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市場の成熟化やサービスの差別化の難しさなどから、企業が自前で革新的な商品を生み成功するのは、容易でない。そこで重要視されるのが「オープンイノベーション」だ。激変するグローバル社会で多様化するニーズや、社会課題にも適するといわれる「オープンイノベーション」の概要、事例を紹介する。
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エレミニスト編集部
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「オープンイノベーション」とは、アメリカの経営学者ヘンリー・チェスブロウが提唱した概念で、従来のクローズドイノベーションが限界に達したことから近年注目を集めるキーワードだ。
チェスブロウは著書「Open Innovation -The New Imperative for Creating and Profiting from Technology」の中で、「オープンイノベーションとは、組織内部のイノベーションを促進するために、意図的かつ積極的に内部と外部の技術やアイデアなどの資源の流出入を活用し、その結果組織内で創出したイノベーションを組織外に展開する市場機会を増やすことである。」と定義している。(※1)
オープンイノベーションとは、企業が自社のリソースのみならず、他社や研究機関などの外部組織や専門家などから技術やアイデアを募り、異分野の知見を積極的に取り入れることによって革新を創出すること。オープンイノベーションの創出方法は、大きく分けると3つの方法がある。(※2)
「インバウンド型」と呼ばれる、業務提携や協業などを通じて外部パートナーから人材や技術などを補い社外のリソースを社内に取り入れることでイノベーションを促進するスタンダードな方法。
自社の特許権やノウハウなどを他企業に売却したり、使用を許可したりするライセンスアウトのような、自社の知見を他の分野に提供する「アウトバウンド型」。
プログラマーや設計者などのソフトウェアの開発者たちが短期間で開発を進める「ハッカソン」に代表される、インバウンド型とアウトバウンド型の両方の要素を取り入れたイノベーション創出方法「連携型」だ。
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「クローズドイノベーション」とは、企業内部でのみ行われるイノベーションのことを指す。限られたリソースの中だけで新規事業創出を行う場合、アイデアの閉鎖性により発想や技術が生まれにくい。また、同じ課題に対して複数の部署が別々に取り組めば、無駄なコストがかかるかもしれない。市場や顧客ニーズの変化にスピードが追いつかないことも問題視される。
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オープンイノベーションが求められる背景には、さまざまな要因がある。90年代以降、急速なグローバル化、商品やサービスに期待する価値の多様化など、あらゆるプロダクト・ライフサイクル(市場への導入から衰退まで)が短期化し、市場の成熟や商品の経済価値の同質化が起こっている。
企業間競争が激化する中、スピード感をもってイノベーションを創出するには、自前主義を脱却し、優秀な人材や技術を内外から取り込みながら付加価値を創出することが重要なのだ。
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オープンイノベーションにもメリットだけでなくデメリットはある。常に社会の急速な変化に対応し、結果を求められる企業にとっては、メリットだけでなくリスクを事前に把握し、デメリット対策につなげたい。
自社だけでは思いつかなかったアイデアが生まれ、新しいビジネスチャンスを生み出すことができるオープンイノベーション。獲得した技術やノウハウは、社内に蓄積され、自社内の組織や人材育成の新たな基盤にもなる。
パートナー企業との協業によって、新たな切り口で自社のブランド価値を向上させたり、事業展開のスピードを加速できる。
自社内で新規事業を立ち上げる際、技術を一から研究開発していく費用が必要だろう。協業であれば、もともと保有している自社の技術力や製品力を活かしながら、足りない部分をカバーでき、コスト削減することができる。
アイデア・技術流出の問題は、クローズドイノベーションと比較される際に、必ず追及されるポイントでもあり、オープンイノベーションにとって切り離せない課題である。協業パートナーと守秘義務契約を締結するのはもちろんのこと、外部と共有する領域を明確にし、システム上のセキュリティ対策も万全に整えておくことが求められる。
オープンイノベーションによりコストは削減できるかもしれないが、収益の分配による利益率の低下を招く恐れがある。また、オープンイノベーションで外部に頼りきってしまうことで、自社の開発力低下も懸念される。
ほかにも、知的財産権の問題、企業文化の違いにより起こりうる課題やパートナー企業の倒産、経営状況の悪化によるリスクが考えられる。
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オープンイノベーションで解決するのは、製品や事業開発における課題だけにとどまらない。たとえば、都市への人口集中や地方の過疎化といった日本全体の問題から、道路渋滞や伝統産業の後継者不足といった地域の社会課題にいたるまで、多岐にわたる。
