持続可能な素材を選び、環境にやさしいつくり方を追求したウオッチブランド「CITIZEN L(シチズン エル)」。2022年7月にAMBILUNA COLLECTIONから新モデルがリリースされた。CITIZEN Lのサステナブルなものづくりについて、商品開発の方に話を聞いた。
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エレミニスト編集部
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2022年にブランド10周年を迎えた、シチズン時計株式会社(以下、シチズン)の「CITIZEN L」。これを記念して、10周年記念限定モデルを含む AMBILUNA COLLECTION(アンビリュナ コレクション)が7月から発売となり、『ELEMINIST SHOP』での取り扱いも始まった(一部モデルのみ)。
現在は取り扱い終了しております。
そんな「CITIZEN L」は、2012年にヨーロッパでデビューを飾った、いわば逆輸入ブランドだ。2016年の日本での発売に際し、“サステナブル・ウオッチブランド”として再誕した。
サステナブルなものづくりの追求。言葉でいうのはたやすいが、形にするにはいくつも越えるべき高いハードルがある。シチズンに腕時計デザイナーとして入社し、長年商品開発に携わっている前田花菜さんによると、ブランドの出発点となるサステナブルなコンセプトは、意外な視点から生まれたという。
「CITIZEN L」の商品開発に携わってきた前田花菜さん。
「CITIZEN Lの日本での発売が決まった当時、チーム内で“世界中のユーザーの方に愛される美しい時計”をつくりたいという思いは同じでしたが、それをうまく具現化できずにいました。そこで、いま一度メンバーそれぞれが『CITIZEN Lとはなにか』を、イメージシートにまとめて見せあったんです。
すると、イメージする人として名前が挙がったのが、イギリスのダイアナ元妃と女優のオードリー・ヘプバーン。美しい人はたくさんいるのに、なぜこの2人をイメージしたのだろうと議論を深めていくと、お2人とも社会貢献活動に熱心で、内面の美しさが外側に表れているとわかったんです。『CITIZEN L』の本質もそうあってほしいと、チームの意見がまとまりました」(前田さん、以下同)
これまで見た目のデザインを追求してきた前田さんにとって、外見と内面の美しさを兼ね備えた時計づくりは、難しいチャレンジの始まりでもあった。そんなときに会社のCSR室を頼ると、食品などさまざまな分野で「サステナブルなものづくりが広がっている」と助言を受けたそう。そして、“サステナブルな腕時計づくり”という新たな旅が始まった。
社内の協力者を巻き込みながら研鑽した先に生まれた「CITIZEN L」。そのサステナブルなポイントは、大きくわけて4つあるという。
シチズンの「エコ・ドライブ」。フル充電なら6か月間駆動する。
「エコ・ドライブ」とは、1976年にシチズンが世界で初めて開発したアナログ式光発電テクノロジーのこと。光が少しでもあたると、それを電気エネルギーに換えて、蓄電もできるという優れものだ。腕時計には一般的にボタン電池が使われているが、電池交換するたびに廃棄電池が出る。しかしエコ・ドライブなら、定期的な電池交換の必要がなく、不要なごみを出さない。
「『エコ・ドライブ』は、太陽光はもちろん、室内のわずかな光も電気エネルギーに換えて時計を動かすことができます。定期的な電池交換が必要ないため、廃棄電池の削減になり環境負荷を減らせます。お客様にとっても、電池交換の手間が省けるのもメリットではないでしょうか」
このエコ・ドライブに欠かせない潤滑油として、独自に開発した特殊な構造をしたオイル「AO oil」 は独占せず、世界中の時計メーカーにシェア。時計業界全体の環境負荷低減に貢献しているそうだ。
気候変動への影響を軽減するため、CO2排出量を削減する取り組みが欠かせない。シチズンでは、取扱説明書をデジタル化。さらに保証書等は、適正に管理された森林からの木材や再生資源、その他の管理原材料から作られた「FSC®認証紙*」を採用している。
「以前は紙の取扱説明書を9言語で用意していました。でも、取扱説明書を熟読することは滅多にありませんよね? 知りたいときにデジタルで確認できた方がお客様にもわかりやすいと思い、取扱説明書をデジタルに切り替えました。『CITIZEN L』での動きをきっかけに、いまではシチズンの国内製品でも採用されはじめています」
この取扱説明書のデジタル化によって、年間20tのCO2排出量が削減できると見られているそうだ。
*FSC®(Forest Stewardship Council® / 森林管理協議会)が定める、森の資源を守るために厳しく管理された原材料が使われていることを認める紙。
「また、『エコツリーアクション』という仕組みも導入しています。購入時に腕時計のボックスを要らないといっていただくと、国際NGOを通じてカンボジアにマングローブの苗を1本寄付する活動なんです」
不要なごみを出さず、代わりに森林保護活動に気軽に参加できる取り組みが行われている。
