化粧品業界の闇 「世に出る商品の約50%は廃棄」の悲しい現実

化粧品のリップが集まったところ

私たちに身近な存在である化粧品。次々に新商品が登場しているが、その裏側では大量の廃棄ロスが出ている。今回は、化粧品業界で25年従事し、業界におけるさまざまな問題に疑問を呈してきた、サキュレアクト代表の塩原祥子氏に話を伺った。売れ残った化粧品は、一体どうなっているのだろうか? 化粧品業界の知られざる裏側をお伝えしたい。

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2024.03.18
SOCIETY
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エシカルマーケティングとは? メリットや実例をわかりやすく紹介

年間25億個がつくられ、その半分は売れ残りか…

まず、世の中にどのくらいの化粧品が出回っているのか、そしてどのくらい売れ残っているか見ていこう。2022年の1年間に出荷された化粧品は25億個を超える(※1)。塩原氏は、そのうちの約半分は売れ残っていると推察する。

「年間13億個くらいは売れ残っているのではないでしょうか。仮に化粧品使用人口を約6,000万人(15〜74歳の女性5,600万人※2、男性500万人)と考えると、みなさんが年間41個買ってくれないと、25億個は消費できません。ボディケアやヘアケア用品を含めたとしても、一人当たりの消費は年間18個(月1.5個×12か月)程度でしょう。そう考えると、やっぱり半分は売れ残っていると思います

ここまで供給過多である背景には、化粧品をつくる会社が多すぎる現状があるという。化粧品の製造販売には許可が必要で、現在その許可を取得して化粧品製造販売業を行う企業は、2022年3月末時点で4198社(※3)。それ以外に、化粧品の企画販売を行う企業が500~2000社あると推定すると、現在化粧品に関わる企業は4500~6000社ほどあると、塩原氏は考えている。

各社がSKU*ごとに最低ロットを担保しながら製造していくため、膨大な量になる。アイシャドウや口紅はカラーバリエーションが豊富で、製造量も多くなる。マスク生活だったコロナ禍ではリップの需要が落ちて、リップが大量に廃棄されたことが報じられている。

*SKU:品目数を数えるための最小単位。同一製品でも3カラーが展開されていれば、3SKUとなる。

売れ残った化粧品はどうなる?

小売店に並ぶ化粧品

百貨店やドラッグストア、バラエティショップなど、化粧品が並んでいる店舗はさまざまだが、いずれの場合も、売れ残った化粧品は店頭からさげられてしまう。そして、在庫は“返品”の形でメーカーに戻る。

「競合が多く、店頭にすべての商品を置くのは難しい。バックヤードのスペースも限られています。小売は、よく売れる商品は置いておきたいけど、売れるかわからない商品を置く余裕はありません。決められた期間内で売れなかったら、『はい、終わりね』って話になるんです。早ければ2週間程度で返品される商品もあります」と、塩原氏。

「売れ残りの在庫は、小売から卸、卸からメーカーに逆流します。卸も在庫を滞留させるわけにはいかないので、メーカーに返すしかない」とも話す。つまり、売れ残った商品は、すべてメーカーのもとに戻りメーカーが処分することになる。

化粧品の再利用は難しく、大半は廃棄される運命

返品された商品が再販されればいいが、とくに大手メーカーの商品はブランドイメージを守るため、安売り業者へ販売することは少ない。

また再利用についても、化粧品にはさまざまな原料が使われていて、液体のものが多く、分解して処理することが難しい。そのため、大半は産業廃棄物として廃棄されているのだという。化学成分も多く含む化粧品を廃棄することは、当然ながら環境への影響も大きいだろう。

さらに、化粧品の容器にはプラスチックが使われているものが多い。そのようなプラスチック容器を廃棄することで、多くのCO2を排出していることを考えなければならない。

塩原氏が化粧品業界を離れる決意をしたのは、そんな小売店からの大量返品・大量廃棄を目の当たりにしたのがきっかけだった。

「約17万個の返品・累積不良在庫を受け、廃棄も含めて安売り業者に引き渡したこともあります。そうなると、新しい商品をつくっても、『ごみしかつくっていないかも……』と思ったんです」と、当時の心境を振り返る。

使用期限が過ぎた化粧品も廃棄の対象に

また化粧品には使用期限がつきものだ。小売店の棚に並んだものの、使用期限が過ぎてしまった化粧品も、廃棄の道を辿る。日本の化粧品でパッケージに記載がない場合は、使用期限が、未開封で3年(開封後は1年程度)。つまり、使用期限内に販売できなかった化粧品についても、返品され、廃棄されるのだ。

近年、若年層に人気の韓国コスメは、さらに廃棄が多い。「韓国コスメは、韓国のルールにより、2年の使用期限しかありません。2年ということは、いま日本の店頭に出ている商品の多くは、使用期限がおそらく残り1年くらいでしょう。そこで購入・消費されなければ廃棄です」と、厳しい現実を塩原氏は語った。

製造工程で出る廃棄、化粧品業界の慣習にも課題が

ドラッグストアや小売店の化粧品コーナー

化粧品の廃棄は、売れ残りや期限切れだけではなく、製造工程で出る分も多い。「製造時にはロスのことも考えて、少し余分につくります。それが色んなところで、それこそ化粧品製造に関わる数千社で起きています」と、塩原氏は重い口を開いた。

