ポピュリズムの概念を解説 世界各国の動きや理解を深めるための書籍も紹介

メッセージを掲げる群衆

Photo by roya ann miller on Unsplash

大衆迎合主義とも訳される「ポピュリズム」。大衆の支持を得ることを第一とする政治潮流であり、近年、世界各国で急速に広がりを見せている。本記事では、ポピュリズムとは何かを簡単に解説。アメリカや欧州各国の動向もあわせて紹介しよう。

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2023.08.15
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ポピュリズムとは

選挙のステッカーがたくさん配置されている様子

Photo by Element5 Digital on Unsplash

ポピュリズムとは、大衆からの人気を得ることに重きを置く政治思想や活動を指す。ラテン語で「人々」を意味する「ポプルス」が語源である。エリートと大衆を対比し、大衆の不満や願望に耳を傾ける形で支配勢力に対抗することから「大衆迎合主義」とも訳される。

日本では「反知性主義」と同義として捉えられることもあり、ネガティブな意味合いで使われることが多い。ヨーロッパ諸国でも民主主義を脅かす存在として、非難される対象に対して使われる傾向だ。一方で、リベラルな考え方が重視されるアメリカでは必ずしもネガティブに捉えられるわけではなく、しばしばポジティブな意味合いで用いられる。各国の動きや時代の流れによって意味合いが異なることも多く、厳密な定義はない。曖昧な概念であるがゆえに、「ポピュリズムであるか」は個人の思想に委ねられることが多いだろう。

ポピュリズムの特徴

拳を突き上げる様子

Photo by Clay Banks on Unsplash

ポピュリズムは歴史のなかでたびたび登場しているが、脚光を浴びたのは2016年。イギリスで国民投票によりEU離脱が決定した年であり、アメリカでドナルド・トランプ元大統領が当選を確実とした年でもある。

ポピュリズムは、政治に対する不満や現状への閉塞感に伴い、変化の局面で台頭しやすいのが特徴だ。民衆の感情や欲求を叶えようと振る舞うことにより、人気を獲得し、政治的基盤を確立するという傾向上、人々を煽るような発言を行ったり、非現実的な政策を掲げたりすることが多い。排外主義と結びつきやすいのも特徴のひとつである。

また、ポピュリズムは、エリート層に対する異議申し立ての側面も持ちあわせている。特権を持つエリートに対し、権利が十分でないとされる人々について強調するのだ。それを、カリスマ性のある人物が先導することが多い。

ポピュリズムと民主主義は国民の声がベースとなっている点では共通しているが、少数派の意見を取り入れる姿勢が異なるとされる。民主主義は、国民の意見を政治に取り入れ、ときには修正を図りながらいい方向に導いていく。対して、ポピュリズムは多数派の意見にのる傾向にあり、政治基盤を確立するのが目的とされるケースも存在する。その場合、権力の濫用につながる可能性があることも特徴だろう。

各国で捉え方が異なることが大前提だが、日本では、ポピュリスト政治家として、2001年に政権を獲得した小泉純一郎元首相の名前が挙げられる。「自民党をぶっ壊す」のスローガンを掲げ、政策に反対するすべての人たちを抵抗勢力という言葉で表現した。世論を味方につけた政治手法は、良くも悪くも「小泉劇場」として注目を浴びた。大阪府知事・大阪市長を務めた橋下徹氏も「大阪都構想」の住民投票の実施やメディアへの露出の高さなど、ユニークな政治手法からポピュリストだとされることが多い。

世界各国でのポピュリズム

国旗を持った群衆の様子

Photo by Dyana Wing So on Unsplash

世界的な潮流であるポピュリズムだが、具体的にはどのような動きがあるのだろう。以下では、アメリカ・イギリス・オランダ・ドイツにおけるポピュリズムの躍進を紹介する。

アメリカ|ドナルド・トランプ大統領の誕生

ドナルド・トランプ元大統領の誕生は、ポピュリズムの歴史に大きな影響を与えた出来事だ。彼は、エスタブリッシュメント(支配者階級)のエリート主義を攻撃することで、支持を得ていった。白人の労働者階級が見捨てられていると主張し、当選にこぎつけたのだ。聴衆を煽るコミュニケーション手法も相まって、多くの人がドナルド・トランプ元大統領をポピュリストだと指摘し、議論した(※1)。大統領就任後もあらゆる面において独特な政権運営が行われた。政策に関しては、移民政策を強く推し進めたほか、支持者に対する利益還元的なものもあった。

ドナルド・トランプ元大統領以外にも、アメリカの歴史において、ポピュリズムは繰り返し登場している。1891年にはポピュリスト党ともいわれた「人民党」が結成された。中西部・南部の農民が主体となった農民政党であり、弱者の受け皿になるべく誕生し、インフレ政策を積極的に主張した。政党としては長くは続かなかったが、のちのアメリカ政治に影響を与えたとされている。

