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インド南部でのみ栽培される「スビンコットン」は、その品質の良さと希少性で注目される綿花である。世界中で栽培される綿花の0.001%にも満たないとされるスビンコットン。なぜこれほどまでに貴重なのか、その特徴とともに解説しよう。
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エレミニスト編集部
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スビンコットン(SUVIN COTTON)とは、インド南部でのみ栽培される希少なコットンである。その希少性と品質の良さから、「綿花の王様」と呼ばれることもある、特別なコットンなのだ。
スビンコットンは、インドの「SUJATA(スジャータ)綿」とカリブ海の「St. VINCENT(シーアイランドコットン)」を交配させて生まれた。
優れた品種同士のかけ合わせによって、それぞれの良さを生かした上質なコットンに仕上がっている。開発したのはCentral Institute for Cotton Research(CICR)で、1974年のことだった。(※1)
スビンコットンのなかでも、一番摘みの綿花のみを用いたコットンを「スビンプラチナム」と言い、とくに希少性が高いとされている。日本は、スビンコットンの主な輸出先の一つ。滑らかで肌触りのいいスビンコットンは、Tシャツや肌着などに向いた素材だ。その風合いや独特の滑らかさは、多くの人々を魅了している。
オーガニックコットンとは、有機栽培によって収穫された綿を指す。オーガニックコットンを名乗るためには、厳しい審査を通過しなければならない。
日本オーガニックコットン協会によると、オーガニックコットンとして認められるためには、「認証機関に認められた農地で、栽培に使われる農薬・肥料の厳格な基準を守って育てられた」コットンでなければならない。加えて、「全製造工程を通じて、オーガニック原料のトレーサビリティーと含有率がしっかりと確保され、化学薬品の使用による健康や環境的負荷を最小限に抑え、労働の安全や児童労働など社会的規範を守って製造したもの」という条件もある。(※2)
これらの条件さえ満たしていれば、どのような品種の綿花であっても、オーガニックコットンを名乗れる。もちろんスビンコットンも、条件を満たしていると認証されれば、オーガニックコットンと言えるだろう。
スビンコットンには、ほかの綿花にはないさまざまな特徴がある。その魅力を知るためにも、ぜひチェックしてみてほしい。
滑らかさと光沢のある超長綿として知られるスビンコットン。超長綿とは、綿花からとれる非常に長い繊維のことだ。そのなかでも、とくに繊維が細いという特徴を持っている。生地にすると、特有の滑らかさとシルクのような光沢を持つ。しなやかで上品な、その美しさは目を楽しませてくれる。
スビンコットンの繊維の細さは、実はその耐久性とも深く関わっている。繊維が細い分、複数の繊維をねじり合わせなくても、強度を出せるという特徴があるのだ。一般的なコットンよりも、はるかに高い耐久性を持っているスビンコットン。頻繁に洗濯したり、乾燥機にかけたりしても、生地が傷みにくいという特徴がある。
スビンコットンでつくられた生地には、肌をふんわりと包み込むような、独特の柔らかさがある。ごわごわしないやさしいタッチは、幅広い世代に愛されるもの。また生地全体にしなやかさがあるため、着心地がいい点も特徴的だ。
インドは綿花大国とも呼ばれ、非常に多くのコットンを栽培している。しかしスビンコットンの生産割合は、全体のごくわずかにとどまっている。なぜこれほどまでに、スビンコットンは貴重なのか。その理由は、大きく以下の4つである。
スビンコットンを生産できるのは、インド南部にある限られた契約農場のみである。スビンコットンは非常に繊細な植物であり、厳しい気候条件をクリアする必要がある。土壌や日照時間、風通しなど……栽培に適した環境を維持できる農場は、決して多くはない。栽培できるエリアが少なければ、その分希少価値は上がっていくだろう。
スビンコットンは、一般的な綿花よりも収穫までの期間が長い。繊維長が長い「長繊維綿」のなかでも、「超長綿」の一種として知られるスビンコットン。細く長いだけではなく、強さを持った繊維が生まれるのは、長い時間をかけてじっくりと栽培されるからだ。
とはいえ、栽培期間が長くなれば、その分栽培にかかる手間は増える。災害や気候の影響で植物そのものが駄目になってしまうリスクも上がるだろう。これも、スビンコットンの希少性を高めている要因の一つである。
長い栽培期間を経て、ようやく収穫したスビンコットン。しかし収穫後にも課題はある。収穫したスビンコットンの重量のほとんどは種子であり、加工後にはわずか30%にまで減少してしまうのだ。手間暇かけて育てても、スビンコットンとして流通させられるのは、その一部のみという現実がある。(※3)
このようなさまざまな事情から、スビンコットンを生産する農家そのものが減少している点も、さらに希少性が高まっている要因の一つだ。1980年代には年間5,000トン以上あったとされる生産量は、近年400トン程度まで減少。スビンコットンならではの生育条件だけではなく、気候変動による大規模災害なども、生産農家にとっては厳しさを増す要因だ。スビンコットンの生産から手を引く農家が増えた分、希少性はさらに高まっている。(※3)
コットンは、我々が日常的に身に着ける衣類をつくる上で、欠かせない素材である。しなやかで美しく、また日々の洗濯や乾燥機にも負けない強い衣類があれば、「いい服を長持ちさせる」という習慣にもつながっていくだろう。スビンコットンは、我々に新たな価値観をもたらしてくれる上質な素材だ。
手軽に入手できるファストファッションは、いつでも流行を取り入れられて便利である。しかしその一方で、大量生産・大量消費によるさまざまな問題を生み出している。アパレル業界は、衣類に対する「当たり前」を変えようとする取り組みの真っ最中だ。業界全体に変革が起きようとしているいまだからこそ、スビンコットンにも注目してみてほしい。
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