コロナ禍で衣料品の需要が急減し、バングラディシュの縫製工場への注文取消しや延期が急増したことをご存知だろうか。バングラディシュ縫製品製造輸出業協会によると輸出オーダーのキャンセルは3億400万ドル、9億5200万着に上った(2020年4月6日発表)。その結果、女性を中心に約400万人の生活に甚大な影響を与えたという。行き場を失った衣料品を再生することで、廃棄衣料を減らし、現地の労働者の雇用を守ることを目指す日本のベンチャー企業が現れた。
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HAND EMBROIDERED UPCYCLED DENIM JACKET
ECアウトレットモール「スマセル」はこのほど、バングラディシュの労働者の雇用を守り、廃棄衣料を減らすためのプロジェクト「PHOENIX LAB. PROJECT(フェニックス ラボ プロジェクト)」を始動。ファッションブランド「ヨシオクボ」のデザイナー久保嘉男氏と協働し、バングラディシュの縫製工場に大量にあるグローバルSPAのキャンセル品に手刺繍を施したダンガリーシャツやデニムジャケットなどのアイテムを9月15日に発売した。
価格帯はダンガリーシャツが9,800円〜12,900円(税別)、デニムジャケットが15,900円(税別)など。発売に先駆けてポップアップストアも開く。9月15~21日に大阪のルクア1100、10月11~17日に阪急うめだ本店で予約先行販売を行う。商品は10~11月頃、購入者の手元に届く。
プロジェクトを立ち上げた理由を『スマセル『を運営するウィファブリック代表福屋氏は「新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、金額にして3,000億円以上のキャンセルがあり、それによって数百万人が雇用を失ったというバングラディシュの状況を聞いたことだった」と語る。
きっかけは『スマセル』の取引先でバングラディシュに特化したOEM企業わんピース代表の山口氏との対話だった。「われわれはファッション産業におけるサステナビリティを追求しているベンチャー企業。キャンセルされた服を活用して何かできないかと考えた。
『スマセル』ではアーティストの大沢伸一さんや『コム・デ・ギャルソン』で経験を積んだプリントデザイナーのUtsutsu Minami氏によるデッドストックを活用したアイテムの提案は以前から行っていたこともあり、今回のプロジェクト発足に至った。
アップサイクルはデザインが鍵。ディレクションできるデザイナーを探していたところ、久保(嘉男)さんにたまたまお会いする機会があった」。福屋氏はテレビ出演の際に「ヨシオクボ」のシャツを選ぶなど以前からブランドのファンだったという。
バングラディシュを訪れたプロジェクトメンバー。左から「ヨシオクボ」のデザイナー久保氏、ファッションインフルエンサーの三條場氏、同国に特化したOEMのわんピース代表の山口氏、ウィファブリック代表の福屋氏
デザイナーの久保氏は参画の理由を「儲かるためのプラットフォームだと協働しないが、バングラディシュの労働者に貢献したいと奮闘する福屋さんの志に賛同し、協力したいと考えた。フェラーリを乗り回しているようなIT社長だったら一緒にやりませんよ(笑)」と振り返る。今年2月にキックオフミーティングを行い、5月にはプロジェクトチームでバングラディシュを訪れた。久保氏が「現地からの状況報告ではなく、自分の目で見て現状を知りたいと思い、チームに提案した」からだ。
福屋氏は実際に現地の人に話を聞くとその深刻さを痛感したという。「縫製工場W ApparelsのMDアクター代表に話を聞くと、彼が運営する工場では約3割の10万枚以上、金額にすると約1億4,000万円がキャンセルされたという。一家5人で水を分け与えながら生活をしのいだという失業者にも会った。彼/彼女らに支援するには何が最も効果的かを聞くと答えは『仕事を増やすこと』だという。廃棄衣料を活用して、現地の工場に直接依頼して仕事生むことを重視したアップサイクルアイテムを作ろうと考えた」と話す。
ディレクションを担う久保氏は自身のブランド「ヨシオクボ」とは異なるアプローチで挑んだ。「目標は“捨てられない服にする”こと。服を解体して再構築するようなリメイクはしたくなかった。インスピレーションになったのは幼少期に母が作ってくれたパッチワークのサンタクロースのぬいぐるみ。それはいまだに捨てらずにとってある。手仕事には何かが宿る。作り手の温かみが感じられる服にしたいと考え、現地で刺し子ができる工場を探した」。今プロジェクトの久保氏の役割はデザイナーというよりもキュレーターに近い。大量の衣類の中から24型を選び、服の形は変えずに施す刺繍を考案した。「多くの方に長く着ていただけるような、でも今のムードも抑えた服を選んだ。手を掛けたものには価値が生まれる。改めて今回手刺繍で切り込んでいくのはめちゃくちゃいいと感じた。見慣れた服は捨てられるけれど、手仕事は見た目も違うから、二次流通三次流通にのせていくこともできるのではないか」と手応えを語る。
パッチワークのサンタクロースのぬいぐるみ
「今回活用できた廃棄衣料は氷山の一角」と福屋氏はいう。確かに廃棄を免れた衣類は数千着とわずかだが、バングラディシュの現状や課題を伝えるきっかけにはなった。「今回のプロジェクトの鍵は労働者を救うこと。もちろん全ての人を救うことはできないけれど、救える人から救っていくしかないし、アクションを起こさないと何も変わらない」と続ける。今後もプロジェクトを継続していくという。「60~100枚程度しか作れなかったアイテムもある。例えば同じ刺繍と新たな廃棄衣料を活用して、別の製品を作ることもできる。さらに一緒に取り組むデザイナーを増やし、バリエーションを広げることも考えている。まずは、今回のプロジェクトで何枚の服が活用できて、労働者にどの程度の賃金が支払われたか、一から服を作るのと比較してどの程度CO2が削減されたかなどを調査して発表していきたい」と意気込む。
久保氏は「大きいことは言えないけれど、ファッション産業が抱える課題に向き合い、ファッションの風向きが変わるデザインをしていきたい」と話した。
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ファッションの廃棄ロスを無くすため、廃棄せず最後の一点まで商品を届けたい企業と、お得に商品を購入したいユーザーをつなげる共創型マッチングプラットフォーム。オンライン上でこれまで接触することが出来なかった両者をつなげることで、『廃棄のない循環型社会』を目指している。
久保 嘉男
00年Philadelphia University’s school of Textile & Scienceファッションデザイン学科卒業後、オートクチュールデザイナー Robert Danes氏のもと4年間ニューヨークでクチュールの全てのコレクションを氏と共に作製に携わる。帰国後 yoshiokubo 05年S/Sよりコレクションを発表。
写真提供/スマセル 執筆/廣田悠子 編集/後藤未央(ELEMINIST編集部)
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