ワインから食、人へ広がる「テロワール」の考え方とは

ブドウ農園の風景

Photo by Tim Mossholder on unsplash

ワイン用語として知られる「テロワール」。テロワールは、人々をサステナブルな生産活動に導く思考であり、ワイン産業だけでなくすべての食産業において取り入れられる概念だ。持続可能な社会を築くためのヒントでもあるテロワールの考え方や歴史、テロワールをテーマにした地方の取り組みを紹介する。

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2023.07.31
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テロワールとは

黄色い液体が入ったワイングラス

Photo by Big Dodzy on unsplash

テロワールとは、フランス語で「風土の、土地の個性の」という意味。

ヨーロッパ、とくにフランスでは、昔からテロワールによってワインの性質が大きく異なると考えられてきた。気象条件、土壌状態、地形や標高などの自然環境要因がブドウの品質や味わいに影響を与えるとされる。

事実、テロワールによって生まれるワインは、その土地ならではの味や香りを持ち、ほかの土地でつくられるワインとはあきらかに異なる個性を放つ。最近では、ワインのつくり手も、テロワールの一つの要素として捉えられている。

テロワールの歴史

茶色の木製フェンスの間の道

Photo by Werner Sevenster on unsplash

もともとは、ワインを知るためのキーワードであったテロワール。1930年代、ワインの品質保持や偽物の製造防止のため、フランスで制定された「ワイン法(原産地統制名称法=A.O.C.)」(※1)がある。地域ごとに異なるワインの特性を尊重し、生産者を守りながら高品質なワインの生産を実現するためのしくみだ。

こうした法律のベースには、テロワールの思想「Vin de Terroir」が強く根付いており、ヨーロッパのほとんどの国では、ワインの法律は土地をキーとして組み立てられ、たいていは産地名がワインの名前になっている。

いまでは、ワインだけでなく、テロワールは食品全般にも応用されている。食品を取り巻くテロワールとは、ワインと同じように生産地の気候や土壌、地形、水質などの自然環境要因が、食品の品質や味わいに影響を与えるという考え方だ。

地理的表示を活用したテロワール産品(伝統的な地域産品)、たとえばオリーブオイルやチーズを中心としたツーリズムで、地域振興を実現するフランスなどがある。

日本においても、2013年に世界農業遺産に登録された阿蘇地域では、特産品の赤牛と地域の景観、伝統行事などを組み合わせた地域おこしを推進した。(※2)

テロワールの意義

茶色い木箱に紫と白の花

Photo by Shelley Pauls on unsplash

土地の歴史や文化、人々の暮らしや知恵などを包括するテロワールの考え方を大切にすることで、地域特有の食文化や伝統を守り、地域のアイデンティティや魅力が高まる。消費者に新たな価値を提供し、また、生産者にとっても自分たちの生産活動に誇りや満足感が生まれる。

テロワールと似たアクションといえば、地産地消だ。地産地消のメリットは、地域で生産された食品を地域で消費することで、生産者と消費者の距離が縮まり、信頼関係やコミュニケーションが生まれること。食品ロスや輸送コストを削減し、環境負荷を低減することも可能となる。

社会的意義のあるテロワールや地産地消を、より一層推進していくためには、消費者が地域内の生産物に興味・関心を抱く必要があるだろう。

ただ食品を製造・販売するだけでなく、感動のストーリーや体験を与える。高付加価値の商品やサービスで消費者の満足度を上げるために、6次産業(農林水産業=1次産業+加工業=2次産業+流通・サービス業=3次産業)で、地域経済を活性化する取り組みが注目されている(※3)。

地産地消のメリットとは? SDGsや6次産業との関連性を知ろう

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テロワールとサステナビリティ

ピンクの花に茶色と黒の蜂

Photo by Sandy Millar on unsplash

テロワールは、その地域独自の自然環境に逆らわない方法で適した食物を育てることを意味する。自然環境に適した食物の栽培方法を守ることで、食品ロスや環境負荷を低減し、自然資源や生物多様性を保護することができる。また、地域の食文化や伝統を守ることで、地域の持続可能な発展に貢献することができる。

