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共生社会を実現するために、バリアフリーの取り組みが求められている。本記事では17のバリアフリー例を紹介。ユニバーサルデザインとの違いや4つのバリアについても解説する。バリアフリーの意味を改めて確認し、多様な人々が暮らしやすい社会について考えてみよう。
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バリアフリーの「バリア(barrier)」には障壁の意味がある。つまり、バリアフリーとは、社会にある障壁を取り除くこと。多様な人々が暮らす社会において、バリアをなくしていくという考え方である。
バリアフリーはもともと、建物内の段差をはじめとする物理的なバリアを除去する意味合いで、建築用語として使われてきた。現在は、社会におけるあらゆるバリアをなくす広義の意味で使われている。
社会には、年齢や性別、国籍や育った環境などが異なるさまざまな人が暮らしている。それにも関わらず、これまでの社会は多数派に合わせてつくられてきた。多数の人にとっては何でもないことが、特定の人にとっては不便だったり困難だったりする現状がある。そんなバリアをなくしていくのが、バリアフリーである。
バリアフリーは大きくとらえると、誰もが参画しやすい社会を考えること。共生社会の実現のためには、欠かせない考え方だ。
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政府は、1993年に策定した「障害者対策に関する新長期計画」のなかで、4つの障壁として社会のなかの困難を指摘した。(※1)以下で、「4つのバリア」として定着している社会のなかのバリアをひとつずつ見ていこう。
1. 物理的なバリア
物理的なバリアとは、建物や公共交通機関、道路などにおいて移動面での困難をもたらすバリアのこと。駅のホームの段差や狭い道路などが物理的なバリアにあたる。
2. 制度的なバリア
制度的なバリアは、主に障がいを理由とする制限を指す。社会制度やルールによって、少数の人が機会の均等を損失している状況のこと。盲導犬への理解が不十分なことによる入店拒否も制度的なバリアのひとつだ。
3. 文化・情報面でのバリア
文化・情報面でのバリアは、少数の人が多数の人と同様の情報や文化活動を得られないことである。例えば、手話通訳がないイベントでは、聴覚障がいのある人に情報が伝わらない。また、タッチパネルのみの操作盤は、視覚障がいのある人には困難だ。
4. 意識上のバリア
意識上のバリアとは、異なる状況の人への偏見や差別など。無理解や勝手な決めつけは、対象者にとってのバリアとなり得る。また、バリアフリーへの無関心も意識上のバリアのひとつといえる。
4つのバリアのうち、どれかが残ったままでは真のバリアフリーとはいえない。誰もが生活しやすい社会をつくるためには、4つのバリアすべてを意識する必要がある。
バリアフリーと混同しがちな言葉にユニバーサルデザインがある。「ユニバーサル(universal)」は、「普遍的な」や「全体の」という意味。ユニバーサルデザインとは、すべての人のためのデザインを指す。
内閣府が2008年に定めた「バリアフリー・ユニバーサルデザイン推進要綱」では、バリアフリーを「物理的な障壁のみならず、社会的、制度的、心理的なすべての障壁に対処するという考え方」と定義している。一方で、ユニバーサルデザインに関しては、「施設や製品等については新しいバリアが生じないよう誰にとっても利用しやすくデザインするという考え方」としている。(※2)
バリアフリーがいまあるバリアを取り除く考え方であるのに対し、ユニバーサルデザインの概念では、最初から誰もが利用しやすいデザインを目指す。誰一人取り残さない社会をつくるためには、両方をあわせて推進していくことが重要だ。
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以下では、住宅におけるバリアフリーの例を紹介する。生活を送るうえで支障となるバリアを取り除いた住宅を「バリアフリー住宅」というが、具体的にどのようなポイントがあるのか見ていこう。
段差は、フラット化やスロープの設置により解消するのが望ましい。車いす利用者や杖を使う人、子どもの出入りが楽になる。転倒のリスクも減らせる。
手すりを設置することで、家のなかでの転倒事故を防げる。浴室やトイレ、階段などに手すりがあると、転倒のリスクを減らせて安全性が向上する。
転倒事故を防ぐためには、床材として滑りにくい素材を採用することも重要だ。とくに浴室は、床が濡れると滑りやすくなる。水はけがよいタイプの素材を選びたい。
引き戸は、開き戸と比べて開け閉めが簡単。少ない力で開けられるほか、車いす利用者が開けやすいというポイントもある。移動のハードルを下げるための工夫のひとつだ。
廊下や出入り口付近に十分なスペースを確保すると、生活動線が確保できるため、暮らす人みんなにとって過ごしやすい家となる。車いすで動きやすく、介助者が一緒に通れるくらいのスペースが理想とされる。
