KDDIでは、日々の通信サービスの提供に加えて、災害時の備えや対策を行なっている。今回は、いつでもどこでも“つなぐ”ことを目指し、有事に備えてただならぬ努力を重ねている、KDDIの取り組みについて、担当者のインタビューなどを交えながら紹介していく。
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エレミニスト編集部
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私たちの生活に欠かせない存在になっている携帯電話。いつでもどこでもつながることが当たり前になりつつあるが、災害時の通信状況について考えたことはあるだろうか。日本では近年、地震だけでなく豪雨や台風などの災害が激甚化している。食料品や飲料水、衛生用品など、災害に備えている人は少なくないだろうが、災害時の通信インフラも人命に関わるほど重要なものである。
被災して助けを呼びたいとき、通信ができなければ、110番や119番に電話することができない。さらに、警察や消防で働く人々も携帯電話で連絡を取り合っていることが多く、通信インフラは命を守るためにも重要なのだ。
そのほか、通信ができないと家族や大切な人の安否を確認できず、不安な時間を過ごすことにもなり、精神的にも負担となってしまう。
KDDIでは、災害時も通信サービスを維持できるよう、災害発生時にサービス影響が出ない仕組みや、万が一通信が途絶した場合も早期復旧ができるよう、万全な復旧・支援体制の整備に取り組んでいる。
もし災害時に通信が途絶えてしまった場合、どのような手段を用いて通信インフラの復旧にあたるのだろうか。有事に備えて所有している車両や機材について、KDDI株式会社 運用管理部 エキスパート 川瀬俊哉氏にご説明いただいた。
KDDIでは災害時、通信を確保するために陸・海・空、さらに宇宙からの対策を準備している。陸での手段のひとつが「車載型基地局」である。車載型基地局とは、無線機やアンテナ、電源設備など通信に必要な設備を備えている車両のこと。携帯電話がつながらない、または、つながりにくい場所に出動して電波を届けている。
車載型基地局にも種類がある。ベーシックな車載型基地局のほか、操作性が良く初動に適した車種や、土砂崩れなどで道幅が狭いときに通りやすい、軽自動車タイプなどがある。これらは、過去に災害現場で作業をした際、「もっとコンパクトな車両や機動性のある車両があったら……」と感じた経験から導入に至ったという。
通常、携帯電話基地局と交換局は光ケーブルでつながっているが、災害時の土砂崩れなどによってケーブルが切れてしまうことも。そのときに利用するのが、宇宙からの手段にあたる、衛星回線だ。
これまでもKDDIでは衛星回線を利用してきたが、2023年7月からは、衛星ブロードバンドStarlink(スターリンク)の活用もスタート。従来の衛星と比べて高速で低遅延の通信を実現し、データ通信をストレスなく利用できるのが特徴だ。さらにStarlinkは、これまでの衛星通信の機材と比べて、大きさ約5分の2、重さ約7分の1と大幅に小型化されている。運びやすいうえに短時間で設置が可能なので、被災地での迅速な通信復旧が見込めるという。
機材や車両を準備している以外にも、日頃から自治体や自衛隊といった関係機関と協力して訓練を行なうなど、災害時にできるだけ早く復旧できるよう備えている。
災害用の「サポートカー」の車内はキャンピングカーのようになっており、現地作業員の宿泊に使用するほか、現地での指揮所として機能するという。2024年1月の能登半島地震における復旧作業時も活躍したそうだ。
左から水陸両用車、四輪バギー、オフロードバイク。
サポートカーや車載型基地局同様、陸での通信確保の手段にあたるのが、水陸両用車や四輪バギー、オフロードバイクだ。災害時復旧に向かう道は、車が通れるところばかりではないため、そうした状況に備えて、“あらゆる手段を使って現地まで辿り着く”をコンセプトに、さまざまな車両を用意している。
水陸両用車は、2020年7月の熊本県球磨川の氾濫をきっかけに導入に至ったそう。ある程度水が引いても、歩くことが困難な状況がつづき、荷物を運ぶ際などに苦労したという。水陸両用車があれば水が残った状態でも、荷物や人を運ぶなど被災地支援を行うことができる。
四輪バギーは土砂を乗り越えていく逞しい車両で、タイヤ以外にもキャタピラーに履き替えることが可能。2022年に北陸で発生した大雪時に出動し、活躍したそうだ。いち早く現場に辿り着き、状況を確認するのが、オフロードバイク。機材をのせることはできないが、まず状況を把握することで、被災状況に適した機材や車両を準備することができる。
通信に影響が出てしまった場合に、少しでも早く復旧できるようにするための取り組みを紹介してきたが、ここからは、KDDIが平時から災害時等を想定して行なっている対策を紹介しよう。
