ナイトクラブやバーが多いことで知られるスペインのイビサ島。だがそんなナイトスポットを減らし、レストランなどへビジネスモデルを転換させ、環境破壊問題を改善させるプロジェクトが生まれている。欧州復興基金からの助成金や投資家による大規模な再生計画が進行中だ。
宮沢香奈(Kana Miyazawa)
フリーランスライター/コラムニスト/PR
長野県生まれ。文化服装学院卒業。 セレクトショップのプレス、ブランドディレクターを経たのち、フリーランスでPR事業をスタートし、ファッションと音楽の二本を柱に独自のスタイルで実績を積…
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地中海に浮かぶスペインのイビサ島は、大規模なナイトクラブやバーなどが数多くあり、パーティーアイランドとして世界的に有名だ。そんな充実したナイトライフを楽しもうと、多くの観光客が訪れている。だがそれと同時に、増え続ける観光客によるごみ問題、騒音問題、景観破壊、自然破壊など深刻な問題に直面していた。
そこで、島で2番目に大きな町、サン・アントニ・デ・ポルトマニ(以下、サン・アントニ)は、近年、町の再生計画に力を注いでいる。
サン・アントニは、透き通る海の水や美しいビーチ、サンセットなどが有名な観光地であり、ボートクルーズや自然散策など昼間のアクティビティも楽しめる。そういった本来の魅力を改めて前面に打ち出し、ナイトスポット目当てではない家族連れなどの観光客を増やしたいと考えている。
具体的な再生計画は、ナイトクラブやバーといった夜間メインの営業形態から、レストランやケータリングなどへビジネスモデルを転換させた店には、助成金を出すというもの。助成金は欧州復興基金の「NGEU(Next Generation EU)」から、一軒につき最大8万ユーロ(約1300万円)が助成される。
「Next Generation EU」とは、新型コロナウイルスのパンデミックによって大きな打撃を受けたEU加盟国の復興をメインとした基金で、気候変動への取り組みやグリーンプロジェクトの支援に積極的に取り組んでいる。
ここから300万ユーロ(約4億8000万円)の支援を得たサン・アントニは、ナイトスポットで賑わっていたヴァラ・デ・レイ通りの改造に着手。主要なレジャーエリアのウエスト・エンドとサンセットが一望できるレストランやレジャー施設が集まるポネント遊歩道までを結ぶ大通りに改造中だ。
また、このプロジェクトには約70万ユーロ(約1億1000万円)が投じられ、単に事業内容を変えるだけでなく、富裕層をターゲットにしたワンランク上の高級レストランや施設を増やすことも目的としている。
観光のハイシーズンが終わる10月以降、町の中心部の給水、下水、雨水ネットワークの改善のための工事も始まり、電気配線や通信サービスの埋設も行う予定だ。
「この300万ユーロで、町の中心部を変貌させ、地域を活性化させ、観光モデルを変えたいのです」とマルコス・セラ市長は言う。事実、海沿いの一部のレストラン・バーを除いて、この地域は夜になると閑静な住宅街のように静かだ。
町の至るところに貼られていたクラブイベントのポスターも、現在は決められた場所でしか見ない。おまけに徹底したクリーンアップ活動が行われ、町にはごみがほとんど落ちておらず、驚くほどきれいだ。
サン・アントニの再生計画に積極的な姿勢を見せるのは、自治体や住民だけではない。投資家やホテル経営者たちも施設の質を高め、星のグレードを上げるために一連の投資を行っている。むしろ、ホテルの方がいち早くリノベーションに着手し、高級リゾートホテルが次々と建設されている。
例えば、旧ピシス・パーク・ホテルは、1300万ユーロ(約21億円)以上を投じてリノベーションし、ヴィブラ・ホテルに改装。366室の客室を維持したまま、2ツ星から4ツ星にアップグレードした。
また、ブラウ・パルク・アパートホテルには600万ユーロ(約10億円)が投資され、客室の拡大、スパ、新しいレストラン、屋上プールが建設された。他にも高級リゾートホテル専門のパラディウム・ホテル・グループはイビサ島でもトップクラスの5ツ星ホテル、TRS Ibiza HotelとOKU Ibizaをオープンさせた。
2022年に発足したこの再生計画だが、町ではすでに次のフェーズを見据え、さらに100万ユーロを投資すると発表している。
※取材協力: Visit Sant Antoni
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