軽量で曲がる「ペロブスカイト太陽電池」とは? その特徴やメリットをわかりやすく解説

ペロブスカイト太陽電池 太陽光発電 環境

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次世代の新規太陽電池材料として世界から注目を集めている「ペロブスカイト太陽電池」。従来の太陽電池に比べてどのようなメリットがあるのか、各企業による取り組みの事例と合わせて、わかりやすく解説する。

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2023.11.18
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「ペロブスカイト太陽電池」とは

ペロブスカイト太陽電池 太陽光発電 環境

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「ペロブスカイト太陽電池」とは、ペロブスカイトと呼ばれる結晶構造を持つ化合物を用いた新しいタイプの太陽電池のこと。塗布や印刷技術で量産でき、ゆがみに強く軽いのが特徴で、「シリコン系太陽電池」や「化合物系太陽電池」にも匹敵する高い変換効率を達成している。

さらに、フレキシブルで軽量のため、シリコン系の太陽電池では困難なところにも設置することが可能だ。ペロブスカイト太陽電池の登場によって理想的な太陽電池が実現可能になったことから、シリコン太陽電池の課題を克服する次世代太陽電池として、もっとも注目されている太陽電池だ。

ペロブスカイト太陽電池と従来の太陽電池の違い

ペロブスカイト太陽電池 太陽光発電 環境

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シリコン系太陽電池、化合物系太陽電池といった従来の太陽電池と、ペロブスカイト太陽電池にはどのような違いがあるのかを解説する。

薄くて軽い

従来の太陽電池には、薄くすると光エネルギーの吸収効率が低下する性質があったため、実用的な厚みを確保する必要があり、重量も重かった。一方、ペロブスカイト型太陽電池は光エネルギーの吸収係数が大きいため、薄くしても高い変換効率を維持することが可能。また、製造時には高温プロセスが不要なため、樹脂フィルムを基板としてデバイスを形成可能。そのため、薄く、重量も従来の太陽電池に比べ約10分の1の軽さという特徴がある。

曲げられる

従来のシリコン系太陽電池はシリコンが厚く、曲げることができないために、設置場所が制限されていた。しかし、ペロブスカイト太陽電池は薄くて軽い上に、折り曲げやゆがみに強いため、あらゆる場所に設置ができる。

低コスト

シリコン系太陽電池や化合物系太陽電池といった太陽電池は壊れにくく、変換効率が高いが、その分材料や製造コストが比較的高いのが現状だ。しかし、ペロブスカイト太陽電池は、比較的手に入りやすいヨウ化鉛やメチルアンモニウムなどの素材を塗布(スピンコート)技術で容易に作製できるため、製造コストが低い。

安定した供給が見込める

再生可能エネルギーによって莫大な電力を生み出すために必要とされる広い土地と、各消費地との距離が大きく、送配電の過程で生み出された電力の3分の1が無駄に失われているという課題がある。しかし、ペロブスカイト太陽電池の材料となるペロブスカイト結晶はレアメタルを必要としないため、原材料を安定した価格で供給することができ、地政学的リスクなどによる供給不安の心配がなく調達することができる。

グリーンな製造ができる

一般的なシリコン系太陽電池の製造工程は複雑で、製造時には莫大な電力を消費するため、製造工程で多くの温暖化ガスを排出する可能性がある。これに対し、ペロブスカイト型太陽電池は塗布技術や印刷技術を活用した単純なプロセスで成膜やパターン形成ができる。また、シリコン系に比べて薄いため、製造に利用する材料の量は約20分の1。このため、製造時の温暖化ガスの排出量も少なく抑えることができる。

ペロブスカイト太陽電池が求められる背景

2012年に始まった固定価格買取制度(FIT)により、再生可能エネルギーの導入が進んだ。再生可能エネルギーが求められ続け、2020年度の資源エネルギー庁による発表では、再生可能エネルギーは8年連続で増加している。その一方で、日本における再生可能エネルギーの導入率は諸外国に比べて低いのが現状だ。理由としては、普及が広がらない発電コストが高い、安定した発電量の確保が難しい、エネルギーの変換効率が低いなどがあげられる。これらの課題を解決し得るものとして、低コストでフレキシブルに活用できるペロブスカイト太陽電池が注目されているのである。

