ファッションEC「ZOZOTOWN」を運営するZOZOは、企業理念「世界中をカッコよく、世界中に笑顔を。」のもと、2021年4月にサステナビリティステートメント「ファッションでつなぐ、サステナブルな未来へ。」を策定し、ファッションとテクノロジーが持つ革新的な力で地球課題を解決すると発表した。「サステナブルなファッションを選択できる顧客体験の提供」「廃棄ゼロを目指す受注生産プラットフォームの構築」「ファッションに関わるすべての人のダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン推進」「持続可能な地域づくりへの貢献」に取り組み始めている。クリスティン・エドマン執行役員に話を聞いた。
ELEMINIST Editor
エレミニスト編集部
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クリスティン・エドマン執行役員/2005年H&M入社。要職を経て08年から約8年間H&Mジャパン代表取締役社長を務める。ジバンシィ ジャパンのプレジデント&CEOを経て21年12月から現職。ZOZOTOWNや、ZOZOTOWN内でラグジュアリー&デザイナーズブランドを取り扱う「ZOZOVILLA」とSDGs委員会副委員長としてサステナビリティに重点的に取り組む。
——グローバルSPAやラグジュアリーブランドでの経営を経験し、ZOZOに入社されました。ZOZOの強みはどこだと感じますか?
「3つあります。1つ目は若年層のユーザーがとても多いこと。サステナビリティに関する意識改革や行動変容を促すには、若い方へのアプローチが大切だと考えています。2つ目は、プラットフォーマーとしてのZOZOの立場がユニークであること。ブランド側とお客さま両方に対して影響力があり、両者をつなぐことができる点が強みだと感じています。そして、3つ目はテクノロジー。サステナビリティを進化させるためにはテクノロジーが鍵になります。デジタル化することで新しいビジネスの方法や生産方法が生まれると思います」
——「ZOZOSUIT」や「ZOZOMAT」、「ZOZOGLASS」など一般ユーザーから見てもテクノロジーを活用したユニークなアプローチが目立ちます。
「実は、こうした計測ツールがサステナビリティにつながると入社してから気づきました。例えばZOZOMATは、足の3D計測を通じて相性度の高いシューズを提案するものですが、計測の技術を通して、ZOZOMATの利用者と非利用者を比較した場合、利用者は返品率が36.9%少ないという結果が出ており(2020年10月時点)、返品時の配送によるCO2排出量が削減できています。ECの利点は簡単に購入できることですが、課題は購入前に試着できないこと。ですから、たくさん購入して返品するユーザーも少なくありません。適切なサイズを購入して満足してもらうことがCO2削減の解決策の一つにつながっているのではないでしょうか」
——サステナブルな未来のためにZOZOが担う役割とは?
「当社の強みである「ファッション」と「テクノロジー」の力と、プラットフォーマーという立場を生かして、ブランドさまやお客さまといったさまざまなステークホルダーをつなぎ、ファッションをカッコよく楽しむことができる新しいファッションの世界を創ることです」
——そのために具体的な施策を次々と打っています。「サステナブルなファッションを選択する」ことを促すために22年11月にZOZOTOWN内の常設コンテンツ「elove by zozo(エラブ バイ ゾゾ)」を開設しました。
「まず“気付き”が大切だと考えました。環境や社会問題を堅苦しくなく、わかりやすく伝えることで、ファッション製品を選ぶときに、デザイン性だけでなく地球環境や社会問題を考えることも選択肢の一つにあることを伝えたいと思いました。年間購入者数が1,100万とトラフィックの多いサイトZOZOTOWNのトップ画面からelove by ZOZOにアクセスできるようにしています」
——12年に立ち上げた「ZOZOUSED」では、古着も購入できます。
「“サーキュラー(循環する)ファッション”実現に向けて、リユースアイテムの選択機会を増やし、服の寿命を長くすることに貢献したいと考えています。そのためにZOZOUSEDではさまざまな工夫に取り組んでいます。19年にAIを活用した販売価格予測モデルを、21年には季節性が高い商品の出品時期や数量を最適化する「ウェザーMD」を導入したことで、大変多くの方に利用いただいています。ZOZOTOWNでのお買い物の際、過去に購入したアイテムを下取りし、下取り金額分をその場で値引きする「買い替え割」では、これまでに累計2,000万点以上を循環させ、21年(22年3月期)のZOZOUSEDの商品取扱高は134億4,000万円になりました。
いまはまだ当社の取扱高全体の一部ですが、比率を上げていきたいです。また22年6月には、ファッションコーディネートアプリ「WEAR」に、ソーシャルコマース機能を導入しました。WEARに投稿したコーディネートの着用アイテムをユーザー同士で手軽に出品・購入できるようになりました。これは、二次流通の機会創出につながる重要な取り組みの一つで、単なるファッションの売買だけではなく、人から人へと大切な一着をつなぐファッションサイクルを促進したいと考えました」
——「廃棄ゼロを目指す受注生産プラットフォームの構築」実現に向けては、22年9月「Made by ZOZO」を立ち上げました。プライベートブランドやD2C事業等で培った知見を活用することで、消費者が商品を注文してから最短10日で発送する仕組みを構築、しかも1着から生産可能だとか。