イギリス|EU離脱に関わる動き

イギリスでは、2016年にEU離脱の是非を問う国民投票が行われた。結果として僅差で離脱派が多数となり、2020年にEUを離脱している。この動きにも、大きくポピュリズムが関わっているとされている。

EU離脱を目指していた「イギリス独立党(UKIP)」は、ナイジェル・ファラージ党首の発信力によって支持を集めた。イギリス独立党は、EU離脱のほか、移民の権利制限を訴え、元首相であるデーヴィッド・キャメロンによって「隠れ人種差別主義者」と批判されたこともある。しかし、国民の不満の受け皿になる形で徐々に力を集め、EUを離脱するまでに至ったのだ。

オランダ|ポピュリズム政党の台頭

オランダは、ポピュリズム先進国とされている。ポピュリズム政党である「自由党(PVV)」が常に一定の議席を獲得しており、2017年には政権獲得を取り沙汰されるほどの支持を集めた(※2)。

オランダをはじめ、福祉の先進国であるヨーロッパでは、人権の尊重やジェンダー平等をより推進するために、たびたびイスラム排斥運動が実施される。2016年に設立されたオランダの「民主主義フォーラム(FvD)」は、反イスラムを掲げている政党のひとつ。既存の体制であるエスタブリッシュメントに反発する姿勢を見せており、若者を中心に支持を集めているのが特徴だ。

ドイツ|ドイツのための選択肢(AfD)の影響

ドイツでは、右派ポピュリズム政党とも表現される「ドイツのための選択肢(AfD)」が躍進している。ドイツのための選択肢は、イスラム教を批判する発言を繰り返している。多数の難民が流入した際には、「警官は銃で撃って入国を阻止することが許されるべき」などの党関係者の過激な発言が物議を醸した。しかし、2016年には初の議会入りを果たしたのだ。2023年6月には、ドイツのための選択肢から初の首長が選出された。連立政権の支持率低迷が追い風となり、政治勢力として存在感を示している。

ポピュリズムを知るために

積み重なった古書

Photo by Alexander Grey on Unsplash

ポピュリズムは定義が曖昧なうえに、捉え方もさまざまであり、理解するのがなかなか難しい。以下では、ポピュリズムの理解を深めるうえで参考になる書籍を、要約とともに3冊紹介しよう。

水島治郎「ポピュリズムとは何か」(中公新書)

「ポピュリズムとは何か - 民主主義の敵か、改革の希望か」は、現代の民主主義が抱える本質的な課題に迫った一冊。各国のポピュリズム政党・政治家の姿を描いている。民主主義を脅かす存在として捉えられがちなポピュリズムを、民主主義に内在する「内なる敵」であるという視点で捉えているのがポイント。ラテンアメリカではエリートによる支配から人民を解放する力となり、ヨーロッパでは既成政党に緊張感を与え、改革を促す効果をもたらしていることにも触れている。現代のポピュリズムについても理解が進む内容だ。石橋湛山賞を受賞している。

ヤン=ヴェルナー・ミュラー「ポピュリズムとは何か」(岩波書店)

「ポピュリズムとは何か」は、政治思想史家が、さまざまなポピュリズム現象やポピュリストの論理を分析し、ポピュリズムの定義づけを試みた一冊。曖昧にされがちなポピュリズムを噛み砕いており、「何をもってポピュリズムというのか」を解説。民主主義との区別やポピュリズムへの対処法についても紹介されている。

森本あんり「異端の時代」(岩波書店)

「異端の時代 - 正統のかたちを求めて」は、神学者である著者・森本あんりが十年来抱えたテーマを取り上げた一冊。「正統と異端」の力学から現代人のかくれた宗教性を示すと同時に、混迷する世界を読み解くヒントが記されている。世界に蔓延するポピュリズムを分析し、「正統」の所在を問いかける内容でもある。同書の内容は、高校教科書や大学入試でもたびたび使われている。

ポピュリズムを正しく理解して、物事を読み解こう

近年注目されているポピュリズムだが、最近になって発生したムーブメントではなく、長い歴史のなかでたびたび繰り返されている事実がある。ポピュリズムは民主主義を脅かす存在だと捉えられている一方で、政治が活性化するという側面も持ちあわせており、ポジティブな要素を見出せるケースも存在している。

社会の一員である私たちができることは、ポピュリズムを正しく理解して政治に参加することではないだろうか。目の前で起きているポピュリズムが自分たちにとって、どう影響をおよぼすのかを考えてみよう。他人の声に流されるのではなく、自ら判断して行動することが大切だ。

※掲載している情報は、2023年8月15日時点のものです。

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