Photo by Andrew Watson
「海を守れば海が私たちを守ってくれる」——パタゴニアは7月13日、海が気候変動の解決策として、海洋を保護する区域を増やすためにグローバルキャンペーン「Protected Oceans」を開始した。具体的な課題と解決策、地域コミュニティでできることを訴えている。
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なぜ海なのか。「海が解決策にあふれているからです。2018年末にミッションステートメントを『私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む』に更新しています。背景には、気候変動があります。地球の環境は危機的で人間の生活や経済活動にも厳しい状況です。ビジネス課題として捉え事業のなかで二酸化炭素削減に努めていますが、それでも十分ではありません。私たちは自然保護、そのポテンシャルを最大化することが問題解決に寄与すると考えています。海は大気の50倍、陸上の植物や土壌の20倍炭素を蓄えています。そして、森林や農業など陸域に比べて、海域は気候変動の解決策の一部を担っているにも関わらず、あまり目が向けられていません。海洋保護・保全に取り組むプレイヤー自体も陸域に比べて少ないのが現状です。いきなり海に目を向けるといわれても戸惑うかもしれません。それでも、この機会に、それぞれが食、文化、スポーツ、レクリエーション、思い入れのある海、や自分が暮らす地域の海に関心を持つことが自然環境の保護・保全につながると考えています」と中西悦子・環境社会部シニアマネージャーは語る。
パタゴニアは1970年代から自然環境の保護に向けたアクションを起こしてきた。自社のビジネスに関しても技術革新やビジネスモデルを再構築することで、温室効果ガス排出量や水使用量を削減し、有害物質使用の廃絶などにも取り組んできた。二酸化炭素を固定するとしてリジェネラティブ・オーガニック農業を推進するなど先駆的な方法を取り入れている。
このキャンペーンでパタゴニアはグローバルで海洋保護が必要な理由を、地球、人々、文化の3つの観点で伝えている。地球の観点では「海は人間が生み出すCO2の約25%を吸収し、私たちが呼吸する酸素の少なくとも半分を供給してくれる。豊かで多様な魚群を支え、また洋上風力発電など化石燃料への依存を終わらせ、再生可能エネルギー源となるポテンシャルを秘めている」点を強調。
人々の視点では「世界人口の3分の1以上が沿岸地域に暮らし、海面上昇や海洋生物の生息地の劣化の影響を受けるのも沿岸部の人々。海洋保護区の指定や漁業による生態系への影響を軽減することにより、生態系を回復することができる」という。
文化的視点では「海は薬。喜びを与えてくれる波、栄養を与えてくれる植物、そして何千年もこの資源を崇めてきた沿岸地域の共同体にとって中心的で神聖な場所。海を健全に保つことで共生関係はより強固になる。海を守れば、海が私たちに恩恵を与え続けてくれる」と伝える。
Photo by david doubilet
「海を健全に保つことで、その共生関係はより強固になります。海を守れば、海が私たちに恩恵を与えつづけてくれます」Protected Oceansキャンペーンページより引用
今回のキャンペーンで具体的な課題と解決策を示す3つのショートフィルムや関連ストーリーを公開している。例えばショートフィルム『コラソン・サラド』では、チリ南部のカウェスカル国立保護区で、先住民コミュニティが祖先から受け継ぐ領土と水域を守る活動に、チリの活動家でパタゴニアのサーフィンアンバサダーを務めるラモン・ナバロが参加する様子を描いている。陸域は厳しい規制によって守られている一方、水域では規制が適応されず、サーモン養殖産業によって海底が汚染され、生態系が壊れているという。
その結果、先住民による伝統の漁業が難しくなっている現状や、サーモンの養殖自体が持続不可能であるという課題も浮き彫りにしている。ショートフィルムの最後には「カウェスカル族の領土を永遠に守り、国立保護区の水域を国立公園として宣言するために行動を起こそう」とコミュニティの参加を呼びかけている。日本のスーパーでもチリ産の養殖サーモンを目にすることは多い。
日本では、奄美大島にフォーカスする。奄美大島は、パタゴニアのサーフィンアンバサダーで、奄美大島で生まれ育ったプロサーファーの碇山勇生の活動を支援する。碇山は、奄美大島の護岸整備計画の見直しを求め、全国から署名を集め、対話を実現し工事中止を成功させるなど活動家としての側面を持つ。よりシンプルに自然と向き合う生活を送りながら、奄美の伝統と文化、そして自然を後世に残すために精力的に活動している。
中西シニアマネージャーは「奄美大島が世界自然遺産であることはよく知られていますが、世界遺産に認定されたのは陸域の一部。奄美の自然を構成する重要な要素は陸と海のつながりですが、現在も、さまざまな開発が進んでいます。私たちは、勇生さんや仲間とともに奄美の海と自然を一体として守り、次世代につないでいくことを目指して立ち上げた一般社団法人NEDIとともに、それぞれの立場や状況は異なる島の人たちが、島をどう次の世代につなげていくのかといった対話や経験を重ねて、奄美の文化を大切に、自然に根差した社会や経済を模索していきたいと思います」という。
「地元にいる人しかできないことがあります。暮らしている人が主体、まずはどのように考えどのようにすすめられてきたか学びながら、一緒に行動したいと考えています」と加える。今後、島の海洋環境調査やモニタリングなどをすすめていき、これまで長く海をみてきた漁師や集落のみなさんと、回復力のある海を目指していく。この様子は、ショートフィルム化し、来年夏頃に公開する予定だ。
Photo by Hisayuki Tsuchiya
「対立ではなく、対話することで、一次産業の方々、地域住民の方々、自治体の方々と、一緒になって奄美の海域や自然環境、伝統文化を次世代へ残す活動を行っていきたい」(碇山勇生さん)
パタゴニアは1986年から売り上げの1%を自然保護に寄付を始め、2002年には創業者のイヴォン・シュイナードが中心となって非営利団体「1% for the Planet」設立。多くの企業を巻き込みながらグローバルに活動する。日本でも日本支社の売り上げの一部を国内の団体に寄付する環境助成金プログラムを行っている。支援先の選定は、パタゴニア日本支社の社員が行い、2年に一度選定スタッフを公募している。選定のポイントは「問題の根本的原因に焦点を当てているか」「行動志向であること」「市民を巻き込み、支持を得ている」「ターゲットと目標において戦略的に活動しているか」に加えて、「多様性、公平性、かつ包括性のある環境ムーブメントを構築しているか」なども加味される。昨年度日本では59団体を支援した。
最後に、私たちにできることは何かを中西シニアマネージャーに尋ねた。「例えば好きな魚や海藻はどこからやってくるのか、どんな環境で育っているかなどその背景を知ることは大きな一歩になります。背景を知り、課題があれば仕組みを変えることに働きかけることができるからです。また、海とのつながりに思いをはせてみたり、海に出かけてみたりするのもいいですね。その地域で活動する団体に出合い、応援したいと思ったら寄付するのもいいでしょう。何より、知りたいという好奇心を持つことが第一歩です。現在、国立科学博物館で開催している特別展『海 ―生命のみなもと―』もおすすめです」。
執筆/廣田悠子 編集/後藤未央(ELEMINIST編集部)
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