監視センターの2拠点化
通信サービスに影響が出ないようにするための仕組みのひとつが、監視拠点の2拠点化だ。監視センターを東京と大阪の2箇所に置き、大規模な災害が発生し、どちらかの拠点での監視が困難となった場合でも、通常時と同等の監視をリアルタイムで継続できる体制を構築している。
ネットワークの強靭化
そのほか予備設備の設置や、設備拠点の冗長化、通信局舎間をつなぐ伝送路の多ルート化や経路分散を行ない、通信が途切れないような仕組みをつくっている。これらの設備は電気がないと動かないため、停電対策としてバッテリーや非常用発電機などを設置。設備面でも、ネットワークの強靭化を進めている。
新しい機材や車両の導入、システムのDX化など、日々進化している災害対策について、KDDI株式会社 運用管理部 ネットワーク強靭化推進室長 大石忠央氏、KDDIエンジニアリング株式会社 通信対策室長 前本弘文氏、通信対策室 新子恭浩氏に話を聞いた。
「東日本大震災のときから現在まで、どれくらい災害対策は変わったか」と質問を投げかけると、「かなり進化していると思う」と答えた大石氏。車載型基地局なども大幅に増えたほか、2018年からは北海道胆振東部地震をきっかけに、システムのDX化も大きく進んだという。
代表的なのが「au災害復旧支援システム」の導入だ。どこの基地局が停波・停電しているか、被災地の気象情報、道路が通れるか通れないかなど、復旧活動において非常に重要な情報をリアルタイムで可視化することが可能。それによって、手作業で情報を収集していた頃よりも、格段に通信インフラの復旧スピードが向上したという。前本氏もDX化による復旧のスピードアップを実感している。
また、可視化できるようになったことで、被災地の保守拠点のみならず全国の保守拠点からも状況を把握することが可能に。それによって、全国から被災地域への人や必要機材の送り出し等のプッシュ型の支援を、これまでよりもすばやくできるようになったそうだ。
実際に災害現場で復旧作業にあたる新子氏も、「現場で指示を出す人も同じデータに基づいて話すことができますし、指示を受ける方もデータを見ているので意思疎通が早くなりましたね」と話す。さらに、「このシステムを使って、南海トラフや首都直下型地震などのシミュレーションを行なって訓練ができるので、実際に起こったときはこれまでよりもスムーズに動けると考えています」と語った。
システムの今後について尋ねると「訓練を行なったり、実際に災害対応したりすることで、改善点も見えてきます。システムも人もどんどん経験値が増えていって、これからも日々進化していくと思います」と大石氏は答えた。
さらに2023年度から新しいツールも導入したそう。ツールが増えることによって現場作業員のやることが増えてしまうことも懸念される。それについては「訓練によって、やっぱりこうした方がいい、こういう機能があったらいい、ということがあれば声をあげてもらっています。現場で復旧する人の使いやすさが大事なので、意見をもらって目線を合わせて、日々改善を重ねています」と大石氏は答えた。
左から前本弘文氏、大石忠央氏、新子恭浩氏。
担当や役割は違えど、“つなぐ”ことを使命として、有事に備え日々訓練や対策を行う3名。お話を伺い、つながっていることが当たり前ではないこと、そして3名をはじめとするたくさんの方々の努力の上に、私たちの便利な生活があることを改めて実感した。
最後に、災害時私たちにできることや気をつけるべきことについて聞くと、大規模災害発生時に安否の登録や確認ができる「災害用伝言板」サービスの活用を教えてくれた。また、災害時は電話がつながりにくい、または、つながらないこともあるが、無理にかけつづけると携帯電話の電池がなくなってしまい、必要なときに使用できなくなることもあるので、待てる場合は少し時間を置いてからかけ直すことがおすすめだという。
そのほか、対象エリア内の携帯電話に一斉配信する、緊急地震速報、津波警報、避難情報等の「緊急速報メール」の受信設定や、登録した地域の災害や避難情報などの緊急速報メールの配信情報を受け取れる「登録エリア災害・避難情報メール」などがあるそうだ。
こうした情報を知り、家族や友人たちとシェアしておくのも私たちができる災害対策のひとつ。これまで紹介したさまざまな機材や車両、システムは使われないに越したことはない。しかし万が一のときは、万全の準備のもと、少しでも早く復旧しようと全力を尽くしてくれる方々がいるというのは心強い。だからこそ、私たちは、自分たちにできる災害対策をふだんから行なっていく必要があるのだ。
撮影/中村寛史 取材・執筆/永原彩代 編集/後藤未央(ELEMINIST編集部)
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