理解してくれているし、再び社会に出る準備をしていることも知ってくれています」と話すヴルネテリ氏。
TAPがただスキルを提供するだけではなく、元受刑者が再び社会にでるために必要な自尊心や自信を育む場所にもなっていることがわかる。
Photo by Tap Social Movement
TAPのような事業が長続きするためには社会貢献の前に、まずビジネスとして成功することも大切な要素の一つだが、TAPのビールは「独立醸造協会(SIBA)」から金賞を受賞するなど、クラフトビールの味や品質においても高く評価されている。
パッケージには「CRIMINALLY GOOD BEER(犯罪級においしいビール)」と、イギリスらしい皮肉の効いたキャッチコピーが書かれたTAPのビール。消費者はおいしいビールを購入することで元受刑者たちの再出発を応援できる、あたたかいコミュニティのようなビジネスモデルだ。
※参考
Oxford brewery helps cut reoffending rates by training jail-leavers to make ale|The Guardian
Tap Social Movement
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