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二酸化炭素を排出しない新たなエネルギーとして注目されているのが、グリーンアンモニアである。活用にはどういったメリットがあるのか、詳しく解説する。今後どういった分野に活用されていくのか注目してみよう。
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エレミニスト編集部
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グリーンアンモニアとは、化石燃料の代替品として期待される新たな燃料である。構造内に炭素を持たないのが特徴だ。つまり、燃焼によって酸素と結び付いても、二酸化炭素が発生しない。この性質は、脱炭素化社会の実現に向けて注目が高まっている。
またグリーンアンモニアは、製造段階においても環境を阻害する物質は発生しない。具体的な製造方法は、再生可能エネルギーでつくられた電力によって水素を製造した後、水素と窒素の合成によってアンモニアをつくり出す流れである。
アンモニアと言えば、理科の実験で扱った刺激臭のある気体を思い浮かべる人は多いだろう。世界全体がカーボンニュートラル実現に向けて大きく動き出す中で、アンモニアへの印象は大きく変わってきている。
2016年時点でのアンモニア生産量は、世界で約1億7,600万tである。その多くは肥料として使われてきた。毒性のある劇物ではあるものの、アンモニアは植物を育てるのに欠かせない成分を土壌中に与えてくれる。食糧生産のために欠かせない物質と言えるだろう。
またアンモニアは、工業製品の原材料としても使用される。衣料品に用いられるナイロンや機能性プラスチック、衣料品や家電、建材など、さまざまな製品に、実はアンモニアが使われているのだ。これらに加えて、今後は代替エネルギーの役割が期待される。(※1)
クリーンエネルギーとしてアンモニアが注目されるいま、グリーンアンモニア以外に、グレーアンモニアやブルーアンモニアといった言葉を見かける機会もある。それぞれ、異なる点を解説していく。
従来アンモニアは化石燃料を用いてつくられていた。アンモニアそのものは二酸化炭素を発生させない気体だが、アンモニアをつくる過程では二酸化炭素を排出する。これをグレーアンモニアと呼ぶ。
ブルーアンモニアの製造過程でも、化石燃料が使われている。ただし、発生した二酸化炭素を回収して地中深く貯蔵する技術を採用している。これにより、グレーアンモニアよりも製造過程における二酸化炭素排出量が少なくなっている。
これらとは異なり、グリーンアンモニアは再生エネルギーを使ってつくられたアンモニアだ。製造過程でも二酸化炭素は排出されない。製造方法とその過程における二酸化炭素排出量が異なる特徴である。
脱炭素化社会の実現に向けて、その可能性に注目が集まるグリーンアンモニア。具体的に、どういった用途で使われるのだろうか。3つの事例から可能性を探っていこう。
アンモニアのエネルギー活用方法として注目されているのが、ガスタービン発電への活用である。アンモニアを直接燃焼し、タービンを回す。これによって発電される仕組みだ。最大のメリットは、既存のガスタービン発電設備の多くをそのまま流用できる点だ。また、発電システムの規模が大きければ大きいほど、二酸化炭素の排出量削減効果も大きくなる。
アンモニア混焼による実証実験を繰り返してアンモニア使用率を徐々に向上させ、将来的にはアンモニア専焼での発電を目指す。もし専焼が実現されれば二酸化炭素排出量削減効果は約2億tにもおよぶと試算される。(※2)
京都大学と株式会社ノリタケカンパニーリミテド、株式会社IHIなどの民間企業が共同で研究開発しているのが、「アンモニアを直接燃料とした固体酸化物形燃料電池」である。平成29年には、世界最大規模の1kW(キロワット)の発電に成功した。この発電出力は、汎用SOFCとほぼ同程度の数値である。
家庭用分散電源や持ち運び用小型発電機としての用途も期待されるSOFCだが、アンモニアを活用できれば有害物質や温暖化ガスの発生を防げるだろう。我々の身近でも、 CO2フリー発電を実現できる可能性が高い。(※3)
2021年12月、日本郵船株式会社は株式会社ジャパンエンジンコーポレーションや日本シップヤード株式会社などと共同で「アンモニア燃料国産エンジン搭載船舶の開発」をスタートした。現状では、アンモニア燃料の着火しにくさを解消するため、少量の燃料油の使用を検討している。アンモニア燃料混焼率80%以上を目標に温室効果ガスの削減を目指す。
将来的には、少量の燃料油にもバイオ燃料の使用を検討しているそうだ。温室効果ガス排出総量ゼロを目標に開発を進めており、就航目標は2024年度だ。(※4)
電気もエンジンも我々の生活に欠かせないものだが、これまで多くの二酸化炭素を排出してきた。脱炭素化社会を実現するためには、システムそのものを変更していくことが、重要なポイントとなる。紹介した3つの事例からもわかるように、グリーンアンモニア活用による二酸化炭素削減に向けた取り組みはすでにスタートしている。今後のさらなる技術革新が期待される。
化石燃料は、長いあいだ人間の社会生活を支えてきた。しかし、環境問題の解決において、二酸化炭素排出量の削減は急務である。そのために注目されるのが、製造過程や燃焼中に二酸化炭素を排出しないグリーンアンモニアだ。
アンモニアは世界中で肥料として使われており、輸送システムや安全性を保つために必要な技術はすでに確立されている。エネルギー転換を進める際にもスムーズに進めていけると期待されているのだ。グリーンアンモニアによる新エネルギーの時代がスタートする日も、近いのかもしれない。
※1 アンモニアのご紹介|日本肥料アンモニア協会
※2 「燃料アンモニアサプライチェーンの構築」 プロジェクトの 研究開発・社会実装の方向性(13ページ目)|経済産業省
※3 アンモニアを直接燃料とした燃料電池による1キロワットの発電に成功|SIP 戦略的イノベーション創造プログラム
※4 アンモニア燃料国産エンジン搭載船舶の社会実装に向けた実証事業を開始|日本郵船
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