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スイスに拠点を置くスタドラー社の水素列車「FLIRT H2」が給油・充電をせず2803kmを走行し、ギネス世界記録に認定された。水素のなかで環境負荷が低い、グリーン水素を動力とする車両の性能向上を示すこのニュースに世界が注目している。
Kojiro Nishida
編集者・ライター
イギリス、イースト・ミッドランズ地方在住。東京の出版社で雑誌編集に携わったのちフリーランスに。ガーデニングとバードウォッチングが趣味。
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2024年3月、スイスのスタドラー社の水素を動力源とする鉄道車両「FLIRT H2」が、給油や充電を行わずに1741.7マイル(約2803km)を走行したことでギネス世界記録に認定された。2803kmというと、東京ー大阪間を3往復近くできる距離だ。
世界記録のためのテストは2024年3月20日夜、米コロラド州プエブロにある鉄道技術の研究施設「ENSCO Transportation Technology Center」にて行われた。FLIRT H2がテストトラックを周回する間、スタドラーとENSCOのエンジニアチームは交代しながら夜通し車両を運転し続け、出発から46時間以上がたった3月22日午後5時23分にテストは終了した。
スタドラー社は、2021年12月にも「FLIRT Akku」というバッテリー動力の車両による最長走行距離でギネス世界記録を樹立していたため、これが2度目のギネス記録タイトル獲得となる。
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FLIRT H2は水素を電気に変換する水素燃料電池を搭載しており、水素から生成された電気エネルギーは、列車の動力はもちろん、バッテリーの充電、車内の空調システムなど、いくつもの用途で利用される。さらにブレーキをかけるときに発生する運動エネルギーなどもバッテリーに蓄えられるようになっている。
FLIRT H2が使用する水素は「グリーン水素」と呼ばれるものだが、水素には大きく次の3種類がある。
太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーを使い、水を電気分解しつくられる水素。その過程においてCO2を排出しないため環境への影響が非常に小さく、持続可能なエネルギーとして期待されている。
天然ガスや石炭などの化石燃料を使用してつくられる水素。副産物として多量の二酸化炭素も生産されてしまう。回収して地下に貯蔵するほか、他の用途で利用するといった方法がとられており、回収・貯蔵技術の向上が求められている。
生産方法はブルー水素と同じで化石燃料を使用する。副産物の二酸化炭素を回収・貯蔵しないため環境負荷が高いが、コストが低いため現在もっとも広く使われている。
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FLIRT H2はまた、電気が通っていない非電化路線や、部分的にしか電化されていない路線でも運行が可能なため、非電化路線の多くで現在使われているディーゼル車両に代わる存在としても期待されている。
地球温暖化ガスの排出を防ぐため、自動車の代わりに列車などの公共交通機関の利用が広く呼びかけられている。こんな水素列車が街中を走る未来も、そう遠くないのかもしれない。
※参考
FLIRT H2|Stadler
Stadler’s hydrogen-powered train FLIRT H2 achieves a new Guinness World Records title|Stadler
New Guinness World Record for hydrogen powered train|Rail Advent
The hydrogen colour spectrum|National Grid
次世代エネルギー「水素」、そもそもどうやってつくる?|資源エネルギー庁
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