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不特定多数の人が利用する公共交通機関には、バリアフリーの取り組みが求められている。現に、以下のようなさまざまなバリアフリー化が進んでいる。
駅構内にはさまざまな音響・音声案内装置が設置されている。視覚に障がいがある人に、施設の位置や状況を知らせるのが主な目的だ。電車のドアの開閉を知らせる音声や駅構内のトイレの案内音声、改札口の場所を知らせる音など、多くの情報が音で届けられている。
ホームドアは、線路への転落リスクを減らすためのドアのこと。電車のホームの端に設置されており、人身事故を防ぐとともに利用者に安心感の向上を与える。天井まで密閉するタイプや可動式の柵など形状はさまざまだが、全国の駅で急速に導入が進んでいる。
ノンステップバスは、乗降口の段差をなくしたバス。車内でも段差のないエリアが広く確保されているので、車いすのまま利用しやすいのが特徴だ。高齢者や小さな子どももスムーズに乗り降りがしやすい。2000年に定められた交通バリアフリー法でもノンステップバスについて言及されている。(※3)
ホームと電車の間の段差や隙間を解消するために、可動ステップの設置が進められている。車いすやベビーカーでの乗り降りがしやすくなるだけでなく、踏み外しや転落を防止する役割も果たす。(※4)また、車いす利用者の電車への乗り降りをサポートするために、渡り板が用いられることもある。現在は要望に応じて駅員が設置対応することが多いが、スロープが自動で張り出す仕組みの開発も進められている。
誰もが安心して利用できるように、電車やバスには優先席が設けられている。優先席は、障がいのある人や高齢者、妊婦などが優先的に利用できる。入り口近くの場所に設置されていることが多く、シートの色を変えたりステッカーを貼ったりして差別化されている。
電車には、車いすのまま乗車できる広いスペースが設けられている。スペースには「障害者のための国際シンボルマーク」が大きく掲示されている。近年は「ベビーカーマーク」もあわせて掲げられているケースが多い。
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街なかにおいても、バリアをなくすためにさまざまな取り組みが進められている。具体例を改めて見てみると、身近なものばかりであることがわかるだろう。
エレベーターのバリアフリー化が進んでいる。押しやすい高さに配置されたボタンや手すり、車いすでスムーズに乗り降りするための鏡など、さまざまな配慮がされている。方向・階床を案内する音声ガイドや挟まれ事故を防止する赤外線センサーがついたエレベーターの導入も進んでいる。(※5)
大きな道路や通路には、誘導用のブロックが設置されている。誘導用ブロックは、点状ブロックとも呼ばれ、視覚に障がいのある人の移動をサポートするためのもの。駅のホームには、ホームの外側と内側を区別するために、異なる突起が施された誘導ブロックが設置されている。
音響式信号機は、視覚に障がいがある人に歩行者信号が青であることを知らせるためのもの。メロディや擬音によって、信号が青に変わったことを知らせている。近年は、歩行者用青信号の時間が延長されるものやスマホと連動して操作が可能なタイプなど、多様な信号が開発されている。(※6)
駅や商業施設には、多目的トイレが設置されている。多目的トイレは、オストメイトやおむつ交換台をはじめ多くの機能を備えているのが特徴。車いす利用者や内部障がいがある人、乳幼児連れの人などが利用しやすいように設計されている。
病院やスーパー、図書館など、不特定かつ多数の人が訪れる施設(特別特定建築物)には、車いすの人が利用するための駐車場が設けられている。1枠の幅が広く、施設の入り口近くにあることが多い。「障害者のための国際シンボルマーク」や「思いやり駐車場」の表記がある。自治体によって駐車可能な対象者は異なるが、身体に障がいのある人や高齢者、妊産婦、けがをしている人などが利用できる。
近年は、トイレやエレベーターなどをわかりやすく案内するために、ピクトグラムが用いられることが増えてきた。直感的に判断できるように図記号で表してあるので、文字がわからない人や外国人、子どもにも伝わりやすい。
バリアフリーの考え方を理解し、自分ごととしてとらえるためには、まずは身近なバリアフリー例を知ることが第一歩。そして物理的なバリアだけでなく、4つのバリアすべてに目を向けることが重要だ。
社会のなかで多様な人々が共生するには、真のバリアフリーの浸透が欠かせない。困っている人に気づき、助け合うことで、バリアのない社会が実現していくだろう。
参考
※1 障害者白書のあらまし|首相官邸ホームページ
※2 バリアフリー・ユニバーサルデザイン推進要綱|内閣府
※3 交通バリアフリー法の趣旨・概要|国土交通省
※4 バリアフリー便利帳 P8|東京都交通局
※5 エレベーターのバリアフリー|TOSHIBA
※6 信号機のバリアフリー化について|警視庁
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