「サステナビリティ」をテーマに、イタリアで開催された世界最大級の家具見本市「ミラノサローネ」2022。「サローネ国際バスルーム見本市」に展示された最新のサステナブルなバス&トイレ事情を現地からご紹介します。
ヘスリンク ニコル
フリーランスフォトグラファー/ライター
日本、イタリアでモデルの仕事をしていたことをきっかけにフォトグラファーへ転身。ハワイでウェディングフォトグラファーとして勤めた後、フィレンツェの美大で写真を学ぶ。卒業後はイタリアマルケ州…
毎年世界中から注目を集める「Milano Salone di Mobile(ミラノサローネ・ディ・モービレ)」、通称「ミラノサローネ」はイタリアで開催される世界最大規模の家具の見本市です。
会場はミラノ郊外の展示場「ロー・フィエラ(Rho Fiera)」で、敷地面積は753,000m²とヨーロッパ最大級。日本最大の展示会場、東京ビックサイトの総展示面積115,420m²と比較しても、その大きさがわかるでしょう。
2022年のテーマは「サステナビリティ」。再利用可能な素材やリサイクル素材、環境負荷の低い素材などの使用が推奨され、材料、電力、水の無駄を省く独自のガイドラインが設定され、環境に配慮した家具が出展されました。
2022年はミラノサローネ60周年ということもあり、6日間にわたる開催期間に26万人以上の来場者を記録。トレードオペレーターやバイヤーの半数以上は海外から訪れたそうです。
「ドルチェ&ガッバーナ」がデザインしたキッチンも。
今回私が注目したのは、「サローネ国際バスルーム見本市」。トイレ、バス、水道、暖房設備など、150社以上のさまざまなジャンルのメーカーが出展しましたが、それらの共通点は「デジタル化」でした。利便性を重視するのならばデジタル化には納得できますが、果たしてどのようにサステナビリティと関係があるのでしょうか?
コーラー(Kohler)のデジタルシャワー。
例えば、アメリカの「コーラー(Kohler)」が紹介した商品はデジタルシャワーでした。リモコンまたはアプリで、水温、水圧等を設定するので、従来のような温度調節ハンドルは必要なくシャワーを浴びられます。さらに設定パネルには使用した水量、使用時間が表示され、水の消費を意識できます。
使用した水の量や使用時間が表示されます。
水栓のデジタル化も進んでいます。公共の場でよく見かける自動水栓を一般家庭にも普及させる動きが見受けられました。タッチパネルに表示された水栓ヘッドで水量、温度を設定し、手を引くと自動的に水が止まるようになっています。これにより節水につながり、また水温を一定温度にしておくことで節電にもなります。
水量も温度も設定できるデジタル水栓。
洗面台の鏡もデジタル化が進んでいました。2022年のトレンドはLED付きのミラー。ミラー内にマイクが内蔵されており、音声でライトをつけられます。白熱電球に比べて発光効率の高いLEDのおかけで、バスルーム全体を十分に明るくしてくれて、明るさそのものを調節できるので省エネにつながります。
LEDライト付きのミラー。
深夜トイレへ行く際には人感センサーにより自動的にソフトな照明がつき、睡眠の妨げにならないようになっています。ライトをつける以外にも、音楽をかけたり、ニュース、天気予報を教えてくれたりします。
私たちの生活を便利にしてくれるだけでなく、環境にもやさしいデジタルバス家電が今後定着していきそうです。
ヨーロッパで主流のバスルームスタイル。トイレの横にビデが並んでいます。
日本では当たり前の温水洗浄便座、ヨーロッパではまだまだ普及されていないことをご存知でしたか?
