世界のサステナブルアパレルを牽引する「パンゲア(PANGAIA)」。そのパンゲアが2月、北米初のポップアップストアを゛カーボンニュートラルな店舗“としてオープンした。同社のサステナブル企業としてのあり方や、企業・個人によるカーボンニュートラル化の取り組みについて紹介する。
田原美穂 (タバルミホ)
サステナビリティコンサルタント / クロスボーダーマーケター
NY在住。Sustainable Journey 代表。 大学卒業後、投資アナリストとしてロンドンで勤務後、日本にて外資系ファッションブランドでマーケティングやEcommerceに15年…
2018年に創業した「パンゲア(PANGAIA)」。コロナ前は12名のみの従業員だったが、コロナ禍の部屋着需要増加と社会的にサステナブル志向が高まったことを背景に、カラフルでサステナブルなスウェットで認知が一気に拡大。今では従業員170名を有し、2020年には売上7500万ドル(約86億円)を達成した急成長中のサステナブルアパレル企業だ。
だが、パンゲアは従来のアパレルブランドとは一線を画す。多くのブランドでは、創業者やクリエイティブディレクターの名前が表に大きく出ることが多い。それに対して、パンゲアは全く逆。ブランドを創っているのは、社内外の科学者や研究機関、環境家、技術者、デザイナーなど、さまざまな人や組織の集合体(コレクティブ)だと考えている。
さらにデザインした洋服を販売するだけのビジネスモデルにとどまらない。同社は、社内に研究開発チームを抱え、科学やテクノロジーを利用して自然の力を最大限に引き出し、地球上の温室効果ガスや廃棄物を削減しながら高機能な素材を創るメーカーでもあるのだ。
多くのアパレル企業では、テクノロジー企業では当たり前の、中長期を見据えたR&D(研究開発)機能がない。パンゲアはそこにチャンスがあると考え、自社で開発した素材やその技術に関して特許を取得。それらのライセンスでの収益をみている。
パンゲアが開発し商標登録しているマテリアルのひとつ「FLWRDWNTM」。合成ダウンや動物性ダウンの代わりに、天然の野草を乾燥させたものを使用。10年以上の研究開発期間を経て商品化された素材だ。
従来のアパレル企業は、商品を販売するために多額のマーケティング費用をかけるが、パンゲアは革新的な素材自体がPRになると考えているのだ。
これまでのアパレル企業にはない革新的なビジネスモデルで躍進するパンゲア。同社のマテリアル・サイエンスを消費者により身近に感じてもらうため、パンゲアではポップアップストアをオープンしている。
2月には、北米初のポップアップストアを大手百貨店のノードストローム13店舗で同時オープンした。それぞれのポップアップストアでは、気候変動に配慮した空間づくりが行われ、開店に必要な資材、輸送、電力、暖房、そして従業員の通勤に関わる二酸化炭素排出量を、カーボン・フットプリント社のもと算出。
さらにその数値から、Simpli ZEROという団体経由でオフセットを行い、カーボンニュートラルを実現し、さっそく注目を集めているのだ。
今回のポップアップストアのパートナーとして、ノードストロームを選んだ理由は、実現したいビジョンを共有しているから。ノードストロームでは、2025年までに全商品の15%をサステナブルにすることを目標として掲げている。また繊維リサイクルの業界革新を支援するために、非営利団体Fibershedに100万ドルを寄付することを目標としている。
パンゲアの顧客は環境に対する意識が高く、自分たちが使う製品や着る服を通して、変化を起こしたいと考えている。そこでパンゲアでは、服の購入以外でも、その思いを実現できる仕組みを整えている。
同社のオンラインサイトには、3時間分のショートフライトや、1年分の携帯電話使用などから排出される二酸化炭素量をオフセットできるカーボンクレジット購入ページが設けられているのだ。
そしてパンゲアのように、個人消費活動や生活自体をカーボンニュートラル化しようと働きかける企業が、アメリカでは多く見られるようになってきている。
例えば、LA発のサステナブルブランドReformationでは、パンゲア同様にオンライン上でカーボンクレジットを販売。さらに同社サイトからクリーンエネルギーに契約変更すると、100ドルのギフトカードがプレゼントされる特典が設けられている。
また、クリーンビューティー・リテーラーのDetox Marketでは、購入商品の二酸化炭素排出量を自動計算する「EcoCart」システムがあり、商品注文時に自分が購入する商品に使用された二酸化炭素排出量を確認できる。さらにその二酸化炭素排出量をオフセットしたい場合には、カーボンクレジットをカートに追加できるようになっている。
アマンダ・パーク博士。
パンゲアのように、欧米ではイベントや店舗、企業の従業員などのカーボンニュートラル化の動きがさまざまな場所で見られるようになっている。だが、同社チーフ・イノベーション・オフィサーでありファッション・サイエンティストのアマンダ・パーク博士は、カーボンオフセットに関しては一時的な取り組みでしかないという。
「二酸化炭素排出量を気にせず企業活動を行い、その分のカーボンクレジットを購入し、オフセットすればいいということではない。あくまでも本来の企業活動でカーボントランスフォーメーションをすすめ、排出量削減に努めることが優先」
とはいえ、自社の商品やサプライチェーンのサステナビリティ化のみにとどまらず、顧客のライフスタイルまでもカーボンニュートラル化を一緒に実現しようとする企業が増えていることは事実。消費者からすれば、お気に入りのブランドや企業と一緒にライフスタイルまでもサステナビリティ化できるようになってきているのだ。
アマンダ博士が指摘するように、カーボンクレジットを購入してオフセットすることだけを頼りにせず、二酸化炭素排出量を削減することを基本に、パンゲアのように環境に配慮した取り組みを行う企業を応援していくべきではないだろうか。また、自分自身の消費行動やライフスタイルを見直して、カーボンニュートラル化していくことも、ぜひ考えてほしい。
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