AMBILUNA COLLECTION 新作モデルには、ラボグロウン・ダイヤモンドを採用。バンドには、ペットボトルを再生した「エコペット」を取り入れている。
CITIZEN Lでは、時計づくりに使用する素材にもこだわっているという。
「スズや金、タングステンなどの鉱物は、採掘や精錬の過程で武装勢力の資金源になったり、児童労働につながりがあったり、問題となっています。そこで、シチズンではリスクの高い鉱物のサプライヤーに毎年調査を実施。第三者認証を受けているか確認することで、悲しい背景とは関わりのない、責任ある鉱物調達に取り組んでいます」
また、文字板などにあしらわれたダイヤモンドには、ダイヤモンドの輝きを未来へつなげる新しい素材が使われている。それが、天然のものと同じ硬さや輝きをもつ「ラボグロウン・ダイヤモンド」だ。
「ラボグロウン・ダイヤモンドとは、ラボ(研究所)でつくられるダイヤモンドです。不純物をほとんど含まず、クオリティが高いことが特徴で、世界の紛争の資金源につながるといった心配がありません。環境・安全・労働基準に最大限配慮した素材を選んでいるんです」
これに加え、「CITIZEN L」10周年記念モデルで採用したニットバンドの一部には、ペットボトルを再生した素材「エコペット」が使われている。
さらにシチズンでは、サステナブルなものづくりで大切となる、情報の透明化にも取り組んでいる。まず、時計のライフサイクル全体のCO2排出量を公開。材料調達から生産、廃棄・リサイクルまで、時計の一生涯で排出される温室効果ガスをCO2に換算して公開している。
時計業界で第三者機関による認証(サステナブル経営推進機構によるCFPプログラム認証)を取得したのは、シチズンが初めてのことだという(2016年6月同社調べ)。
「透明性を担保することは、サステナブルなものづくりにおいてとても難しく、チャレンジし続けるべき課題だと感じています」と前田さん。
「腕時計1個の一生を通じて削減できるCO2排出量は、人間1人の1週間分の呼気相当だとわかりました。腕時計は小さな製品のため、削減できるCO2量は少ないですが、積み重ねていくことが大事だと思っています」
また、調査を続けることでどこで環境負荷が高いのか把握でき、さらに環境への負担を減らす取り組みに活かせるだろう。「そうしたアップデートする意識を持つことも大切だなと感じています」と前田さんは話している。
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が、地球温暖化の原因は人間の活動による温室効果ガスの増加である可能性が極めて高いと報告したとおり、私たちは自然へ大きな影響を与えて活動している。その解決策は、大気中に含まれるCO2などの温室効果ガスを減らすこと。そのため、生活者側である私たちも、開示されたCO2排出量を参考に、改善を続ける製品を「知る」ことも忘れてはならないだろう。
さらにCITIZEN Lでは、「時計を安心して使ってほしい」という思いから、 食べ物や化粧品と同じように、時計を構成する主要成分とその含有量も開示。ブランドとしてオープンな姿勢を示している。
CITIZEN L 10周年記念モデル。
2022年7月に発売された AMBILUNA COLLECTION 新作モデルでは、「CITIZEN L」が積み重ねてきた真の美しさに、自然由来のしなやかさや力強さが加わった。
「10周年という節目に、ブランドとしていま一度想いを発信できたらと思い、チームみんなで『私たちは自然とひとつである』というメッセージを考えた」と前田さん。
「この地球上で人間だけが特別な存在なのではなく、むしろ人間は自然があるから生かされている。そんな当たり前のことを私たちはつい忘れてしまいがちで、ややもすると生態系を脅かす存在になってしまっています。それは、つまり自分たちの未来を危うくさせていくことでもあるんですよね」
そんな気づきから、生物の仕組みや自然の美しさから学んだ新しいモデルが生まれたそうだ。
AMBILUNA COLLECTION 新作モデル。
上述のメッセージは、地球を構成する要素とされる「地・水・火・風」という今回の新作モデルに結実しているといえるだろう。それを表すいい例が、「バイオミミクリー」の採用だ。
「バイオミミクリーとは、自然界や生物の能力を活かして、問題解決につなげるテクノロジーです。たとえば、ヨーグルトの裏蓋は細かな凹凸で中身がつかないようになっていて、これは蓮の葉の構造から着想したもの。私たちの身の回りには、そんな自然界からヒントを得たアイデアがたくさん活かされているんです」
今回の新作モデルのバンドに着目してみよう。装着感や汚れといった、腕時計にまつわる悩みをどうすれ解消できるか考えたところ、バイオミミクリーにたどり着き、生物学者として国内外で活躍する福岡伸一博士に助言を仰いだという。
海綿動物をヒントに生まれたニットバンド。通気性に優れ、軽さや快適さも実現している。
「今回『CITIZEN L』で初めてニットバンドを採用したのですが、海綿動物の『多孔性しみゃく構造』をヒントに、小さな穴がたくさん開いた構造を取り入れました。それによって通気性がよく軽さもあり、好きな場所に突棒をさせます。さらに文字板の裏側にもバンドを通すことで、汗むれなどの不快感を軽減しました」