イタリアではトイレの横に「ビデ」が置いてあるのが主流。ヨーロッパのバスルームでよく見かける「ビデ」とは、便器の横に設置してある小さな洗面台のような器具で、トイレを使った後に下半身を洗うためにあります。日本の温水洗浄便座の「ビデ機能」もここから由来しています。
2022年のミラノサローネでも、まだトイレとビデの両方を展示しているメーカーが数社ありました。
便器の横に設置されるビデ。前向きに座って使用します。
現地の人々の間ではそんな古い風習が残るなか、ついに温水洗浄便座が欧米でも生産し始められ、ミラノサローネでも大々的に取り上げられていました。メーカーに聞いてみると、「モデルは日本なんだ」と口を揃えて言っていました。
最新の温水洗浄便座付きスマートトイレ。
温水洗浄便座が注目されるようになった背景には、サステナビリティそして衛生面への配慮があります。今回展示されていたほとんどの温水洗浄便座は自動で便座が開け閉めでき、便座から立ち上がると水が自動に流れるもの。ノータッチでトイレを使用できる機能はコロナ以来需要が高まっているそうです。
またビデ使用後の乾燥機能のおかげでトイレットペーパーが不要になり、それも人気を集めた理由です。トイレの自動洗浄機能には、ヨーロッパの硬水にはつきものの水垢を除去してくれる働きがあるため、今まで温水洗浄便座の普及のネックとなっていたカルキにも対応しています。
リモコンに、好みのビデの設定を登録できます。
最新型のトイレは外付けのリモコンのほか、アプリから家族全員が好みのビデの温度や位置を登録できます。トイレの下にはLEDが設置されているので、夜でもバスルームの電気をつける必要はありません。
水を流す量も選べて、従来のヨーロッパのトイレに比べると大幅な節水になります。日本人の私たちからしたら、どれも当たり前の機能ですが、ヨーロッパではまだ見慣れない最新技術です。残念ながらイタリア国内においてはまだ高価な商品なので、一般家庭向けにはほとんど販売されず、高級ホテルやヴィラがメインのクライアントだそうです。
マットな仕上げのトイレがトレンド。
デザインのトレンドは、丸みを帯びたカーヴィーで一体感のあるトイレが圧倒的に人気。トイレの表面は、光沢のないマットな仕上げのものを多く見かけました。イタリアにも早く、このようなスマートトイレが普及するといいですね。
檜創建の檜風呂。
「サローネ国際バスルーム見本市」に唯一日本から出展していたのは、「檜創建」です。サローネでのブース出展は今年が初めてでしたが、終始多くの人が集まっていて、注目ぶりを感じさせられました。
檜創建は日本ではホテルや旅館を中心としたビジネス向けに販売しているのですが、ヨーロッパでは個人客の注文が多いそうです。日本伝統の檜風呂をモダンなデザインで提供していて、西洋のバスルームにも似合います。
サステナビリティの観点から注目すると、檜風呂の最大のメリットは軽さ。ヨーロッパに多い、セラミックや人工大理石の浴槽に比べ、輸送時のCO2の排出を大幅に削減できます。そして檜創建ではXSサイズの浴槽を生産しているため、通常のサイズのバスタブに比べ、お湯を無駄にせずバスタイムを楽しめます。
檜風呂はきちんと手入れを行えば、従来のバスタブと同じくらいの寿命があり、寿命を迎えた後には自然に返せるという長所があります。
単純に浴槽を販売するというより、シャワーが圧倒的に人気のヨーロッパにおいて、日本の伝統的な檜風呂や湯舟に浸かるという文化そのものを広めたいというコンセプトが印象的でした。
最後に、アンダー35の若手デザイナーたちの作品が集結したコーナー「サローネ・サテリテ(Salone Satellite)」をご紹介しましょう。2022年のテーマは「Designing for Our Future Selves(未来の自分のためにデザインする)」と、サステナビリティを取り上げたものです。
Omniagioia(オムニアジョイア)。リサイクルペットボトルと3Dプリンターを駆使してペット用品をつくります。
リサイクルペットボトルと3Dプリンターを駆使してペット用品をつくり上げるOmniagioia(オムニアジョイア)、染色加工場から発生する規格外の布を再利用して新しい表面材にするNunous(ニューノス)など、これからの活躍が楽しみなデザイナーが多数出展していました。
染色加工場の規格外の布を再利用した、Nunous(ニューノス)ののれん。
出展ブースのなかには個人のデザイナーだけでなく、学校単位でのスタンドもありました。アップサイクルをテーマにした作品を展示していた芝浦工業大学、伝統工芸をテーマにした沖縄県立芸術大学が出展していたほか、サステナビリティに関する修士号を取得できるイタリアのSchool of Sustainability Foundationなど。デザインの未来もサステナビリティを見据えたものであると肌で実感しました。
沖縄県立芸術大学の出展。
新型コロナの影響を大きく受け、2022年にやっと本格的に再開されたミラノサローネ。以前のように美しさや斬新さを売りにした「デザインの祭典」ではなく、私たちの未来を見据えたサステナブルなデザインが主流となっていました。
今回のミラノサローネでは、最新のテクノロジーを取り入れて高い機能性を持ちながらも、デザイン性もある数々のバスルームデザインが発表されていました。環境にやさしいだけでなく、私たちの生活を豊かにしてくれるバスルームが今後普及していきそうです。
撮影・執筆/ヘスリンク ニコル 編集/佐藤まきこ(ELEMINIST編集部)
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