Photo by NK Tegelwippen
地面に舗装された石やコンクリートのタイルを取り除き、緑を増やすことを目指すオランダのイベント「NK Tegelwippen(NK テーゲルヴィッペン)」。街の緑化は生物多様性を豊かにするだけでなく、気候変動によるさまざまな問題に対処するためのカギとして注目される。
Kojiro Nishida
編集者・ライター
イギリス、イースト・ミッドランズ地方在住。東京の出版社で雑誌編集に携わったのちフリーランスに。ガーデニングとバードウォッチングが趣味。
Photo by NK Tegelwippen
オランダではいま、庭や公共スペースに舗装されたコンクリートや石のタイルを撤去した数を、全国の市町村がチームとなって競い合う、一風変わった大会が盛り上がりを見せている。
3月21日にスタートし10月31日まで続く「NK Tegelwippen(NK テーゲルヴィッペン)」。2024年が4度目の開催となる。大会名の「Tegelwippen」は、直訳すると「タイル剥がし」だ。
参加は誰でも可能で、基本的に自宅の庭やファサードなど、所有する敷地内に舗装されたタイルを剥がす。自治体や管理機関の許可を得ている場合のみ、商業施設や会社、学校、公共スペースのタイルを除去してもよいことになっている。
タイルを取り除いて空いた土地には植物や木を植え、生物多様性を豊かにすることを目指す。撤去されたタイルはリサイクルされ、崩れかけた家の土台を補強するための材料として使われるという。
Photo by NK Tegelwippen
NK Tegelwippenが始まったのはパンデミック下の2020年。イベントの考案者であるレムコ・モーエン・マルカー氏が、「行動が制限されているなかでも、市民が直接参加できる環境改善活動があれば」と考えついたという。以降、参加する人や自治体の数は年々増え続け、2023年はオランダ全土で計450万枚以上ものタイルが取り除かれ、新たに植物が植えられたという。
大会のパートナーであるスティーンブリーク財団の研究によると、雨水の排水機能や生物多様性を確保するためには5分の4の土地が緑地であるのが望ましいとされている。しかし、その目標を達成しているのは、現在約580万あるオランダの家庭用庭のうちのわずか8.64%にすぎない。
同財団のディレクター、ロール・ヴァン・ダイク氏はその原因の一つとして世代間の価値観の違いもあると話す。「最近はテレビ番組の影響から、庭をリビングルームの延長として考え、舗装してしまう人が増えている。とくに若い世代は庭づくりの知識がなく、パティオや小道をつくるために庭が狭くなっている」という。
「オランダ人はなんでも綺麗に整理したがりますが、もっと雑草を受け入れるべきです。タイルの舗装がなくなることは、地面にとっても生物多様性にとっても喜ばしいことです」
Photo by NK Tegelwippen
2023年はオランダで統計開始以来、もっとも多く雨が降った一年だったが、オランダ王立気象研究所によれば、雨が降る頻度や量は今後も増え続ける見込みだ。
そのためオランダでは、大量の雨水を吸収して地中に貯留し下水道システムへの負担を軽減できる「スポンジ・ガーデン」の導入などが洪水対策の一環として積極的に進められている。
また地面の多くが石やタイルで舗装されている都市部では、夏は深夜まで暖かいままの石が多くヒートアイランド現象の増長も懸念されている。しかし、木々を増やすことは、街にある種の冷房のような機能をもたらす。
Photo by NK Tegelwippen
NK Tegelwippenでは規模に差がある自治体同士が公平に競えるよう、人口によって大規模(10万人以上)、中規模(5万人から10万人)、小規模(5万人未満)の3つのカテゴリを用意している。
もっとも多くのタイルを剥がした市町村には「ゴールデン・タイル」、住民一人あたりで剥がしたタイル数が一番多い市町村には「ゴールデン・ショベル」と、賞品が用意されていることも大会を盛り上げている一因だ。優勝した自治体はメディアへの露出が増え知名度が向上するなど、地域の活性化にもよい効果をもたらす。
ゲーム感覚でコミュニティのつながりを強め、住民たちが主体となって地域の環境改善を目指すユニークな取り組みである”タイル剥がし大会”。今年は何枚のタイルが緑へと変えられるのか、結果の発表を楽しみに待ちたい。
※参考
‘We need to accept the weeds’: the Dutch ‘tile whipping’ contest seeking to restore greenery | The Guardian
NK Tegelwippen
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