貧困や格差、気候変動などの世界的な課題に対処し、人間や自然が共生できる社会を実現するために必要な行動指針であるSDGs。テロワールは、SDGSの目標12「つくる責任つかう責任」(持続可能な消費・生産形態)、目標13「気候変動に具体的な対策を」(気候変動への対応)、目標15「陸の豊かさも守ろう」(陸域生態系保全)などに関連している。

テロワールの事例

オレンジ色の花のちょうちん

Photo by SUPERIDOL on unsplash

近年、地域に根付いた食文化を認知・体感できる取り組みが広がっている。ここで、いくつかの事例を紹介したい。

兵庫テロワール旅

「兵庫テロワール旅」(※4)は、兵庫県内の自治体や観光関係事業者、JRグループが一体となり開催する大型観光キャンペーンのひとつ。テロワール旅、テロワールな人、テロワールなグルメなど、兵庫ならではの食や文化を知り楽しむメニューが目白押しだ。

地域に根差した食や文化を味わい楽しむプランや、レトロな街並み、観光スポットなどを散策できるモデルコースなどが用意されている。ものづくり体験では、伝統工芸を受け継いできた人の想いや技術に触れることができる。

おいしい信州ふーど

世界が追い求めてきた近代の価値観が揺らいでいる昨今、信州の人びとが長い歴史の中で培ってきた暮らしとそこから生まれた食べものは、あらためて日本人の暮らしの原点を問い直すきっかけになる、という趣旨の「おいしい信州ふーどネット」(※5)。

長野県の豊かな風土に育まれた農畜水産物、主原料が信州産の加工食品、信州の暮らしに根差した郷土食などを「おいしい信州ふーど」と定義し、とくにこだわりの食材を「プレミアム」「オリジナル」「ヘリテイジ」として重点的にブランド化を推進。県内外にその魅力を発信している。

「プレミアム」は、信州産の食材にこだわり、厳選基準に基づいたもの。「オリジナル」は、長野県で開発された新品種。「ヘリテイジ」は、その土地ならではの郷土食や食文化を指す。

京都をつなぐ無形文化遺産

京都に伝わる無形文化遺産の価値を再発見、再認識し、内外に魅力を発信するとともに、大切に引き継いでいこうという気運を盛り上げるため、京都市が独自に創設した制度が「京都をつなぐ無形文化遺産」(※6)。

和食の原点である京料理をはじめとする「京の食文化」について議論を進め、2015年10月、京都をつなぐ無形文化遺産第1号として「京の食文化-大切にしたい心、受け継ぎたい知恵と味」を選定した。基本的には、京都において、世代を越えて暮らしの中で継承されている無形の文化遺産を対象とする。

有識者をまじえた審査会において、選定に相応しいかどうかを検討したのち、「京・花街の文化」、「京の地蔵盆-地域と世代をつなぐまちの伝統行事」、「京のきもの文化 – 伝統の継承と新たなきもの文化の創出」、「京の菓子文化-季節と暮らしをつなぐ、心の和(なごみ)」、「京の年中行事-季節・暮らし・まちを彩る生活文化」が加えられた。

テロワールを地域密着の視点でとらえなおす

光指す茶色の野原

Photo by Federico Respini on unsplash

ワインにとって、ブドウ樹をとりまく環境すべてがテロワールであり、その土地に根ざした味や香りが個性となる。日本でも酒やお茶の業界で、産地や食文化について情報発信する動きが高まっている。

それぞれの土地に、風土や文化という概念が加わり、やがて愛着や価値が生まれる。テロワールは、人から人へ届けられる。

テロワールを地域に密着した視点でとらえなおすことは、環境問題や生物多様性などグローバルな課題解決に等しい重要なアクションである。

※掲載している情報は、2023年7月31日時点のものです。

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