未来から逆算するバックキャスティングとは 言葉の意味やフォアキャスティングとの違い

壁際のデスクに置かれたデスクトップ型のパソコン

Photo by Alesia Kazantceva on Unsplash

SDGsやサステナビリティが広まるいま、注目されるのがバックキャスティングである。これは具体的にどのような思考法で、どういったメリットを持つのだろうか。サステナビリティとの関連性や具体的な実践方法、バックキャスティングを活用した成功事例を紹介する。

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2022.05.31
目次

バックキャスティングとは その言葉の意味と基礎知識

バックキャスティングとは、未来の理想像をもとにして、いま必要な行動を導き出すフレームワークを意味している。まず未来の姿を思い描き、そのためには何が必要なのかを、逆算して考えていく思考法だ。

バックキャスティングの特徴は、現在の状況からかけ離れたゴールを見据え、いま何をするべきかを考えるという点にある。一般的な思考法で限界を迎えたときや、いま自分が何をするべきかがわからなくなったときに、思考の限界を突破できる可能性を秘めているのだ。

我々が解決すべき課題のなかには、不確実性が高いものが多い。正解の存在しない課題に対して、何をどう取り組むべきか悩むことがあるだろう。こうした場面で役に立つのがバックキャスティングであるので、ビジネスの推進や各種社会問題の解決に向けた思考法として注目を集めている

フォアキャスティングとの違い

バックキャスティングと反対の意味を持つ言葉が、フォアキャスティングである。フォアキャスティングの特徴は、現状分析や過去のデータから未来を予測し、解決策を探っていくという点にある。つまり、起点となるのは「現在」である。

フォアキャスティングは古くから用いられてきた一般的なフレームワークであり、多くの企業で使われている。たとえば、今期の売上実績から来期の仕入れ量を予測するのは、フォアキャスティングだ。とはいえ、この方法では、現在からかけ離れた未来には到達しづらいというデメリットがある。

もともと一般的に行われていたフォアキャスティングの壁を突破するために、新たに注目されるようになったのがバックキャスティングと言えるだろう。

サステナビリティやSDGsとの関係性

近年、バックキャスティングが注目されている理由の一つが、サステナビリティ(Sustainability:持続可能性)である。これを謳うSDGsは、言うまでもなく世界全体のトレンドだ。不確実性が高まる世のなかにおいて、サステナビリティを意識した経営路線に切り替える企業が増えてきている。

SDGsやサステナビリティの基本は、バックキャスティングの思考によってつくられたものだ。「将来あるべき姿」を示したうえで、国や企業、個人が「いま、そのために何ができるのか?」を考え、実行に移すという取り組みになっている。バックキャスティング的思考が、ごく当たり前に求められているのだ。

SDGsやサステナビリティに対する注目度が上昇しているいま、「見せかけだけのサステナビリティ」を行っていると判断されれば、その企業は社会的に大きなダメージを受けるだろう。企業が目標達成に向けて、価値ある行動を取り続けていくためには、バックキャスティングが欠かせないのだ。

バックキャスティングの進め方

では、バックキャスティングとはどのように進めていくべきものなのだろうか。具体的には、以下の4つのステップを意識しよう。

1. 目標とするビジョンを具体的に思い描く。
2. 現在の状況を可視化し、今後の課題と可能性を挙げる。
3. 2で挙げた課題と可能性をもとに、必要なアクションプランを挙げる。
4. いつ、どのアクションを実践するべきか、時間軸を意識して整理する。

もちろんこれらのステップは、1から4に順に進むだけでなく、何度もステップを行来きすることがあるだろう。たとえば、4のステップで「この時期に○○するためには、△△が足りていない」とわかるケースがあるはずだ。この場合、2や3のステップに戻って検討する必要がある。

