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世界的な環境問題解決に向けた手段として注目を浴びているグリーンテック。なぜグリーンテックが求められているのか、そもそもグリーンテックとは?企業の取り組みとともに解説する。
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グリーンテックは、持続可能な社会を実現するための資源や環境に配慮したテクノロジー、またはサービスのこと。環境にやさしい製品やサービスを提供することで、地球温暖化や大気汚染などの環境問題の解決を目指している。2015年に採択されたパリ協定に基づき、世界では2050年までに段階的に温室効果ガス排出量実質ゼロの実現を宣言しており、グリーンテックはその目標達成に向けた現実的な手段として注目を浴びている。その分野は、太陽光や風力などを用いた再生エネルギーや省エネルギー技術、IoT技術の開発・提供など多岐にわたる。
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グリーンテックが注目された背景として、2015年にパリ協定が採択されたことがあげられる。世界共通の長期的な目標として「気温の上昇を産業革命以前と比べて2℃より低く維持し、1.5℃に抑えるよう努めること、温室効果ガスの排出量と吸収量の均衡を達成すること」に合意。この目標を実現するために、世界の120以上の国と地域が取り組みを進めている。政府は2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにする「カーボンニュートラル」を目指すことを宣言。グリーンテックは、カーボンニュートラルを実現するために必要なプロセスといえるだろう。
近年では、再生可能エネルギーやリサイクル、環境にやさしい製品開発など、環境に配慮した技術やサービスを提供する企業が増えている。Research and Marketsのレポート(2021年)によると、サステナブル・グリーンテックの世界市場は、2020年時点で112億ドル(約1兆5000億円)だったが、2025年には366億ドル(約4兆9100億円)に拡大すると予想されている。
とくに再生可能エネルギー分野の成長が著しく、太陽光発電、風力発電などの技術の進化や政府のサポートによって市場が急拡大していることから、投資家や企業からの注目が高まっている。
近年では、CSR(企業の社会的責任)の観点から、企業において環境に配慮した取り組みが求められつつあり、グリーンテック市場の需要が高まっている。また、省エネルギー技術に関しても、エネルギー効率の向上によってコスト削減が実現できることから、企業や消費者からの需要が高まっている。
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グリーンテック領域におけるリサーチ・コンサルティング会社の大手Cleantech Groupは、2009年に世界における革新的なクリーン技術を持つ企業100社を選定したレポート「Global Cleantech 100」を公開。2022年に公開されたデータでは、北米企業が63社ともっとも多く、次いで欧州・イスラエルの30社、アジア太平洋の7社となっており、シリコンバレーをはじめとした北米のスタートアップ企業が中心となっている。一方で、日本企業は含まれていない。日本における気候変動関連のエコシステムは、投資資金を集めるのが困難であることと、情報不足といった課題が指摘されている。
とくにドイツやオランダといった北欧諸国は、クリーンテックの先進国ともいわれている。ドイツではインフラ関連の企業が1500社以上展開されており、なかでも仮想発電所を導入するなどして赤字に転じている公共交通機関運営をサポートしていることは有名だ。また、アジア太平洋諸国でクリーンテック市場を牽引しているといわれているのがシンガポールだ。2010年にはクリーンテックの開発に特化した「クリーンテック・パーク」と呼ばれるプロジェクトを始動し、シンガポール国内企業だけでなく海外企業からのシンガポールへの投資も進行している。
アメリカ市場では、2016年にビル・ゲイツ氏やジェフ・ベゾス氏などが参加して設立されたグリーンテックファンド「Breakthrough Energy Ventures」が注目されている。同団体では、10億ドル以上の資金をおよそ20年で環境に関連した分野で事業を展開するベンチャー企業に投資するとしている。これにより、アメリカ市場ではクリーンテックに関連したスタートアップ企業が多く参入し、開発の可能性を広げている。
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食品やホームケア製品、パーソナルケア製品などを製造・販売しているユニリーバは、サプライチェーンにおいてグリーンテックを活用。環境に配慮した製品やパッケージングの開発、廃棄物の削減、エネルギーの効率的な使用に取り組んでいる。例えば、パーソナルケア製品の一部に再生可能な原料を使用するなど、環境に配慮した製品の開発にも力を入れている。
