「見えない気候変動コスト」を販売価格に上乗せ ドイツのスーパーで行われた試み

エコバッグに入ったレモン

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ドイツの大手ディスカウントスーパーマーケットで、人々の健康と環境に対する実質コストを反映するために、一部の商品価格を値上げする試みが行われた。見えない気候変動コストに対する消費者の意識を高める意図がある。

今西香月

環境&美容系フリーライター

慶應義塾大学 環境情報学部卒。SUNY Solar Energy Basics修了。 カリフォルニア&NY在住10年、現地での最新のサステナブル情報にアンテナを張ってライター活動中

2023.08.07
SOCIETY
学び

エシカルマーケティングとは? メリットや実例をわかりやすく紹介

気候変動への影響をプライスに上乗せ 最大約89%の値上げ

ドイツで“見えない気候変動コスト”が価格に上乗せされる、ソーセージなどの加工肉

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ドイツの大手ディスカウントスーパー「ペニーチェーン」で、食材がもたらす気候変動の影響を商品価格に反映して販売する実験が行われた。同店の全2,150店舗を対象とする1週間の実験で、その名も「wahre Kosten(真のコストの意味)」キャンペーン。9種類の製品について、気候変動のコストが上乗せされた価格で販売された。

このキャンペーンは、ニュルンベルク工科大学とグライフスヴァルト大学の科学者らが協力したもの。「スーパーマーケットの商品価格は、真の気候変動コストや長期的な健康コストを必ずしも反映していない」という消費者研究がきっかけになったという。

そこで、実際に私たちがふだん口にしているものは、地球環境にどのくらい負荷をかけているのか実感し、その意識を向上するために、このキャンペーンが行われたのだ。

気候変動コストの算出法

例えばチーズでは、科学者が以下のように気候変動コストを算出した。

・メタンや二酸化炭素など気候に悪影響を与える排出:85セント(約132円)
・集約農業や動物飼料生産による土壌へのダメージ:76セント(約119円)
・農薬使用による悪影響:63セント(約98円)

※上記コストには、農家の健康への影響や、肥料の使用による地下水汚染に対する10セント(約15円)も含まれる。

キャンペーン期間中の販売価格は?

気候変動コストが上乗せされたのは、主にチーズなどの乳製品と、ソーセージなどの加工肉で、以下のような価格で販売された。

・ウインナーソーセージ 3.19ユーロ(約498円)→6.01ユーロ(約939円、+約89%)
・モッツァレラチーズ 0.89ユーロ(約139円)→1.55ユーロ(約242円、+74%)
・フルーツヨーグルト 1.19ユーロ(約186円)→1.56ユーロ(約244円、+31%)

ペニーチェーンのステファン・ジョージCOOはドイツのメディアに対して以下のように語っている。

「食品に隠れた気候変動コストについての認識を高めたいと考えている。サプライチェーンにおける食品の価格は、環境上のコストがまったく反映されていないという事実を伝える必要があるだろう」

気候変動コストを、公平かつ適正に負担する社会へ

グライフスヴァルト大学の工業エンジニアでサステナビリティの専門家であるアメリ・ミヒャルケ博士は、今回価格を上乗せすることに選ばれた食品について、現段階で健康と環境への真のコストを提示することは不可能だと述べている。そのため、今回の実験では現実的な算出が可能だったものに絞って行われた。

今回のキャンペーンは、消費者にわかりやすく、公正な方法で食品の価格を考えてもらうきっかけとなるはずだ。最大約89%の値上げというのは、消費者にとって大きすぎるものと捉えられるかもしれない。しかし、それだけ気候変動への影響が大きいことを実感できる機会になることは間違いなさそうだ。

環境意識が高まりつつある昨今。一方で、環境への負荷を価格として上乗せすることに対して、消費者の許容度はまだまだ低いだろう。環境負荷に対するコストを、公平かつ適正な形で課す制度設計と、それらに対して消費者の理解を促すことが今後の課題だろう。

※掲載している情報は、2023年8月7日時点のものです。

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