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インフォーマルセクターは不安定な就労状況をまねく要因だ。世界では多くの人がインフォーマルセクターに従事しているが、複数の問題点が懸念されている。本記事では、インフォーマルセクターの概要や問題点などについて詳しく解説する。
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インフォーマルセクター(informal sector)とは非公式な経済活動を示す。日本語の直訳は「非公式部門」である。
インフォーマルセクターはおもに法人手続きを取っていない企業の経済活動を指す。雇用・生産をおこなっているものの、公式に記録されないセクターにあたる。
インフォーマルセクターという概念が生まれたのは1971年だ。言葉そのものはそれ以前にイギリスの経済学者キース・ハート氏が提唱している。広く意識されるようになったのは同年におこなわれたアフリカの雇用事情調査がきっかけだった。
ILO(国際労働機関)がおこなった同調査で、アフリカにおける労働環境に公的機関の認知や保護、必要な法規制を受けていない貧しい労働者の活動が明らかになった。このときにハート氏が提唱した「インフォーマルセクター」が初めてもちいられたのである。
インフォーマルセクターは公式記録に残らないため行政の指導や法の保護がおよばない。セクターで働く人々は課税対象から外れ、社会保障制度や労働基準法も無関係になる。目前の収入は確保できるが、リスクをはらんだ環境で働くことになるのだ。
先進国と途上国ではインフォーマルセクターの概念に違いがある。先進国のインフォーマルセクターの職業では、プラットフォームサービスを通じて単発仕事を請け負うギグワーカーや建設現場の日雇い労働者、家事労働者が代表的だ。いっぽう、途上国は靴磨き、行商、廃品回収などが代表的である。
むろん彼らが公的な手続きを取り、法の保護がおよぶ範囲で労働をおこなっていればインフォーマルセクターの概念から除外される。
なお、「インフォーマル(非公式)」という語感から、インフォーマルセクターは法に触れる職業を扱うセクターだと思われるかもしれない。しかしそれは事実ではなく、「経済活動に必要な法手続きをしていないが、業務内容や提供サービスは合法」ということである。
ILOによると、世界の労働人口の60%以上がインフォーマルセクターとのことだ。約20億人もの人がインフォーマルセクターに従事し、かつパートタイム就労であるという。インフォーマルセクターは決して他人事ではなく、すぐそばにある現象だと考えるべきではないだろうか。
世界的に大規模な様相を呈するインフォーマルセクターだが、国家間で規模が違うことにも注目したい。GDPに占めるインフォーマルセクターの割合が大きく異なる。先進国ではGDPの15%、低所得・中所得国では35%である。
ILOはサハラ以南のアフリカでGDPのうち平均41%がインフォーマルセクターだと推計した(※1)。途上国において無視できない状況であることは間違いない。
また、この数値はあくまで平均であり、局地的にはそれよりも高い割合が見られる。農業職以外に従事している人のうち、インフォーマルセクターの割合はタンザニアで76.2%、マリでは81.8%にもおよんでいる(※2)。
インフォーマルセクターに従事する途上国の人々には特徴がある。上記に該当するほとんどの国で女性比率が高いのだ。ほかにも少数民族、高齢者など社会的に弱い立場の人々が従事する傾向が見られる。
彼らは法に守られず、ときとして劣悪な労働条件や環境で働かなければならない。みずからインフォーマルセクターでの労働を選択したわけではなく、収入のために選択せざるを得ない人々も多い。人権や労働者の権利をかんがみ、早急な是正が求められるだろう。
インフォーマルセクターにおける雇用はインフォーマル雇用、日本語でいえば非公式雇用である。非公式という語感が非正規雇用との混同をまねきがちだが、非正規雇用とインフォーマル雇用は大きく異なっている。
非正規雇用は契約社員、派遣社員、アルバイト、パートが代表的な雇用形態だ。いわば正社員以外の働きかたである。一定期間、定められた日数での雇用契約を結ぶ。雇用先が法にのっとった内容で雇用契約を成立させているためインフォーマル雇用とは異なる。労働基準法をはじめとした法律に守られる存在である。
いっぽう、インフォーマル雇用は労働基準法や社会保障制度に守られない働きかただ。雇用先が法人・非法人に関係なく、雇用関係にあっても適切な法に守られない。雇用期間も無関係である。労働者の権利に配慮されず、労働環境も適正とはいいがたい。
つまり非正規雇用は「雇用期間が区切られているが必要な法に守られる」働きかた、インフォーマル雇用は「雇用期間は関係なく必要な法に守られない」働きかたといえる。
