「フェーズフリー」とは? “いつも”と“もしも”の垣根をなくす防災に対する新たな視点

フェーズフリー協会のロゴ

もしもの災害に対して十分備えられている人は実は少ない。 そんな“備えたくても備えられない”現実を前提とした「フェーズフリー」という視点がいま注目されています。一般社団法人フェーズフリー協会の代表を務める佐藤唯行氏に、フェーズフリーが生まれた背景や考え方について伺いました。

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2022.06.29
SOCIETY
編集部オリジナル

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多くの人にとって、備えることは難しい

地震や台風など、何か災害が起きたときには慌てて防災グッズを探すことはあっても、日常に戻ると日々の生活に一生懸命で、つい、もしものときへの備えが後回しになってしまいがちです。従来のいわゆる防災とフェーズフリーとはどんな点が違うのでしょうか?

「防災とフェーズフリー、どちらも、“繰り返す災害から安心安全な社会をつくっていこう”という目的は同じなんです。違いはアプローチの方法です」(以下、「」内は一般社団法人フェーズフリー協会の代表理事・佐藤唯行氏コメント)

「一般的に防災は、災害に対して“備える”というアプローチであり、備えてもらうことを前提として、安心安全な社会をつくっていくというやり方です。たしかにどんな人も災害に対して備えなくては、やらなきゃと思っているはずです。大切な人の生活や命を守りたいと思っているにも関わらず、おそらくほとんどの人が十分な備えはできていない。つまり、“防災はするべきだ”という気持ちと“備える”がイコールになっていないんです」。

なぜ人々は備えることが後回しになってしまうのでしょうか?

「さまざまな理由があるとは思いますが、みんな日々一生懸命生活をしているからだと思います。いつ来るかわからない災害よりも目の前のことに必死で、十分な備えができないのは仕方のないこと。備えることが難しいのであれば、ふだんの暮らしを豊かにしているものが実は災害時に自分たちの生活や命を守ってくれたらいいんじゃないか、というのがフェーズフリーという考え方が生まれたきっかけです」。

日常づかいも防災にも “フェーズフリー”なエシカルグッズ

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私たちは災害時に、特別に強靭な肉体や精神になれるわけではない

水害に遭っている街のイメージ写真

Photo by Chris Gallagher on unsplash

とはいえ、最低限何を備えればいいのか、気になる方も多いかと思います。

「私たちは災害時に特別に強靭な肉体や精神になれるわけではなく、このままの肉体と精神で日常時から非常時に突入してしまいます。ということは私たちがふだん必要なものは、非常時にもほぼ必要なんですよね。ただ、非常時のためにふだんの生活に必要なものをもう1セット備えるということは現実的にほぼ不可能であり、それよりも、私たちの身の回りにある、ありとあらゆるもののフェーズがフリーになっていった方がいいはずです」。

たしかに何を揃えればいいんだろう? と考えても、そこで考えが止まってしまいがちです。

「いわゆる非常用持ち出し袋のセットなどを見て、みなさん疑問に感じると思うんですよね。これを買って私は本当に救われるのか? と。人々ってすごく多様ですし、同じ家族でも一人ひとり必要なものは違ってくるだろうし。なかなか、これだけあれば大丈夫というものはないんです」。

日常時と非常時、どんなときも生活の質を上げてくれるのがフェーズフリーの商品やサービス

日常時と非常時のQOLにおけるフェーズフリーの商品・サービスと従来の商品・サービスを比べたグラフ link

出典:PHASE FREEコンセプト&ガイドサイト

「日常の私たちの生活にはほとんど影響せず、むしろ置き場所に困る、コストがかかるなど、日常の生活の質をやや落としているけれど、災害時には活躍し、災害によって落ちた生活の質を少し上げてくれるのが、いままでのいわゆる防災商品でした。これに対し、日常の生活の質を上げる提案が、災害時の生活の質の向上にも連続的に提案できるのがフェーズフリーの商品やサービスです(上記グラフの赤い線)」。

フェーズフリーの商品やサービスは、日常時と非常時で役割が違うことが条件なのでしょうか?

「いえ、必ずしもそんなことはありません。フェーズフリーは決して難しく敷居の高いものではないのです。私たちは以下の4カテゴリーで幅広く定義しています」。

1.防災および特定の職業などで日常時に利用している

例えばヘルメットは日常時から工事や作業現場などで利用され、防災グッズとしても活用されています。

2.利用方法を提案することでフェーズフリーの価値を提供

例えば水やトイレットペーパーをローリングストックすることは、日常時に消費しながら備えにもなります。

3.日常時も非常時も同じフェーズフリーの価値を提供し続ける

例えば水に強いペン。日常時はもちろん、非常時に雨のなかでも情報をしっかり伝えることができます。

4.日常時とは別に災害時に役立つフェーズフリーの価値を発揮

例えばPHV車(コンセントから充電できるハイブリット車)。日常時は省エネでエコ、非常時には生活用の電源に利用できます。

日常時も非常時も描くフェーズフリーはサステナブルな考え方に共通する部分が多い

「自分なりの選択肢」をもってモノ・ことを選ぶこと、シングルユースのものをなるべく減らし、マルチユースにモノ・ことと関わること。そうしたエシカル・サステナブルな考え方とフェーズフリーの考え方は親和性がありそうです。

「たしかに日常ではなかなか使う機会がない防災グッズと比べて、フェーズフリーなアイテムは日常時も非常時も描いている点がマルチユースであり、サステナブルな考え方と親和性がありますよね。ぜひELEMINIST読者のみなさんも、ご自身の身の回りの日用品をフェーズフリーの視点で観察し直してみてください。災害時に“備える”以外の選択肢ができることが、社会全体の災害という問題の解決につながるはずです」。

フェーズフリー協会のロゴ

一般社団法人フェーズフリー協会/フェーズフリーを正しく世の中に普及させていくために、2018年12月に発足。「フェーズフリー」という価値の普及・啓発を通して、繰り返される災害への社会の脆弱性を減らし、 被害に遭って苦しむ人を少しでも減らしたいという思いから活動の幅を広げている。https://phasefree.net/

取材・執筆・編集/堂坂由香(ELEMINIST編集部)

※掲載している情報は、2022年6月29日時点のものです。

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