また、アクションプランを挙げる際には、System(ビジネスモデルや社会システムなど)、Value(価値観や意識、教育など)、Technology(ITツールや技術、そのためのプロセスなど)の3つの観点から整理するのがおすすめだ。アクションプランの趣旨が偏らず、幅広い内容のアプローチが可能となるだろう。

バックキャスティングのメリットとデメリット

バックキャスティングには、メリットもあればデメリットもある。その両者を意識して実践しよう。

メリットは新たなアプローチ法の発見

バックキャスティングのメリットは、正解のない問題にもアプローチできる点だ。現代社会においては、簡単には解決できない問題が多く見られる。しかし、従来のフォアキャスティングでは不可能であったアプローチが、バックキャスティングであれば可能になるのだ。

また、フォアキャスティングよりも自由な発想が生まれやすいという点も、バックキャスティングのメリットと言えるだろう。自然と目標は高くなり、その達成ための意識向上や技術革新も期待できる。

デメリットは現実離れの恐れ

一方で、バックキャスティングにも欠点はある。その一つが、常に実現可能とは限らないという点だ。思考の自由度が高いバックキャスティングでは、目標そのものやそのためのアクションが現実離れしたものになってしまう恐れがある。わざわざ目標を立てたにもかかわらず、成果を得られない可能性があるのだ。

また、バックキャスティングの思考は、短期的に解決したい問題には向いていない。さらに、多人数で目標達成に向けて取り組む場合には、最初にメンバー間でしっかりと意識共有できるかどうかが、成功の鍵を握る。共有度によって成果が変わってくる点も、デメリットと言えるだろう。

バックキャスティングの事例

バックキャスティングは、実際にどのように活用されているのだろうか。3つの事例を紹介する。

1. トヨタ自動車株式会社

トヨタ自動車が2015年に打ち出したのが、「トヨタ環境チャレンジ2050」である。これは、地球が抱えているあらゆる環境問題に対してバックキャスティングの考え方を活用し、車がもたらすマイナスの影響を限りなくゼロに近付け、プラスの影響へと転換するための目標だ。

トヨタ自動車では、目標達成のために6つの取り組みを実施している。そのなかには、2050年の新車平均CO2排出量を2010年比の90%を削減するチャレンジや、人と自然が共生する未来づくりへのチャレンジなどが含まれている。(※1)

2. 三菱電機

過去にパソコン事業や携帯電話事業からの撤退を経験している三菱電機も、バックキャスティングをうまく活用した企業である。2007年に、2021年での目標達成を見据えた「環境ビジョン2021」を策定。3年ごとに環境計画を立案し、「低炭素社会の実現への貢献」を重要事項として経営方針を定めてきた。その課題解決に向けた事業を、いくつも軌道に乗せている。

その後、新たな中長期経営基本戦略「KAITEKI Vision 30」を策定。これは2050年の自社のあるべき姿をイメージしたうえで、そのためには2030年までに何をするべきかという、バックキャスティング思考に基づいてつくられている。(※2)

3. 富士フイルムホールディングス

医療やヘルスケア分野において、存在感を示し続ける富士フイルムホールディングス。その成功の裏には、長い歴史の中で習慣化されたバックキャスティングがある。

成長著しい分野だからこそ、3~5年後の変化を自社自ら分析。顧客のニーズを見極めたうえで戦略的に事業を育成することで、自社の成長につなげてきた。近年注目されている同社のバイオCDMO事業も、バックキャスティングから生まれたものだ。

新たなアイデアを生み出す手がかりに

不確実性が高まるいまの世の中、「あいまいな問題に対して、どう向き合うべきか?」と悩む企業が多いのではないだろうか。このような場面で役立つのが、バックキャスティングである。この新たなフレームワークで、未来を見据えた斬新なアイデアを生み出そう。

もちろんバックキャスティングにもデメリットはあるが、その活用を成功につなげている企業が多いのは事実である。今回ご紹介したステップを参考に、ぜひ新たな思考法を取り入れてみてほしい。

※掲載している情報は、2022年5月31日時点のものです。

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