「ええ。このプラットフォームの特徴はファッションブランドが抱える在庫リスクがゼロという点です。これまでは、何千枚、何万枚つくり、売ってみて初めて売れるかどうかがわかるようなビジネスモデルが一般的でした。当社の受注生産プラットフォームMade by ZOZOでは、ZOZOTOWNの関連データなどから、取り組むブランドらしさを加えた商品企画を当社がご提案します。企画から生産までを一気通貫でMade by ZOZOが担い、徹底的にデジタル化することで、複数の異なるデザインの商品を同時に生産することが可能になりました」
——テクノロジーを活かしてアパレル産業最大の課題である大量生産・大量廃棄を回避しようという試みですね。
「販売するだけではなく、もう少し上流の生産まで踏み込みたいと考えました。その第一歩です。当社で生産できる数には限りがあるので、ファッションサイクルによりよい影響を及ぼすためにも、ゆくゆくはこのテクノロジーをブランドに提供したいと考えています」
——ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン推進では、女性活躍に焦点を当てています。
「2030年までに取締役と上級管理職の30%以上を女性にするという目標を設定し、社内の育成プログラムを準備しています。もちろん女性活躍だけではなく、LGBTQIA+や若年層に関する勉強会やワークショップにも力を入れています。昨年6月には、プライド月間(日本やアメリカなど世界各地でLGBTQIA+の権利を啓発する活動・イベントが実施される)に合わせて、コーポレートロゴやサービスロゴをレインボーカラーに替えたり、社内啓発イベントを行ったりしました。今後も社内外に向けた取り組みを行い、少しずつ社会を巻き込みながら広げていきたいと考えています。
地域貢献では本社がある千葉市や千葉大学をはじめ、さまざまな自治体や教育機関、企業等と連携しながら、地域活性の取り組みを行ってきました。ZOZOマリンスタジアムのスタッフが着用するユニフォームをプロデュースしたり、千葉市内の中学校の男子バレーボール部のユニフォームをデザインしたりするなど、ZOZOの強みを活かした活動をしています。また、30年までに20歳未満の次世代100万人との接点をつくり、地域の活性化に貢献することを目標に、今後活動の場を日本全国に広げていきます」
Photo by ZOZO
20年から始めた小中学校、高校・大学でのキャリア教育の出前授業の様子。創造・想像力を伸ばすことをねらいに、ZOZOのカルチャーである「楽しく働く」や一人ひとりが持つ「個性」を生かす働き方などを伝えている。
——企業が持続可能であるためには、スタッフ一人ひとりが活躍できる環境づくりが欠かせません。スタッフの能力を最大化するために行っていることはありますか?
「社内でトレーニングやワークショップを行うことはもちろん、親会社のZホールディングスグループ(傘下にヤフーやLINE、PayPay、アスクルなどを置く)の企業内大学「Zアカデミア」では、最先端の情報を得る機会があります。こうした社員が学ぶ場を増やし、行動に移せる機会を増やすことも大切だと考えています」
——ZOZOでは現場スタッフのアイデアが生かされ、形になることが多いと聞いたことがあります。
「現場のスタッフのアイデア提案がきっかけとなり、実現することも多いですね。経営層のサステナビリティへの意識も高まってきていることから、いい影響が生まれています。社長が全社朝礼でサステナビリティに関する話をしたり、社内プロジェクトの事例を讃えたりすることで、売り上げだけを求められているのではない点、そしてゆくゆくはビジネスにつながるという点が伝わり、社内の雰囲気が変わってきていると感じます」
——経営層と若手がカジュアルにコミュニケーションを図ることもあるそうですね。エドマンさんはZ世代同士のつながりを活性化するコミュニティ「THE YOUTH CLUB」に参加されていると聞きました。
「消費者がわれわれに求めていることが変わってきているので変化をキャッチし、スピーディーに対応したいと考えています。そうした意味ではTHE YOUTH CLUBで若手社員とじっくり話すことによる気づきは多いですね。また、アンケートを通じてお客さまの声を聞くことも大切にしています」
——今年2月に東京・表参道にオープンしたZOZO初のリアル店舗「niaulab by ZOZO(似合うラボ)」は“似合う”を研究するというユニークなアプローチです。
「ZOZO独自のAIとプロのスタイリストとでお客さまの “似合う”を一緒に見つける超パーソナルスタイリングサービスです。よりパーソナルなリコメンデーションで、趣味嗜好や“似合う”を提案します。データを収集しながら “似合う”というロジックを定義できれば、究極のパーソナライゼーションが可能になりますし、過剰に購入したり、すぐに捨ててしまったりすることが減ります。ひいては、大量生産・大量消費・大量廃棄からの脱却につながるのではないかと考えます。気づいたらサステナブルだった、が理想です。サステナブルファッションをZOZOの技術を使って魅力的でカッコよくしていきたいですね」
生活者がまずできるアクションとして、服の長寿命化がある。リペアをしながら自身が長く着用することや、必要がなくなった服には他の誰かが着用する機会を与えることが大切だ。ZOZOはその機会をリセールとソーシャルコマースという形で提供する。また、ファッションブランドからは日々さまざまなサステナビリティへのアプローチが発表されているが、その多くは素材や生産工程でのアプローチ。素材や生産工程を見直すことはもちろん大切だが、それ以上にインパクトがあるのは、生産量と販売量を最適化して、みんながほしいと思うものを届けて、廃棄される服をなくすこと。言うは易し。多くのブランドが苦戦していることでもある。ZOZOの技術はその一助になる可能性があるだろう。
elove by zozo
撮影/柳詰有香 インタビュー・執筆/廣田悠子 編集/後藤未央(ELEMINIST編集部)
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