オープンイノベーションが社会課題解決に適している理由として、以下のような特徴が挙げられる。
① 多様なステークホルダーが参加することで、より多角的な視点から問題解決に取り組むことができる。
② 外部のアイデアや技術を取り入れることができるため、新たな解決策を見つけることができる。
③ 問題解決に必要なリソースを共有することができるため、コスト削減や効率化につながる。
オープンイノベーションによって、企業は社会課題解決に向けた新しいビジネスモデルを構築することも可能だ。オープンイノベーションを成功させるためには、目的・ビジョンを明確にして社内の風土づくりをすることや、オープンイノベーション専門組織を設置することなどが推奨される。
また、経産省によるオープンイノベーション促進税制(国内の対象法人が、オープンイノベーションを目的としてスタートアップ企業の株式を取得する場合、取得価額の25%を課税所得から控除できる制度)を活用することなどがポイントとなるだろう。(※3)
日本の経済再生の成長戦略である「日本再興戦略」(※4)において、オープンイノベーションこそが国の成長のカギを握っていると述べられており、政府もこの取り組みを積極的に推進している。またSDGsの観点においても、持続可能な産業革命を促進するための重要な手段の一つとして位置づけている。
SDGs目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」とは、だれもが安心して快適に暮らせる社会をつくるために、暮らしを支える強靭(レジリエント)なインフラを構築するとともに、技術革新で新たな価値をつくり、持続可能な産業を構築することを掲げた目標だ。
現状としてインフラの未整備や老朽化 、科学技術の偏りなど、現代もさまざまな課題が未達成のまま残されている。産業の持続的発展のためには、常に技術革新を拡大していくことが求められるが、官民の隔てなく課題解決に向けたアプローチをしていくオープンイノベーションが解決策として期待されている。
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近年は日本国内でもオープンイノベーションが推進されており、さまざまな成功事例があるので紹介する。
花王株式会社とライオン株式会社は、使用済みの容器を再び同じ種類の容器に戻す水平リサイクルにより、再生材料を一部に使用したつめかえパックを、初めて製品化。花王は衣料用濃縮液体洗剤「アタック ZERO つめかえ用(1,620g)」、ライオンは洗濯用液体高濃度洗剤「トップ スーパーNANOX ニオイ専用 つめかえ用超特大」を、一部店舗にて数量限定発売した。
日本コカ・コーラ株式会社とサントリー食品インターナショナル株式会社が協業し、「ボトル to ボトル」水平リサイクルの認知拡大に向けた広告を制作。この広告は、各地で発信された。
また、一般社団法人全国清涼飲料連合会(全清飲)とともにG7広島サミットに向けて開設された国際メディアセンター(IMC)内においても、日本国内における「ボトル to ボトル」水平リサイクルの取り組みを紹介するブースを出展。
日本国内におけるペットボトルの回収率は94%、リサイクル率は86%(ともに2021年度、PETボトルリサイクル推進協議会調べ)と、米国・欧州と比較しても極めて高い水準であることが知られている。
一方で回収されたペットボトルが再び新しいペットボトルにリサイクルされる「ボトル to ボトル」比率は20.3%(同上)にとどまる。
なお清涼飲料業界の業界団体である一般社団法人全国清涼飲料連合会(全清飲)は2021年に、業界として「ボトル to ボトル」比率50%を2030年までに目指すことを宣言している。
日本ロレアル株式会社と東京ガス不動産株式会社が提携し、日本ロレアルが廃棄予定の化粧品を建物建材にアップサイクルして、東京ガス不動産が開発する建物に活用することに合意。
提携第一弾として、日本ロレアルが廃棄予定の自社化粧品「パウダーファンデーション 822個」を材料に、東京ガス不動産がタイル建材を製作し、自社で開発を手がける2023年11月竣工予定の「(仮称)国分寺学生寮」および2024年1月竣工予定の「(仮称)武蔵野学生寮」の建材の一部に採用する。
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時代の流れとともに、スピーディなイノベーション創出が求められている。
企業において「オープンイノベーション」は、自社の技術や人材をより有効的に活かすことができ、新たな事業展開が可能になる。成功させるための課題は多いものの、それを上回るような可能性を秘めており、日本国内でも今後ますます注目が高まるだろう。
※1 オープンイノベーション・ベンチャー創造協議会(JOIC)|オープンイノベーション白書 第二版/1.2 オープンイノベーションの重要性
※2 オープンイノベーション・ベンチャー創造協議会(JOIC)|オープンイノベーション白書 第二版/1.3.2 オープンイノベーション創出方法の多様化
※3 経済産業省|オープンイノベーション促進税制
※4 オープンイノベーション創造協議会(JOIC)|オープンイノベーション白書 第二版/1.4.2 政府の施策
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