オーストラリア、ヴィクトリア州第2の都市、ジーロング。ごみを出さない生活が当たり前で、自宅ではコンポストを使い、新築住宅には高いエネルギー効率が求められるなど、サステナブルな意識が高いという。そんな場所で15年暮らしているという日本人の夏南子さんに話を聞いた。
夏目 円(なつめまどか)
美容ライター/エディター
オーストラリア在住。大学卒業後、出版社にて編集者を務めたのち独立。美容ライター・エディターとして20年以上のキャリアがあり、50歳を機にメルボルンに移住。現地でのナチュラルコスメ、ビュー…
家具はすべてリサイクルショップで購入している。
――大学留学をきっかけにずっとジーロングで暮らし、もう15年になる日本人の夏南子さん。サステナブルに関心を持ったのは、ご主人の影響が大きかったとか?
ドイツ人の夫は、小さい頃からエコバックを持って買い物をし、空き瓶やペットボトルは購入したお店に戻してお金に交換するというように、リサイクルが生活の一部にあったそうです。オーストラリアに移住してからもその意識は変わらず、私自身も彼の影響を受けて、サステナブルに関心を持つようになりました
娘が生まれてからは、さらに意識が高まり、よりよい地球環境のために私たちができることを考えるようになりました。娘が将来、地球で安心して暮らしていけるために今からできることを日々実践しています
オーストラリアと比べると日本はやはり過剰包装だと思います。例えば、日本のスーパーはジャガイモやニンジンを袋に入れていますが、こちらではほとんどの野菜、果物はそのまま。できる限りごみをださないという意識が根付いています。2年前に家を購入しましたが、家具はすべて中古です。再利用すればそれだけごみが増えないし、お財布にもやさしいですから。
ごみの収集は週に1回。フタで色分けしている。
――2019年にリサイクルごみの海外輸出禁止を決定したオーストラリア。政府は2025年までにリサイクルを加速すると明言したことで、生活者にもさまざまな変化がありました。
昔は、ごみの分別も焼却もせず何もかも埋めていましたからね。オーストラリアはいくら国土が大きいとはいえ、これは問題がありすぎました。そんな経緯から、ここ数年でごみ処理をはじめ、リサイクルへの関心が高まったことで、行政もいろいろ取り組むようになりました。
ごみの出し方は住む地域によって異なりますが、私たちが暮らすジーロングは3つに色分けされたごみ箱が各家庭に用意されています。緑は草木、赤は一般ごみ、黄色は瓶、缶、紙、プラスチックなどのリサイクルです。
ここでひとつ問題があって、リサイクルの黄色のごみ箱は分別しないんです。行政が分別するというのですが、半信半疑なところもあり、夫は近所のリサイクルセンターに出向いて、自分で瓶、缶、紙に分けて出しています。その点、日本は細かく各家庭でリサイクルができているので、そこは見習ってほしいですね。
庭に置かれた大きなコンポスト。近づいてもニオイはしなかった。
――広い庭の奥に大きなコンポストがありました。ごみを出さない、増やさないために、生ごみはすべてコンポストに入れて家庭菜園の肥料として使っているそうです。
ジーロングは庭つきの一軒家がほとんどで、各家庭にコンポストがありますね。コンポストは、ホームセンターで売っています。ミミズを入れるワームタイプ、地面に設置するタイプなど、種類や大きさなどいろいろ揃っていますよ。私たちのコンポストは生ごみをどさどさ入れて放置するというシンプルなタイプです。
フタはロックされるので、害虫は入ってこないそう。
コンポストのやり方はとても簡単です。野菜くずや卵の殻など、すべて生ごみはとっておき、それをコンポストに入れるだけ。時間が経つと下のほうから堆肥になっています。できた堆肥は、家庭菜園に使っています。雨が降る季節は湿っぽくなりますし、逆に乾燥している季節にはカラカラになります。ちょっと湿っているぐらいがいい堆肥ができますね。
キッチンの生ごみはフタをせず“見える化”して、こまめにコンポストに入れるのがコツ。
コンポストのメリットはもちろん、生ごみを出さないこと。ごみ処理にかかるエネルギーがゼロですから環境に配慮していることは間違いありません。また、栄養価の高い堆肥でつくる家庭菜園の野菜は本当においしいです。
デメリットは、ハエなのどの虫、ニオイが気になることぐらい。ただ、コンポストのフタをすればニオイはまったくしません。
隣の市のサーフコーストシャイアでは、行政が各家庭に生ごみ用のバケツを配り、生ごみを一括で集めて巨大コンポストで堆肥をつくっています。ジーロングよりも人口が少ないのでできることかと思いますが、行政が生ごみ回収に積極的に取り組むことで、街全体がごみゼロになっていますね。
雨水を溜めるためのウォータータンクで芝生や野菜の水やり。
――ヴィクトリア州ではすべての新築住宅は、エネルギー効率の基準を満たすことが必須条件。2年前に家を購入した際のことを聞かせてください。
新築住宅を購入する際、州の法律で「最低エネルギー効率建築基準」という厳格な基準があります。ソーラーパネルの設置、二重窓、断熱材、壁や屋根の色など、エネルギー効率の高い住宅にするための取り組みごとに1~10のポイントが決められています。
新築住宅は、合計のポイントが6ポイントにならないといけないのですが、現在は7ポイントに引き上げられました。エネルギー効率の高い住宅することで、暖房や冷房のコストも低く、温室効果ガスの排出量を削減することができます。
屋根には大きなソーラーパネルを設置。ヴィクトリア州は積極的に設置をすすめている。
ポイントは専門業者が算出する仕組みです。我が家では、屋根にソーラーパネルと最高レベルの断熱材などを取り入れたほか、雨水を有効活用するためのウォータータンクと地下にもタンクも設置しました。コストはかかりますが、再生エネルギーを使用するためには必要不可欠な経費ですから惜しみません。
ちなみにソーラーパネルの導入にかかった費用は、6500ドル程度(約61万円)。ただ、申請すると州政府から無金利ローンを借りられる仕組みで、自分たちの収入に合わせて無理のない月々の金額で返済できます。ソーラーパネルそれなりに金額が高いですが、毎月少しずつ支払うことができるので便利ですね。
車はもちろん電気自動車。ソーラーパネルの電気を使用している。
こうした取り組みを行うことで、地球環境にも貢献していることはもちろんですが、電気代も節約することができます。我が家では電気自動車の充電、洗濯やシャワーなどもなるべく太陽光発電の時間に行います。オール電化なので、夕食の準備なども太陽がいちばん出ている昼の時間に行うことが多いですね。
娘さんのおもちゃはすべてリサイクルのもの。
――家具に限らず、お子さんの服、おもちゃもリサイクル品を選び、ごみを出さないことを心がけています。
自分たちでできることをコツコツと続けています。オーストラリアは街中にリサイクルショップがありますから、リサイクル品が気軽に手に入ります。それから、スーパーでは、生産地をよく確認してから購入しています。遠い国から輸入してきた製品は輸送によってCO2を排出していますから買いません。地元で生産された食材や製品を選んでいますね。
「次の世代が住みやすい環境をつくる」「地球を守りたい」という大きな目標があるからこそ、受け身ではなく、自ら考え、行動するというポジティブなマインドで行うサステナブルな暮らし。環境問題をマクロで捉えず、ミクロな視点で日々の生活の中で取り入れることの大切さを改めて実感しました。
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