「化粧品をつくるとき、外箱や容器は実際の化粧品の数より数%程度多めにつくってもらいます。仮にすべての化粧品をきれいにつくれたら、余分につくった外箱や容器が余ることになる。使われなかったものは、新品のまま廃棄になるわけです。あとは、バルク(中身)も同様です。足りなかったときのことを考えて、ちょっと多めにつくります。そして、余ったら廃棄の繰り返し。ロットが大きいと、その分廃棄の量も多くなります」

化粧品の廃棄を増やす原因には、業界特有の仕組みや商慣習も関わっている。塩原氏によると、問題点は「返品」「在庫過多」「新商品」の3つ。売れ残りの返品は、競争のためにできた商慣習だ。そして、在庫過多の状況を生んでいるのは「欠品が悪」の意識があるからだという。さらに、季節ごと、あるいは毎月のように新商品を出さなければいけない空気にも疑問を呈す。大量の廃棄が出ている以上、各メーカーが次々と新商品を発表する状況は、決して健全とは言えない。

また、新商品が出るたびに、メーカーは著名なメイクアップアーティストやメディアにサンプルを送るのが一般的だ。だがそのすべてが、最後まで使い切られているとは考えにくいのではないだろうか。

「美しさ」とのギャップから廃棄の公表を躊躇する面も

日本化粧品工業会は「サステナビリティ指針」を設けており、項目のひとつには「廃棄物の削減」もある。しかし、具体的な廃棄量を公表しているわけではない。それは企業も同様だ。

「美しさの下にあるものを隠す傾向はあると思います。ちゃんと公表している企業もありますが、それは投資家向けの情報であって、消費者に向けての公表ではありません」と、塩原氏は話す。

また、メーカーの社員ですら自社の廃棄量を把握していないことが多いという。組織が大きいと、製品企画と廃棄を担当する部署は異なる場合がほとんどだ。そうすると、廃棄の情報は製品企画に入ってこない。

中小企業の場合は、つくり手が自分で廃棄をするケースもあるというが、まだまだ意識が低いのが現状。世間一般的にはサステナビリティへの関心が高まりつつあるが、化粧品業界として、廃棄の問題に改善の動きがあるとはいい難いようだ。

化粧品に関わるすべての人の意識が大事 私たちができることは?

割れた化粧品

近年は、メーカーが廃棄削減のための施策として、コスメバンクに化粧品を寄贈するケースがある。また、化粧品業界で働く人同士で、廃棄の問題が話題になることもあるという。しかし、「結局は、商習慣のサイクルにはまり続けるしかない」と塩原氏は嘆く。

では、化粧品業界の未来がいまより明るくなるためには、どうしたらいいのだろうか。

「まずは、化粧品を企画する側がごみを出さないことや環境への配慮を意識する時代にならないと、と思います。消費者が容器をリサイクルしたいと思っても、リサイクルできない複雑な構造になっているんです。つくる側がリサイクルできる構造にすれば、リサイクルができるようになる。よく考えてつくらないといけないと思います」

過剰包装にも改善の余地がある。「化粧品の外箱のまわりにフィルム包装がついていますよね。あれは、輸送時に箱が擦れたり破れたりすると返品対象になるからつけ始めました。だけど、包装や箱って、買ったらすぐに捨てていませんか?そう考えたら、本当に必要かな?と感じます。『中身が問題なければいいよねという、おおらかさが消費者側にも必要だなと思います」と、塩原氏は話す。

本当に「欲しい」ものを購入し、愛着を持って最後まで使おう

そして、私たち消費者も、化粧品との向き合い方を考える必要がある。購入した化粧品は、責任を持って最後まで使い切ることが大切。万が一、自分で廃棄をする場合は、水道にそのまま流すのではなく、紙に吸わせて燃えるごみに出すのが正しい。けれど、やはり、使える分だけを購入することが大前提だ。

「安易に手を出すのがよくないんじゃないでしょうか。これは化粧品に限った話ではありません。洋服でも、本当に欲しくて買ったら大事に着るし、簡単に手に入るものは簡単に手放す。そこだと思うんです」と塩原氏。

ただ、「決して『地味に生きて』というわけではない」とも話す。化粧品は本来、私たちの気持ちを高めてくれるもの。欲求とのバランスが難しいかもしれないが、買い物するときは「本当に必要なものか?」「本当に最後まで愛用できるものか?考えることが大切だ

私たちが安易に買わなくなれば、メーカーだって変わるかもしれない。消費者である私たち一人ひとりの行動が、化粧品業界へのインパクトとなる可能性は十分にある。まずは、身近な化粧品が、実は大量にごみとなっている現実を知ること。そして、化粧品を購入する際には、いま一度、化粧品の廃棄の問題と、私たちの「使う責任」について思い出してみてほしい。

取材協力/circuRE act(サキュレアクト)塩原祥子代表
広告代理店やスタートアップなどで25年にわたり、化粧品の製品企画に従事。微細藻類と出合い、可能性を感じたことで、「原料を通して化粧品業界を変えたい」との想いのもと、2023年3月にサキュレアクトを創業。サステナブルな化粧品の提案を通して、循環型社会の実現を探究している。海洋汚染を減らすプロジェクト「team 530」として、定期的にビーチクリーンの活動も行う。サキュレアクト https://circureact.com/

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取材・執筆/吉田友希、編集/佐藤まきこ(ELEMINIST編集部)

※1
化粧品出荷統計|経済産業省
※2
人口推計|総務省
※3
都道府県別化粧品製造販売及び製造業態数|日本化粧品工業会

※掲載している情報は、2024年3月18日時点のものです。

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