ロンドン条約成立の背景とは 改定ポイントからその後に与えた影響まで

空から撮影したロンドンの街並み

Photo by Benjamin Davies on Unsplash

ロンドン条約とは、1972年に採択された海洋汚染防止のための国際条約である。50年も前の条約だが、複数回の改正が行われ、いまなお我々の生活に深く関わっている。ロンドン条約と改定についてまとめるとともに、発効後に与えた影響について解説しよう。

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2022.02.28
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目次

ロンドン条約とは

ロンドン条約とは、1972年12月に採択された、海洋汚染防止に関する条約である。その正式名称は「Convention on the Prevention of Marine Pollution by Dumping of Wastes and Other Matter」。日本語に訳すと「採択廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約」である。

条約の目的は、海洋投棄による海洋の汚染を防止することであった。海の環境を守るため、海洋投棄される廃棄物を3つに分類し、それぞれを適切に処理するよう各国に求めたのがロンドン条約である。

1972年のロンドン条約採択後、1975年に15カ国の批准国到達を受け正式に発効。日本は1980年10月に条約を締結し、1980年11月に国内発効した。時代とともに、海洋汚染防止に対する意識は向上し、これまでに複数回の改正や強化が行われている。(※1)

ロンドン条約成立の背景にあった国際意識の高まり

ロンドン条約が成立するまでの背景には、海洋汚染に対する国際的な意識の高まりがあった。第二次世界大戦以降、世界のさまざまな国において、軍事目的・商業目的での核開発が進行。経済発展の影響もあり、増加したのが、核廃棄物を含む大量の廃棄物である。国際的な取り決めがなかった当時、船や航空機から、海に廃棄するケースも多かったのだ。

こうした状況を解決するため、必要になったのが海洋投棄による海洋汚染を防止するための国際的なルールである。有害物質の海洋投棄が、将来的に深刻な海洋汚染をもたらさないよう定められたのが、ロンドン条約なのだ。

ロンドン条約によって定められた海洋汚染防止のためのルールは、現代を生きる我々の生活にも、深く影響している。歴史的な意味においても、極めて重要な条約と言えるだろう。

ロンドン条約で定められた内容とは

1972年の条約採択当時の内容は、単純に海洋投棄による海洋汚染を防止するためのものであった。海洋投棄のルールを明確化するため、大量の廃棄物を以下の3つに分類。それぞれに対して適切な処置を求めたのだ。

・投棄禁止の廃棄物など
・事前の特別許可を要する廃棄物など
・事前の一般許可を要するその他すべての廃棄物など

投棄禁止の廃棄物に指定されたのは、有機ハロゲン化合物や水銀および水銀化合物、カドミウムや産業廃棄物、放射性廃棄物といった有害廃棄物である。ヒ素やベリリウムを相当量含む廃棄物や、鉛、漁労や船舶航行時に障害になるような巨大廃棄物の投棄には、事前の特別許可が必要になった。また、その他すべての廃棄物においても、事前の許可が必要になった点が特徴と言えるだろう。

とはいえ、海の環境を守るためには、当初のルールのみでは不十分であった。なかでも国際的な注目を集めたのが、放射性廃棄物の取り扱いについてである。1972年の条約で投棄が禁止されたのは、高レベル放射性廃棄物のみ。低レベル放射性廃棄物であれば海洋投棄が可能であり、実際に投棄が国際問題へと発展するケースもあった。

こうした問題を受け、1993年に開催された会議では、附属書の改正が行われた。既存ルールに加え、さらなるルールを追加するためだ。改正によって、廃棄禁止対象は「放射性廃棄物およびその他の放射性物質」へと拡張。すべての放射性廃棄物の、船舶などからの廃棄が禁止された。(※2)

96年議定書の主な改定点は「リバース・リスト」

ロンドン条約は、1996年にも大きな変更が加えられている。発行された議定書の正式名称は、「1996 Protocol to the Convention on the Prevention of Marine Pollution by Dumping of Wastes and Other Matter, 1972」。日本語では「1972年の廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約の1996年の議定書」と言う。

ロンドン議定書で大きく変更になったのは、以下の2点である。

・船舶などからの廃棄物の海洋投棄が原則として禁止されたこと
・廃棄物の海洋における焼却が禁止されたこと

1972年の条約が、対象を指定したうえで投棄禁止にしていたのに対し、96年の議定書においては、「投棄が検討できるもの」が示される形に変更された。つまり「特別に認められたもの以外は、どのようなものであれ投棄禁止」になったわけだ。また、洋上焼却が禁止された点も、大きな変更点である。

ちなみに、海洋汚染について近年注目される「汚れたプラスチックごみ」は、ロンドン議定書で示された「投棄が検討できるもの」リスト(リバース・リスト)には含まれていない。条約改正により、「海洋投棄が禁止される廃棄物」に指定されている。

ロンドン条約が与えた影響とは

ロンドン条約およびロンドン議定書の成立・発効によって、世のなかにはさまざまな変化が生まれた。ロンドン条約が成立するまでは、廃棄物の海洋投棄は、ごく一般的に行われていた。

大きな廃棄物も、海底に沈んでしまえば見えなくなる。また、有害物質も大量の水によって薄められると考えられていたためだ。しかし、条約成立によって状況は一変。別の廃棄物処理方法を検討する必要が生じたのだ。

とはいえ、人々の意識がそう簡単に変わったわけではない。プラスチックごみによる海洋汚染問題は、一人ひとりの意識が変わり切れていない証拠と言えるだろう。こうした状況を受け、2019年にはバーゼル条約が改正。汚れたプラスチックごみの国境を越えた移動に、制限が加えられることになった。バーゼル条約については、以下のコラムを読んでみてほしい。

また日本においても、ロンドン条約およびロンドン議定書が持つ意味は、極めて大きい。2011年に発生した東日本大震災において、甚大な被害を受けた福島原発。その後、放射性廃棄物である大量の処理水が発生した。

日本は2021年に、陸上からの海洋投棄を決定している。日本は「陸上からの投棄は、海洋からの投棄を禁止するロンドン条約およびロンドン議定書の適用対象には当たらない」という立場を表明した。しかし、国際社会における見方は厳しく、今後も議論が重ねられていくだろう。(※3)

※掲載している情報は、2022年2月28日時点のものです。

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