オープンイノベーションを推進する「リビングラボ」 日本と世界の事例とは

机上のロボットを操作する二人の女性

Photo by ThisisEngineering RAEng

近年、日本でも注目されるリビングラボ。その歴史や言葉の意味、メリットやデメリットを解説しよう。我々が直面する社会的課題を解決するためには、さまざまなオープンイノベーションが求められている。リビングラボの、日本と世界における事例も紹介する。

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2021.12.31

リビングラボとは

リビングラボは、「各種イノベーションには、実際に生活を営む人の当事者視点が欠かせない」という理論から生まれたオープンイノベーションのプラットフォーム(場)、そして活動のことである。この理論を基に、生活の場(リビング)を実験場(ラボ)とし、オープンイノベーションを実践することを意味している。

リビングラボを行うときに中心となるのは、市民およびユーザーである。そこにさまざまな団体・企業・行政などが関わり合って、新たなイノベーションの創出を目指していく。これまで企業がユーザーの声をくみ取るために行っていた「ユーザーテスト」と同じようなものである。とはいえこれは、あくまでも企業主導のものであり、必ずしもユーザーの使用や生活実態に沿ったものではなかった。

リビングラボでは、市民やユーザーが各自のニーズや企画の発信や、問題点の追求、テストなど、あらゆるステップにおいて中心的な役割を担う。また、意見を伝えるだけではなく、実際に活動しながらイノベーションを目指す点も特徴の一つだ。

リビングラボの基となる考え方が生まれたのは、1980年代後半のことだと言われている。欧州やアメリカで一般化し、さまざまなオープンイノベーションが提唱された。一方で日本においては、他者との連携に抵抗感を示す企業も多く、あまり注目されてこなかったという事情がある。(※1)

とはいえ、新たな価値を生み出すためには、あらゆる視点が必要不可欠である。子育て支援や高齢化、街づくりなど、さまざまな社会的課題が多く指摘されているいまだからこそ、リビングラボが果たす役割は極めて大きいと考えられている。

リビングラボのメリット

リビングラボには、メリットもあればデメリットもある。まずはメリットについて見ていこう。

行政や企業にとっては、リビングラボによって市民やユーザーの本音やニーズをより丁寧にくみ取れるというメリットがある。市民やユーザーが実生活の中でどのような不満を抱いているのかは、行政や企業からは見えづらいものだ。リビングラボでは、このような意見をダイレクトに収拾できるため、行政や企業にとっては削減にもつなげられるだろう。

企業にとっては、ユーザーとのコミュニケーションによって双方の距離を縮められるというメリットが期待できる。また、ユーザー側の隠れたニーズの発掘により、新たな商品開発のヒントを得ることもできるだろう。リビングラボを通じてユーザーとのつながりが生まれれば、今後の企業活動においてさまざまなメリットが期待できる。

市民やユーザーにとっては、自身のニーズを直接行政や企業に伝えられるほか、新たな交流が生まれる点もメリットと言えるだろう。子育て支援を目的にしたリビングラボであれば、子育て中の世帯同士のつながりも持てる。リビングラボそのものが、地域交流活性化の鍵となるのだ。

リビングラボのデメリット

一方で、リビングラボにもデメリットはある。参加者が多く、関係性が複雑化すれば、明確な結論を得るのは難しくなるだろう。また、常にイノベーションが起きるとは限らない。仮にイノベーションが起きたとしても、その権利を誰が保有するのかで、もめる可能性もあるだろう。

また、多くのオープンラボで指摘されているのは、「市民・ユーザーの参加をどう促していくのか」という課題だ。市民やユーザーはリビングラボの中心を担う存在である。しかし実際には、参加者を集めるのが容易ではない。市民やユーザーに主体的に活動してもらうためにはどのような工夫をするべきか、行政や企業が悩むケースも多く見られる。

【国外・国内】リビングラボの事例

リビングラボについてより深く知るため、具体的な事例について紹介しよう。国外・国内それぞれに、3つの事例を紹介する。

ラウレア・リビングラボ

フィンランドのリビングラボで、ビジネスの持続可能な方向性とサービスシステムの発展を目指している。このリビングラボでは、一般のユーザーや消費者が開発者となる。新たな視点で専門知識を生み出し、アクティブ・ライフ・ビレッジやバー・ラウレアなどを運営している。(※2)

ヘルスケアリビングラボ・カタルーニャ

スペイン北東部に位置するカタルーニャ地方の、健康と社会の課題に特化したリビングラボ。さまざまなリビングラボを結合させ、新たなイノベーションを生み出すことを使命としている。医療機器や体外診断、最新のデジタルヘルスなどのさまざまな技術について、実生活の中でテストや課題の発見、アドバイスを行う。(※3)

ブリストル・リビングラボ

このリビングラボは、イギリスにおいて20年以上の活動実績を誇っている。リビングラボには市民や企業、公共機関のほか、アーティストや技術者が集い、そこで地域課題の解決に向けた取り組みを行う。貧困家庭の社会的排除を解決するための取り組みや、アートやメディアを使った課題解決に向けた取り組みが注目されている。(※4)

鎌倉リビングラボ

このリビングラボは、鎌倉市民や鎌倉市今泉台町内会、NPO法人タウンサポート鎌倉今泉台が中心となって、高齢化が進む鎌倉今泉台エリアが抱える課題の解決に向けて、活動している。テレワークの推進によって、若者にも注目されるような家具づくりに取り組んだ。(※5)

横浜のリビングラボ

横浜市内では10地区以上で、各地域の実情に合わせたリビングラボが展開されている。子どもの教育や女性の活躍、空き家の活用など、それぞれの視点で議論や取り組みが行われている。リビングラボの活動によって、空き家の地域活用や防災拠点化、女性のビジネス成功支援など、幅広いプロジェクトを実現させた。(※6)

介護ロボットの開発・実証・普及のリビングラボ

少子高齢化の中で、需要が高まる介護ロボット。その開発・普及を加速させる目的で設立されたのが、厚生労働省の事業として行われているこのリビングラボだ。このリビングラボを全国の8カ所に設置し、介護ロボットの製品評価や効果検証、実証時の助言などを行っている。(※7)

地域活性化には市民の積極参加が必要

日本でも、ようやく広がりつつあるリビングラボ。我々が直面する課題や問題は、生活の場にこそ生まれるもの。そこに生まれた課題や問題をダイレクトに行政や企業に届け、そこからすぐに解決していける点が、リビングラボの最大のメリットだと言えるだろう。

リビングラボの取り組みがうまくいけば、市民や行政、ユーザーや企業など、さまざまな立場の人々が協力し合い、地域活性化につなげていける。我々の生活をより良くするためのイノベーションも生まれてくるはずだ。もちろん、リビングラボの運営には、さまざまな課題が指摘されてもいる。まずは小さな課題から解決して、実績を積んでいく必要があるだろう。

リビングラボの取り組みを軌道に乗せるためには、市民やユーザーによる積極的な参加が必須である。日本でも多くのリビングラボが活動をスタートさせているいまだからこそ、ぜひ身近な取り組みに注目してみてはどうだろうか。

※掲載している情報は、2021年12月31日時点のものです。

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