パナソニックは、家電製品や自動車用バッテリーなどの製品において、エネルギー効率の高い製品を開発している。例えば、「エコキュート」などの省エネ家電の開発に取り組んでおり、エネルギー消費の削減に貢献。また、自社工場においてもエネルギー消費の削減や再生可能エネルギーの導入に取り組んでおり、光学ディスク工場では地下に地熱を利用したヒートポンプを設置し、冷暖房や温水供給に利用することで、CO2排出量を削減している。
商業用から家庭用まで幅広く太陽光発電システムを提供するTeslaは、電力貯蔵の可視化や蓄電池の資産価値を最大化する自律型入札プラットフォームのソフトウェア構築なども手がけている。また、電気自動車によるカーボンフットプリント削減の実現に注力しており、自社製品の電気自動車に加えて、太陽光発電システムの提供や、家庭用蓄電池「Powerwall」の開発・販売も行っている。2022年には、世界で130万台以上のEVを生産し、納車した。さらに、リサイクル技術の開発にも取り組んでおり、製品のリサイクル率を高めることで廃棄物の削減にも貢献している。
SONYは、再生可能エネルギーの分野において太陽光発電システムの開発や設置などに積極的に取り組んでいる。「温室効果ガス排出量のバリューチェーン全体でのネットゼロを2040年までに達成」、「自社オペレーションでの再生可能エネルギー由来電力100%を2030年までに達成」という目標を掲げている。欧州地域・北米地域・中国地域にあるET&S傘下の事業所では、それぞれで再エネ電力100%達成済み。
また、SONYの熊本テレビ工場では、太陽光発電システムを設置し、CO2排出削減を実現。さらに、製品のライフサイクルにおいても環境に配慮した製品の開発に力を入れている。例えば「BRAVIA」などのテレビ製品において、省エネルギー設計やリサイクル素材の活用などに取り組んでいる。
日立製作所は、太陽光発電や風力発電などの分野で事業を展開している。例えば、太陽光発電システムの開発や風力発電の設備供給などに取り組んでいる。また、自社工場においてもエネルギー消費の削減に取り組んでおり、茨城工場では省エネルギー設備の導入や工程の見直しにより、CO2排出量を削減。さらに、工場のエネルギー消費状況を管理するシステム「Eco-Pad」を開発し、省エネルギーの見える化を推進している。
シャープは、省エネルギー技術や再生可能エネルギー技術の開発に力を入れている。「エコキュート」などの省エネルギー家電の開発をはじめ、風力発電や太陽光発電システムなどの再生可能エネルギー事業にも参入。また、自社工場においてもエネルギー消費の削減に取り組んでおり、茨城製作所では省エネルギー設備の導入や製造プロセスの改善により、CO2排出量を削減している。
カリフォルニア州に本社を構えるPivot Bioは、農業生産の領域において環境保全活動を展開する勢いのある企業といわれている。アメリカ10州のトウモロコシ農家で、窒素を生産する微生物製品「Pivot Bio PROVEN」の実証実験を行った結果、2019年には市場での販売に踏み切り、販路拡大にも成功。この製品は、植物を栽培する際に土に入れることで根に微生物が付着して過度な窒素を供給できるため、合成窒素肥料を使用しなくても植物に窒素を供給し続けることを可能とし、農作物を収穫しながら環境の保全にも役立つとして注目されている。
マサチューセッツ州に本社を構える企業enVerid Systemsは、換気テクノロジーの分野において大気汚染の解決策を生み出すビジネスが注目されている。従来の換気システムであれば1〜2時間おきに外気を取り込むが、「HLRテクノロジー」と呼ばれるシステムでは外気の取り込み頻度を60〜80%減少させることに成功。省エネだけでなく、大気汚染の抑制にも貢献する点が注目されている。
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グリーンテックは企業だけでなく、個人の私たちでも取り組むことができる。例えば電力を再生可能エネルギーを電源としたプランに切り替えてCO2の排出量を抑えることや、太陽光や水力などの再生可能エネルギーを共同購入することなど。
これらの行動は環境にとっていい影響をもたらすだけでなく、電力の節約にもつながるなど、私たち個人の生活にとってもよりよい影響を与えてくれる。企業としても個人としても、私たちにできることから始めていくことが大切だ。こうした取り組みや選択肢の認知がさらに広がっていくことを期待したい。
※参考
・Worldwide Green Technology & Sustainability Industry to 2025 - Reduction in Recycling due to COVID-19
・カーボンニュートラルに挑むスタートアップのいま(世界)
・ユニリーバ|気候変動へのアクション
・Panasonic|もっと知ってね!エコキュート・Panasonic|環境:工場のCO2削減
・Tesla|インパクト 環境への影響
・SHARP|サステナビリティ 気候変動
・ソニー(株)のRoad to Zero|100%再生可能エネルギー由来電力稼働を目指して
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