【特集:再エネのいま】知っておきたい再生可能エネルギーの現状

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ペロブスカイト太陽電池のメリット

ペロブスカイト太陽電池 再生可能エネルギー

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シリコン太陽電池に代わる次世代太陽電池として注目されているペロブスカイト太陽電池。その理由として、価格や素材、形状によるメリットが大きい。

さまざまな場所に設置できる

薄くて軽く、歪みに強いというフレキシブルな形状のため、従来の太陽電池では困難な場所にも設置することができる。例えば、建物の壁や車体、衣服、ウェアラブルデバイスといった曲面に設置しても、太陽の光エネルギーを活用して発電を行うことができ、設置場所の制限が緩和される。

低コストで手に入れやすい

ペロブスカイト太陽電池は、特別な加工を必要とせず、塗布や印刷技術で量産できる。また、ペロブスカイトを半導体の材料に薄膜として用いるため、従来のシリコンを使う場合と比べて20分の1程度の材料で済むとされている。そのため、低エネルギー、低コストでの製造が可能なのである。

供給が安定している

ペロブスカイトは一般的な化学物質から合成できる材料であるため、レアメタルを必要としない。そのため、価格面での優位性があるだけでなく、原材料の供給を巡る問題が起こりにくいことも大きなメリットだ。

ペロブスカイト太陽電池の課題

ペロブスカイトの実用化に向けて最大の課題なのが、その不安定性。ペロブスカイトは酸素や水分などの外的影響を受けやすく、加熱劣化による内的不安定性も存在する。これらの特性によって結晶内の結合に支障をきたすと、電子が材料内を効率的に移動できなくなり、太陽の光エネルギーから電気への変換効率が低下する可能性がある。これらの課題を解決することができない限り、ペロブスカイト太陽電池が既存の太陽電池に置き換わることはないと考えられる。

ペロブスカイト太陽電池の実用化に向けて

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ペロブスカイト太陽電池の実用化に向けて、現在多くの企業やメーカーが研究開発に取り組んでいる。

東芝|フィルム型のペロブスカイト太陽電池

東芝と国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、フィルム型のペロブスカイト太陽電池の開発を進めている。2021年9月には703㎠のモジュールで太陽光エネルギーの電気への変換効率15.1%を実現。フィルム型のペロブスカイト太陽電池として世界最高のエネルギー変換効率を達成し、将来の太陽電池の設置場所拡大につながることが期待されている。

積水化学工業|外壁設置の実証実験

積水化学工業では、2025年までにペロブスカイト太陽電池の事業化を目指している。2021年7月には14.3%の変換効率を達成し、2023年4月からは、国内初となるフィルム型ペロブスカイト太陽電池を建物の外壁に設置する実証実験を開始。将来的には、都心部の既存建築物への設置を目指す予定だ。

RICOH|JAXAとの共同開発で人工衛星の軽量化を図る

RICOHと宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、宇宙での利用も可能な、耐久性が高く軽量化されたペロブスカイト太陽電池の共同開発を進めている。軽量で低コストという特性を持つペロブスカイト太陽電池によって人工衛星の軽量化が図れれば、打ち上げコストの削減にもつながるだろう。また、放射線による劣化が少なく、変換効率が高いことからも、宇宙空間での利用に向いているとされている。また、実証実験では、ペロブスカイト太陽電池が宇宙空間で高い発電効率を維持することに成功している。

期待が高まるペロブスカイト太陽電池

ペロブスカイト太陽電池 再生可能エネルギー

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ペロブスカイト太陽電池は、その軽量生や低コスト、フレキシブルな形状により、これまで設置が難しかった場所にも設置でき、太陽光発電のさらなる普及に寄与することが期待されている。国内でも、さまざまな企業が実用化や量産化に向けて研究開発に取り組んでおり、前向きな結果が得られている。ペロブスカイト太陽電池によって新たな選択肢が増え、再生可能エネルギーがより一層普及していく未来に期待したい。

※掲載している情報は、2023年11月18日時点のものです。

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