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「愛知目標」とは何かご存知だろうか。私たちの暮らしを支える生物多様性に関する目標であり、持続可能な社会を目指すために重要な存在だ。本記事では、愛知目標の意味、世界と日本の達成状況をわかりやすく解説。さらに後継となる昆明・モントリオール生物多様性枠組が採択された経緯なども紹介する。
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「愛知目標」とは、生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)で採択された世界目標。この会議が2010年10月に愛知県名古屋市で開かれたことに由来し、別名「愛知ターゲット」とも呼ばれている。生物多様性の損失を食い止めるために、各国が優先して取り組むべき20の個別目標をまとめたものだ。
私たちの暮らしは、生き物たちが豊かな個性を持ってつながり合う「生物多様性」の恩恵をたくさん受けて、それに支えられている。酸素が供給され、土壌が豊かに育ち、雲や雨で水が循環することも、生態系から生み出される恵みである。
しかし生物多様性は、地球温暖化や、野生生物の生息地の減少などによって、徐々に損失しつつあるのだ。生物多様性がさらに損失すると、絶滅に追い込まれる生き物の数はさらに増え、それによって生態系のバランスが崩れ、私たちの暮らしにも大きな影響を及ぼすと考えられる。
愛知目標は、過去の「2010年目標」を達成できなかったことが理由で採択された。
「2010年目標」とは、2002年にオランダ・ハーグで開かれた生物多様性条約第6回締約国会議(COP6)で決定した目標だ。「2010年までに生物多様性の損失速度を2010年までに顕著に減少させる」ことを掲げ、世界規模で取り組むべき個別目標が掲げられた。(※1)
しかし、2010年5月を迎えて生物多様性条約事務局が公表した報告書によると、個別目標のすべてで達成できていないことがわかった。一部の項目は一定のポジティブな変化が見られたものの、世界規模で満足に達成できたとは言い難い結果となったのだ。
そこで、「ポスト2010年目標」として新たに採択されたのが「愛知目標」である。2010年目標の反省点を活かし、生態系や自然を将来末長く守るための新戦略計画として策定された。
愛知目標では、「長期目標」と「短期目標」、短期目標を達成するための「20の個別目標」が掲げられている。(※2)
2050年までに地球規模で達成を目指す最終的なゴールのこと。主に以下の内容が明記されている。
・自然と共生する世界の実現
・生態系の評価・保全・回復による生態系サービスの保持や健全な地球の維持
2020年までに達成すべき目標で、最終的なゴールを叶えるべく設定されている。「生物多様性の損失を止めるために効果的かつ緊急な行動を実施する」ことを掲げている。
20の個別目標は、短期目標を達成するために掲げられたもの。世界各国が優先的に取り組むべき行動指針である。
・人々が生物多様性の価値と行動を認識する
・汚染が有害ではない水準まで抑えられる
・陸域の17%、海域の10%が保護地域等により保全される
など、20の項目が掲げられている。
生物多様性を守るためには、まず一人ひとりが20の個別目標に取り組む必要がある。個別目標を達成することが短期目標の達成へ、そして最終ゴールである長期目標の達成につながるのだ。
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愛知目標で掲げられた2020年までの短期目標について、残念ながら完全に達成することはできなかった。
2020年9月に発表された生物多様性条約事務局の「地球規模生物多様性概況第5版(GBO5)」にて、愛知目標の国際規模での達成状況と最終評価をまとめている。(※3)
その内容によると、ほとんどの愛知目標でかなりの進歩があったが、完全に達成できた個別目標はない。20の個別目標のうち6の目標については、部分的に達成できたとされるが、残りの14の目標は未達成に終わっている。
日本での愛知目標(短期目標)の達成状況については、環境省が2021年2月に発表した「生物多様性国家戦略2012-2020の実施状況の点検結果」にまとめられている。(※3)
同結果では、 13あった国別目標のうち5つを「目標を達成した」と評価した。主に、「侵略的外来種の制御・根絶」や「陸地の17%・海域の10%が保護地域などによって保全される」などが達成できた目標として挙げられる。
一方で、残りの8つは「さまざまな取り組みを行なったが、達成はできなかった」と評価。達成できなかったものには、「生物多様性の価値や保全とそのための行動を認識する」「自然生息地の損失を少なくとも半減、可能な場合はゼロにし、劣化や分断を大幅に減少する」などがある。
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愛知目標を達成できなかった主な理由には、下記の2つのことが考えられている。(※4)
1つ目は、愛知目標とこれを達成するために掲げた各国の目標の内容に、整合性がとれていなかったことだ。愛知目標と国別目標の整合性は23%というデータもある。愛知目標を達成するためには、最終的な目標や現在の地球環境問題への理解を一層進める必要があるといえる。
2つ目は、愛知目標と各国の目標レベルの不一致だ。掲げた国別目標だけでは、愛知目標の達成に向けた行動を実際に起こすことが難しいと考えられている。愛知目標の達成により直結するような、具体的な行動の掲示が求められる。
国連の生物多様性条約事務局は2020年1月6日、愛知目標に代わって確立される2021年以降の新しい目標「ポスト愛知目標(ポスト2020生物多様性枠組)」の草案を発表した。
ポスト愛知目標は、21の目標で構成。内容には、「劣化した生態系の20%を再生・復元すること」や「陸・海の重要地域を中心に30%保護すること」、「持続可能な生産やサプライチェーンによって、経済活動の影響を削減すること」などが掲げられている。
なお、ポスト愛知目標は「IPBES報告書(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム)」の成果を踏まえ、指摘部分に対応した目標が設定されている。
さらに、目標年が同じ2030年である「SDGs」と整合性のある目標を策定したことも大きな変化といえるだろう。
このポスト愛知目標は、2022年12月に中国・昆明で開かれた生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で採択され、開催地にちなんで「昆明・モントリオール生物多様性枠組」と呼ばれている。
「愛知目標」は、生物多様性の損失を食い止めるために採択された、国際規模で取り組む行動目標だ。私たちの生活は、生態系の営みによってさまざまな恩恵を受けている。危機を迎えている生態系の問題は、私たちが生きていくうえで目を背けられない課題なのだ。
また、新たに採択された「ポスト愛知目標(昆明・モントリオール生物多様性枠組)」には、生態系の保護に向けた項目のほか、SDGsやサステナビリティの観点を踏まえた内容も追加された。愛知目標についての理解を深め、自分にできる範囲からアクションを起こすことは、結果として持続可能な社会を叶える取り組みにつながるだろう。
※1 環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書 第5章|環境省
※2 平成24年版 図で見る環境・循環型社会・生物多様性白書 第4章| 環境省
※3 令和3年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 第2章|環境省
※4 愛知目標の達成状況とその後の取組に向けて|環境省自然環境局自然環境計画課
※5 ポスト2020生物多様性枠組について|環境省
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