ちなみに、ニットの素材には、回収したペットボトルから生まれ変わったポリエステル繊維「エコペット」を使用し、その編み方にもこだわっている。
「ホールガーメント®という、1本の繊維で編み切る独自の編み方を採用したため、通常なら出てしまう繊維のカットロスがありません。しかもニット製ですから、バンド部分を取り外して手洗いできるので、汗ばむ季節や汚れが気になる方にとくにおすすめです。ご自分で手洗いすることで、時計への愛着も一層わくのではないでしょうか」
文字板には「構造色」を採用。光の具合によって、色の見え方が変わるから神秘的だ。
また、文字板の奥深く多様な美しさの理由は、「構造色」が使われていることにある。これは、色素が発している色ではなく、表面の構造が光を屈折させることで見える色のことを指す。
「神の石と呼ばれ神秘的なカラーで知られるオパールや、北米や南アフリカに生息するモルフォ蝶に代表される色です。文字板は色を持たない特殊なインクを用いていて、光の強さや角度、光の色で構造色の発色が変化します。そのため、朝と夕方で文字板の色が刻一刻と変わるんです。だから、自然とのつながりを肌で感じていただけるのではないでしょうか」
自然界を構成する四大要素「地・水・火・風」をテーマに、凛とした美しさを携えた「CITIZEN L」AMBILUNA COLLECTION 新作モデルの4つ。最後にそれぞれの魅力を前田さんに教えていただいた。
「女性は、地・水・火・風といった自然の“エレメント”を感じながら日常を過ごされる方が少なくないように思います。『自分に足りないエレメントを時計で身に着けることでバランスをとりたい』と選んだお客様もいらっしゃいました。そうした、“私だけの楽しみ方”ができるのも、今回のモデルの魅力かもしれません」
なお、この新作モデルのうち「地」「火」をイメージしたモデルは『ELEMINIST SHOP』でも購入可能だ(期間限定)。
現在は取り扱い終了しております。
AMBILUNA COLLECTION Inspired by EARTH 39,600円(税込)。2022年7月より販売。
「荒々しくも壮大なイメージを文字板で表現しました。地層を思わせる文字板は、ブラウンに見えますが、光によって緑に見えたりもするんですよ。シックなデザインで場所を選ばずにいつでも身に着けられる時計だと思います。試しに着けてみた男性社員からは、『軽さが新鮮だ!』と好評でした」
AMBILUNA COLLECTION Inspired by WATER 39,600円(税込)。2022年7月より、30本(国内特定店限定)販売。
「ブルーをイメージした時計です。蛍光灯と太陽光の下では、文字板の色が全然違って見えるのも、このモデルの特徴かもしれません。光の具合によって文字板の見え方が違うので、『なんて楽しい時計なんだろう!』と嬉しくなりました」
AMBILUNA COLLECTION Inspired by FIRE(10周記念限定モデル) 53,900円(税込)。2022年7月より、世界限定1050本販売。
「夜明けをイメージした文字板で、光が当たると水平線に朝陽が昇るような赤みが差す、落ち着きと華やかさのあるモデル。朝は、生き物、とくに植物にとって光合成を行うなど大切な時間ですよね。文字板に朝、陽光があたると、着けている自分にもパワーがもらえるような気がしてきます」
AMBILUNA COLLECTION Inspired by AIR 35,200円(税込)。2022年7月より、30本(国内特定店限定)販売。
「AIRを連想させる軽やかさと華やかさが魅力。文字板は白をベースに縦に層が入ることで爽やかさを演出しています。展示会などでは、フェミニンな雰囲気を演出できるためか、女性にとても人気が高かったモデルです」
10周年を迎え、サステナブル・ウオッチブランドとしてさらに進化し続ける「CITIZEN L」。この先は何を見据えているのだろうか。
「『環境に配慮した時計があってうれしい』といっていただくことがとても励みになります。また、見た目の良さなどから『CITIZEN L』を購入いただいた方が、後からサステナブルなものづくりが行われていることを知り、高い満足感を持っていただけていることも、私たちのやりがいにつながっています」
『私たちは自然とひとつである』というメッセージを発信することで、ひとりでも多くの方の気付きにつながればとても嬉しいです」と、前田さんは話してくれた。
「ただ『CITIZEN L』の最終目的は、“これがあるから大丈夫”と思っていただける、長く愛していただける質の高い時計をつくること。時計はライフイベントとのかかわりも深いものです。リペアしながら使い続けていただけるような、お一人お一人にとって大切なものになることが、結果として何よりサステナブルな取り組みになるのかなと思うのです」
グローバルな時計ブランドとして知られるシチズンのなかで、環境に配慮した取り組みを先駆けて行ってきたという「CITIZEN L」。環境や自然への配慮がますます求められるようになった時代背景もあり、このようなものづくりへの探求は、まだこれからも続いていく。
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