インフォーマル経済はインフォーマルセクターと表現されることもあるが、もともとは異なる意味である。
近年、インフォーマルな経済活動は限定的なセクターでは収まりきらないほど幅広く分類されるようになった。いわば職種の多様化が見られることがわかったのである。そのためセクターを限定するのは不適正ではないかという指摘が生まれるようになった。
その流れを受け、現在は法によって保護・規制されない経済活動をまとめて「インフォーマル経済」と称することが多い。
インフォーマルセクターには少なからぬ問題点がある。代表的な3つの問題を見てみよう。
インフォーマルセクターで働く人々は雇用形態や収入が不安定だ。法に守られず、適切な労働環境や賃金を得られなくても是正が非常に難しい。このような状況は貧困を生み出すばかりか、もともと貧困層にある人々が貧困から抜け出せない負のスパイラルを形成してしまう。
しかしインフォーマルセクターで得られる収入が彼らのセーフティネットであることも間違いのない事実だ。唯一の収入源であることも少なくない。彼らが適切な法の保護や労働者の権利を得た上で働けるよう、政策やシステム整備、啓発が必要である。
インフォーマルセクターは公式に記録されないため、課税に必要な手続きもおこなわれない。各国の政府は納税額が減り、国政に必要な資金を十分確保できない可能性が生まれる。
インフォーマルセクターに従事する人々は教育水準が低い傾向がある。教育水準は適切な就労や労働環境整備に不可欠である。しかし政府の資金が不十分であれば、そのような人々に教育のアクセスを用意することも難しくなるだろう。
先にも少し触れたが、インフォーマルセクターで働く人々は女性の割合が多い。じつに58%もの女性が該当する。
サハラ以南のアフリカにおいては農業職以外のインフォーマルセクターで女性が83%を占めている。ジェンダー不平等のあらわれといえるだろう。この地域は世界的に見たインフォーマルセクターのなかでも雇用が不安定、かつ賃金が最低クラスである可能性が高い。是正が必要であることは間違いない事実だろう。
また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行以来、女性のインフォーマルワーカーは大きな打撃を受けた。失業を余儀なくされ、貧困が加速した傾向がある。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行による悪影響はそれだけではない。サハラ以南のアフリカでは女性が所有する企業が41%も閉鎖の憂き目に直面している。男性が所有する企業は34%が閉鎖したが、比較すればここでもジェンダー不平等が見えるのではないだろうか。
インフォーマルセクターの問題が詳らかになるにつれ、是正と解決に向けた動きが進められている。解決をめざす事例の一部を紹介する。
インドではインフォーマルセクターやインフォーマル雇用に従事し、法の保護から外れる労働者に対して公的扶助の充実をはかっている。任意加入の年金制度、農村における公的雇用、食糧配給、医療費補助の推進をはじめ、950ものスキームを実施した。
2017年にはスキームの一本化に乗り出し、最低限の生活を送るための資金給付「ユニバーサル・ベーシック・インカム」の導入も検討されている。
資金やスキルの援助を受け、インフォーマルセクターとして経営していた企業の法手続きをこなし、フォーマル化した事例もある。
ネパールの手工芸事業を手がけていたインフォーマルな零細企業は、日本政府の資金援助やILOのプロジェクト支援を受けフォーマル化を実現した。
そのあとは事業が拡大し、業績向上が成功した。フォーマル化によって顧客の信用が上がり、インフォーマルの頃より好影響がもたらされたためだ。
フォーマル化の申請には費用が必要であり、手続きも複雑で時間がかかる。日本政府の資金援助とILOのプロジェクト支援はその点を克服させる重要な役割を果たした。
この事例からはインフォーマルセクターで働く人々の資金力のみならず、手続きをこなす知識の充実が必要であることがわかる。資金や手続きの煩雑さを理由にフォーマル化ができないインフォーマルセクター従事者のため、今後も積極的な教育や資金が望まれるだろう。
インフォーマルセクターに従事する人々は、労働者の権利や適切な労働環境が守られない傾向がある。保障や納税対象からも外れるため、本人と国家資金への影響も大きい。
SDGsの目標8に該当する「働きがいも経済成長も」をかんがみれば、インフォーマルセクターの問題は明らかだ。解決のため、積極的な教育援助・資金援助が望まれる。
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